表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/16

第5話「陰謀の影」

翌朝、訓練場に集合したパーティメンバーたちの前で、クロード騎士団長が任務を告げた。


「今回の任務は、北の森の魔物討伐だ」


その言葉に、リオンが眉をひそめる。


「北の森、ですか? 昨日の報告では東の街道警備と……」


「変更になった」


クロードは硬い表情で言う。


「魔物の目撃情報が相次いでいる。至急対応が必要だ」


エリシアが腕を組む。


「随分と急な変更ですわね」


「文句があるのか、エリシア」


「いいえ」


彼女は冷たく言い放つ。


「任務は任務。遂行するまでですわ」


「よし。では出発準備を——」


クロードの言葉が終わる前に、俺は手を上げた。


「質問っす!」


「……なんだ」


「どんな魔物が出るんすか?」


「オーガとの報告だ」


「人数は?」


「二体から三体程度だろう」


俺は頷く。


「了解っす! やってやるっすよ!」


「グロッグ……」


ミーシャが不安そうな目で見てくる。


だが俺は笑顔を返した。


昨日の話を、気にしてるんだろう。


でも——


「心配すんなって!」


「大丈夫っすから!」



北の森に到着したのは、昼過ぎだった。


薄暗い木々の間を進みながら、ザックが呟く。


「妙だな……」


「どうしたんすか?」


「いや。魔物の気配がしねえ」


彼は周囲を警戒する。


「オーガが出るような場所なら、もっと痕跡があるはずだが」


「気のせいじゃないっすか?」


「だといいがな」


リオンも剣の柄に手をかけている。


「確かに静かすぎる。警戒を怠るなよ」


「はいはい」


俺は軽く返事をする。


だが、内心では緊張していた。


ミーシャの言葉が、頭の片隅に残ってる。


『陰謀』


まさか、とは思うけど——


その時だった。


「みんな、伏せろ!」


エリシアの声が響く。


反射的に身を低くした瞬間、頭上を火球が通過した。


「なっ!?」


「敵襲っす!?」


森の奥から、複数の影が現れる。


オーガじゃない。


もっと厄介な——


「ワイバーンだと!?」


リオンが叫ぶ。


飛竜種。


空を飛び、強力なブレスを吐く。


オーガなんかより、遥かに危険な相手だ。


「クソッ! 話が違うぞ!」


ザックが舌打ちする。


「オーガって聞いてたのに、なんでワイバーンが!」


「理由は後っす!」


俺は剣を構える。


「今は戦うっす!」


ワイバーンが三体。


低空から突っ込んでくる。


俺は地面を蹴った。


「せいやぁぁっ!」


飛び上がり、一体目に斬りかかる。


だが——


「硬ぇっ!?」


鱗が刃を弾く。


ワイバーンの鱗は、オーガの皮より頑丈だ。


「チッ……ならっ!」


体勢を立て直し、首を狙う。


だが相手も飛竜。


空中で身をひねり、回避した。


「くそっ!」


「グロッグ、下がれ!」


エリシアの声。


見ると、彼女が魔法陣を展開している。


「炎よ、穿て——フレイムランス!」


炎の槍が、ワイバーンを貫く。


悲鳴を上げて、一体が地面に落ちた。


「ナイスっす、エリシア!」


「礼はいいから、さっさと片付けなさい!」


「了解っす!」


落ちたワイバーンに駆け寄る。


剣を振り上げ——


「終わりっす!」


首を刎ねた。


血が噴き出す。


一体目、撃破。


だが残り二体。


そして——


「グロッグ、上だ!」


リオンの警告。


見上げると、ワイバーンが口を開いている。


ブレスだ。


「うおおっ!」


横に飛んで回避。


地面に炎が着弾し、爆発する。


「危ねえっ!」


「ミーシャ! 援護を!」


「了解!」


彼女が矢を放つ。


魔力を纏った矢が、ワイバーンの翼に命中。


バランスを崩し、高度が下がる。


「今っす!」


俺は地面を蹴って、跳躍。


ワイバーンの背中に飛び乗った。


「落ちろぉぉっ!」


剣を首に突き刺す。


深々と。


ワイバーンが絶命し、墜落。


地面に叩きつけられる衝撃。


「っ……痛ぇ」


だが、まだ一体。


最後のワイバーンが、俺に向かってくる。


口を開き——


ブレス。


「やべっ!」


避ける暇がない。


だが——


「させるか!」


リオンが割り込んできた。


剣を掲げ、ブレスを受け止める。


「リオン!?」


「早く倒せ、グロッグ!」


彼は歯を食いしばる。


「お前なら……できるだろう!」


その言葉に、俺は頷く。


「……サンキューっす」


剣を構える。


ギフト『ソードマスター』


全ての剣技を、極めし力。


「行くっすよ……」


深呼吸。


魔力を込める。


そして——


「斬岩剣っ!」


一閃。


見えない刃が、空気を裂く。


ワイバーンの胴体に、亀裂が走る。


次の瞬間。


真っ二つになって、崩れ落ちた。


「……終わったっす」


俺は息を吐く。


全身が汗まみれだ。


「おい、グロッグ」


ザックが駆け寄ってくる。


「大丈夫か?」


「なんとか、っす」


「リオンは?」


「こっちも問題ない」


リオンが剣を鞘に収める。


だが、その表情は険しい。


「それより……これは明らかにおかしい」


「でしょうね」


エリシアが言う。


「オーガの討伐依頼で、ワイバーンが出現」


「しかも三体」


「偶然とは思えませんわ」


ミーシャが不安そうに言う。


「ねえ……これって」


「ああ」


リオンが頷く。


「意図的だ」



王宮に戻り、報告を終えた俺たちは会議室に集まった。


エリシアが資料を広げる。


「調べてみましたわ」


「今回の任務変更について」


彼女は冷たい目で続ける。


「依頼を出したのは、レイモンド子爵」


「王宮の保守派貴族の一人ですわ」


「レイモンド……」


リオンが眉をひそめる。


「あの男か」


「知ってるんすか?」


「ああ。魔物種族を蔑視する発言で有名な男だ」


「つまり……」


ミーシャが震える声で言う。


「グロちゃんを……殺そうとしたの?」


「恐らくは『事故死』を装うつもりだったのでしょうね」


エリシアは冷静に分析する。


「ワイバーンの討伐に失敗し、オークの勇者が死亡」


「そうなれば、彼らの主張が正しかったことになる」


「クソッ……」


ザックが拳で机を叩く。


「許せねえな」


「だが、証拠がない」


リオンが言う。


「依頼の内容が変更されたのは事実だが、それだけでは——」


「じゃあ、どうすんすか」


俺は尋ねる。


「このまま、泣き寝入りっすか?」


「……父上に相談してみる」


リオンは立ち上がった。


「クロード騎士団長なら、何か手があるかもしれない」



だが——


「証拠がない以上、動けん」


クロードの返答は、冷たかった。


「父上!」


リオンが食い下がる。


「しかし、これは明らかに——」


「明らかだからこそ、証拠が必要なのだ」


クロードは厳しい目で言う。


「貴族を告発するには、確固たる証拠がいる」


「でなければ、逆に我々が罪に問われかねん」


「それは……」


リオンは言葉に詰まる。


俺は、静かに部屋を出た。



夜。


訓練場に一人で立つ。


月明かりだけが、地面を照らしている。


「はぁ……」


溜息が出る。


陰謀、か。


正直、舐めてた。


異世界に転生して、最強のギフトを手に入れて。


実力があれば、なんでもうまくいくって。


そう思ってた。


でも——


「甘かったっすね……」


呟く。


実力だけじゃ、どうにもならないこともある。


政治。


派閥。


権力。


そういうものが、俺を殺そうとしている。


「くそ……」


拳を握る。


だが——


『俺が諦めたら、他のオークたちにも希望がなくなる』


ミーシャの言葉を思い出す。


俺は、ただの俺じゃない。


オークで初めての勇者。


その意味は、俺が思ってたより重い。


「諦めるわけには、いかねえっすよね」


剣を抜く。


月光が刃を照らす。


「やってやるっす」


「何があっても」


その時だった。


「グロッグ」


声がする。


振り向くと——


リオン、エリシア、ミーシャ、ザック。


パーティメンバー全員が、そこにいた。


「みんな……」


「勘違いするな」


リオンが言う。


「お前を助けに来たわけじゃない」


「えっ」


「俺たちは——」


彼は剣を抜く。


「お前と戦うために、ここにいる」


「お前を勇者として認めたから、戦う」


エリシアも杖を構える。


「負けるつもりはありませんわ」


「あたしも!」


ミーシャが弓を掲げる。


「グロちゃんと一緒に戦う!」


「オレもだ」


ザックがニヤリと笑う。


「お前を見捨てるほど、冷たくねえんだよ」


俺は——


「みんな……」


目頭が熱くなる。


「ありがとう、っす」


「礼はいらん」


リオンが言う。


「ただし、手加減はしないぞ」


「望むところっす!」


俺は笑顔になった。


そうだ。


俺は一人じゃない。


仲間がいる。


「じゃあ……やってやりますか!」


剣を構える。


みんなも、構える。


月明かりの下で——


俺たちは、誓った。


どんな陰謀にも、負けないと。



翌朝。


王宮から、通達が来た。


「公開演習試合?」


俺は書類を見る。


「なんすか、それ」


「国民の前で、勇者候補たちの実力を披露する催しですわ」


エリシアが説明する。


「年に一度行われる、伝統行事」


「へー」


「だが……」


リオンが眉をひそめる。


「今年はまだ半年も先のはずだ」


「それが急遽、来月に前倒しになったそうですわ」


エリシアの目が鋭くなる。


「提案したのは——」


「レイモン子爵、っすか?」


「ご明察」


彼女は書類を置く。


「つまり、これが次の手」


「人前でお前を恥をかかせ、勇者の座から引きずり降ろすつもりでしょうね」


「なるほどー」


俺は頷く。


「前回は殺そうとして、今回は恥をかかせる、と」


「グロッグ……」


ミーシャが心配そうに見てくる。


だが俺は、笑った。


「いいっすね!」


「え?」


「いい機会じゃないっすか」


剣を掲げる。


「人前で、俺の実力を見せつけてやるっす」


「オークの勇者が、どれだけ強いか」


「思い知らせてやるっすよ!」


リオンが、小さく笑う。


「相変わらず、前向きだな」


「それがグロッグっすから!」


「よし」


彼は剣を抜く。


「ならば、俺たちも全力で挑むぞ」


「お前を勝たせるわけにはいかんからな」


「望むところっす!」


俺も剣を構える。


公開演習試合。


来月。


全国民が見守る中で——


俺は、勝つ。


そして証明してやる。


オークでも、勇者になれるって。


「行くぞ、みんな!」


「おう!」


声が、訓練場に響く。


戦いは、これからだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ