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第4話 「パーティの日常」

朝日が窓から差し込む。


俺——グロッグ・ブレイドハートは、勇者パーティの詰所で目を覚ました。


「はあ……」


昨夜見た、あの影。


貴族派閥の陰謀。


頭から離れない。


だが——


「考えても仕方ねえっすね」


俺は立ち上がった。


今日は初任務の日。


実力で黙らせてやるしかない。



「おはようございます、グロッグ殿」


詰所の食堂で、リオンが声をかけてくる。


相変わらず堅い口調だが、敵意は感じない。


「おっす、リオン」


「今日の任務は把握していますか?」


「ゴブリン討伐っすよね」


俺は頷く。


近隣の村で、ゴブリンの群れが出没しているらしい。


収穫期を前に、村人たちが困っている。


「地味な依頼ですわね」


エリシアが紅茶を啜りながら呟く。


「私たちほどの実力者が、ゴブリン如きに」


「でも大事な仕事っすよ」


俺は言った。


「村の人たちが困ってるんすから」


「……そうですわね」


エリシアは少し驚いたような顔をする。


そこへ、ミーシャが飛び込んできた。


「おはよー、みんな!」


「騒がしいぞ、ミーシャ」


ザックが苦い顔をする。


「いいじゃん、元気があって! ねえ、グロちゃん!」


「グロ……ちゃん?」


俺は思わず聞き返す。


「うん、グロちゃん! 呼びやすいでしょ?」


ミーシャは屈託なく笑う。


ハーフエルフの彼女は、差別された経験があるからか、俺に対しても妙にフレンドリーだ。


「まあ、いいっすけど」


「決まりね!」


リオンが咳払いをした。


「では、出発しよう。村まで半日の道のりだ」



村への道は、穏やかだった。


草原を抜け、森を通る。


道中、ミーシャが俺の隣を歩いている。


「ねえねえ、グロちゃん」


「ん?」


「オークって、普段何食べてるの?」


「肉っすかね。まあ、人間と大差ないっすよ」


「へー。じゃあ、甘いものとか好き?」


「好きっす! 特にプリン」


「プリン! 意外!」


ミーシャは目を輝かせる。


「オークってもっと、こう……獰猛なイメージあったから」


「偏見っすね」


俺は笑う。


「まあ、確かに野蛮なオークもいるっすけど。俺は転生者っすから」


「そっか。でもさ」


ミーシャは真面目な顔になる。


「グロちゃんって、意外と優しいよね」


「え?」


「だって、さっき村人のこと気にかけてたし。普通の勇者って、もっと自分の手柄ばっかり考えるもん」


「そんなもんすかね」


俺は照れくさくなる。


「俺は……まあ、人助けがしたくて勇者やってるんで」


「うん。それ、すごくいいと思う」


ミーシャは笑顔で頷いた。


前を歩くエリシアが、ちらりとこちらを見る。


何か言いたげだが、すぐに前を向いた。



村に到着したのは、昼過ぎだった。


「勇者様!」


村長が駆け寄ってくる。


だが——


俺の姿を見て、固まった。


「お、オーク……?」


「はい、勇者のグロッグっす」


「オークが……勇者……?」


村長は困惑している。


まあ、無理もない。


「大丈夫です、村長殿」


リオンが前に出る。


「彼は正式に認められた勇者です。実力は保証します」


「は、はあ……」


村長は納得していない様子だが、それ以上は言わなかった。


村の中を歩くと、子供たちが駆け寄ってくる。


「わあ、勇者様だ!」


「すごーい!」


だが——


俺の姿を見た途端、悲鳴が上がる。


「オークだ!」


「怖い!」


「お母さーん!」


子供たちは一斉に逃げ出した。


「……」


胸が、ちょっと痛む。


「気にするな、グロッグ」


ザックが肩を叩いた。


「ガキは正直なだけだ」


「わかってるっすよ」


俺は笑顔を作る。


「仕事、しましょう」



ゴブリンの巣は、村の外れの洞窟にあった。


「数は20匹程度か」


リオンが剣を抜く。


「私が魔法で援護しますわ」


エリシアが杖を構える。


「じゃあ、行くっすよ!」


俺は洞窟に突入した。


ゴブリンたちが一斉に襲いかかってくる。


「ギャアアア!」


「遅いっす!」


俺は剣を振るう。


一閃。


三匹のゴブリンが吹き飛ぶ。


「アイスランス!」


エリシアの魔法が炸裂する。


氷の槍がゴブリンを貫く。


「俺も負けてられねえ!」


リオンが斬り込む。


正確な剣技で、次々とゴブリンを倒していく。


「回復、準備しとくぞ!」


ザックが後方で待機する。


「任せてー!」


ミーシャの矢が、正確にゴブリンの急所を射抜く。


あっという間に、全滅だった。


「……強いな、君たちは」


俺は仲間たちを見る。


「当然ですわ。エリート勇者パーティですもの」


エリシアが得意げに言う。


「でも、グロッグも強かったぞ」


リオンが認める。


「あの初撃、見事だった」


「まあ、悪くねえ働きだったぞ」


ザックがぶっきらぼうに言う。


これ、褒めてるのか?


「グロちゃん、すごかったよ!」


ミーシャが笑顔で駆け寄る。


「ありがとうっす」


俺も笑顔で応える。


少しずつ、仲間として認められてきた気がする。



村に戻ると、村長が深々と頭を下げた。


「ありがとうございます、勇者様方!」


「いえいえ」


俺は手を振る。


すると——


さっき逃げた子供たちが、恐る恐る近づいてくる。


「あの……」


「ん?」


「ありがとう、オークのお兄ちゃん」


子供が笑顔で言った。


「怖かったけど……助けてくれて、ありがとう」


「……!」


胸が熱くなる。


「どういたしましてっす」


俺はしゃがんで、子供の頭を撫でた。


「また困ったことあったら、呼んでくださいね」


子供たちは嬉しそうに頷く。


その様子を、エリシアが静かに見ていた。


「少しずつ、ですわね」


小さく、呟く。


その声には、わずかな温かみがあった。



王都に戻ったのは、夕暮れ時だった。


「お疲れ様でしたー」


ミーシャが伸びをする。


「今日の任務は成功だな」


リオンも満足そうだ。


「では、解散しましょう」


エリシアが言いかけた時——


「グロッグ様ああああ!」


甲高い声が響いた。


「え?」


振り向くと、オークの少女が全力疾走してくる。


グルーシャだ。


「グロッグ様、会いたかったですー!」


「うおっ!」


グルーシャは俺に飛びつく。


「ちょ、重い!」


「グロッグ様の筋肉、今日も素敵です!」


グルーシャはオーク語で叫ぶ。


「その牙の輝き! その眼光の鋭さ! ああ、惚れ惚れします!」


「……何を言っているんだ?」


リオンが困惑している。


「オーク語っすね」


俺は説明する。


「えっと……俺を褒めてるらしいっす」


「褒めて……?」


ミーシャが首を傾げる。


「どう見ても、普通のオークにしか……」


「オークの美的感覚は、人間と違うんすよ」


俺は苦笑する。


「俺、オークの中ではイケメンらしいっす」


「「「イケメン!?」」」


全員が驚愕の声を上げる。


「あ、ありえませんわ!」


エリシアが叫ぶ。


「どう見ても、ただの——」


「グロッグ様は超絶イケメンです!」


グルーシャが人間語で反論する。


「あなたたち人間には、この素晴らしさがわからないのですか!?」


「わからん……」


リオンが呟く。


「全く、わからん……」


「グロッグ様、今夜お時間は?」


グルーシャが目を輝かせる。


「ちょっとオーク街を案内したいんです! 素敵なお店があって——」


「今日は疲れてるんで、また今度っす」


俺は丁重に断る。


「そうですか……残念です」


グルーシャはしょんぼりする。


「でも、また来ますね!」


そう言って、彼女は去っていった。


「……何だったんだ、今の」


ザックが呆然としている。


「まあ、オーク界のアイドル的な?」


俺は適当に説明する。


「理解できませんわ……」


エリシアが頭を抱えた。



その夜。


俺は一人、詰所の廊下を歩いていた。


初任務、成功。


少しずつ、仲間にも認められてきた。


「順調っすね」


呟いた時——


廊下の影から、声が聞こえた。


「……オークの勇者など、やはり認められん」


「貴族派閥の意向だ。近々、正式に排除の動議が出される」


「王宮の威信のため、だ」


俺は息を呑む。


陰謀。


やはり、動いている。


足音が近づいてくる。


俺は慌てて物陰に隠れた。


黒いローブの男たちが、通り過ぎていく。


「……クソ」


拳を握る。


だが——


「実力で黙らせるしかねえっす」


呟いて、俺は自室に戻った。


明日も、全力で戦う。


それが、俺にできる唯一の答えだ。



翌朝。


訓練場で剣を振っていると、ミーシャが駆け寄ってきた。


「グロちゃん!」


「おっす、ミーシャ」


「あのね……」


彼女は周囲を見回す。


「昨日、変な話を聞いちゃったんだ」


「変な話?」


「貴族派閥が……グロちゃんを、勇者から追放しようとしてるって」


「……!」


俺は剣を止める。


「どこで聞いたんすか?」


「昨日の夜、廊下で。偶然、黒いローブの人たちが話してて……」


ミーシャは不安そうな顔をする。


「どうしよう、グロちゃん。このままじゃ——」


「大丈夫っす」


俺は笑顔を作る。


「俺には、実力がある」


「でも……」


「陰謀なんかに、負けねえっすよ」


拳を握る。


「俺は、オークの勇者っす」


「その名を、世界に刻んでやるっす」


ミーシャは少し驚いた顔をして——


それから、笑顔になった。


「うん! 私も応援するよ、グロちゃん!」


「ありがとうっす」


俺は再び剣を構える。


敵は、外だけじゃない。


内側にもいる。


だが——


「やってやるっす」


呟いて、剣を振り下ろした。


朝日が、刃を照らす。


戦いは、まだ始まったばかりだ。


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