第3話「認められた実力」
翌朝。
試験会場の地下に、ダンジョンへと続く巨大な扉があった。
魔法で作られた訓練用の迷宮らしい。
「各パーティ、準備はいいか!」
試験官の声が響く。
俺たちのパーティは五人。
エリシア、リオン、ミーシャ、ザック、そして俺。
全員が武器を構え、緊張した空気が流れる。
「……オークに後ろを任せるなど、悪夢ですわ」
エリシアが小声で呟く。
聞こえてるっすよ。
「大丈夫っす! 任せてください!」
俺は親指を立てる。
エリシアは鼻を鳴らして視線を逸らした。
「それでは——開始!」
扉が開く。
暗闇の中へ、俺たちは踏み込んだ。
◆
ダンジョン内部は薄暗く、松明の明かりだけが頼りだった。
石造りの通路が複雑に入り組んでいる。
「ミーシャ、索敵を」
リオンが指示を出す。
「了解!」
ミーシャが目を閉じ、集中する。
風の精霊を使った探知魔法らしい。
「……前方50メートルに魔物反応。中型が三体」
「よし。エリシア、魔法で先制を。俺とグロッグで前衛を務める」
リオンが剣を抜く。
「……わかりましたわ」
エリシアが杖を構える。
俺も剣を抜いた。
ギフト「ソードマスター」が体に染み込んでいる感覚。
どんな動きも、完璧に再現できる。
通路を進むと、魔物が現れた。
狼型の魔獣——ダイアウルフだ。
三体が唸り声を上げる。
「《火炎弾》!」
エリシアの魔法が炸裂する。
一体が吹き飛び、壁に激突した。
「行くぞ!」
リオンが突撃する。
俺も続く。
ダイアウルフが飛びかかってきた。
だが——遅い。
俺は剣を一閃。
完璧な軌道で、魔獣の首を斬り落とす。
「……っ!」
リオンが目を見開く。
残る一体をリオンが斬り伏せた。
「……速いな」
「ありがとうございますっす!」
俺は笑顔で応える。
エリシアとザックが複雑な表情でこちらを見ていた。
◆
ダンジョンを進む。
途中、いくつかの罠を解除し、魔物を倒していく。
俺の剣技に、徐々にパーティの空気が変わっていくのがわかる。
「グロちゃん、すごいね!」
ミーシャが素直に褒めてくれる。
「いやいや、まだまだっすよ!」
「……まあ、悪くねえ」
ザックも少しだけ笑う。
だが、エリシアとリオンはまだ警戒を解いていない。
無理もない。
オークへの偏見は、一朝一夕には消えない。
「……前方に大きな反応。これは——」
ミーシャの声が震える。
「どうした?」
「かなり強い魔物です。おそらく……ボスクラス」
全員が緊張する。
「試験のボスか。よし、慎重に行くぞ」
リオンが指示を出す。
俺たちは広間に踏み込んだ。
そこには——
「……嘘でしょう」
エリシアが呟く。
巨大な魔獣がいた。
全身が鋼のような鱗で覆われた竜種——アイアンドレイクだ。
体長は優に10メートルを超える。
「なんでこんなのが試験に!」
ミーシャが叫ぶ。
アイアンドレイクが咆哮する。
地面が揺れた。
「エリシア、魔法を!」
「《火炎槍》!」
エリシアの最大火力魔法が放たれる。
だが——
「効いてない!?」
魔法がアイアンドレイクの鱗に弾かれた。
「物理攻撃も通らないぞ!」
リオンの剣が鱗を滑る。
まずい。
これは本当にやばい。
アイアンドレイクが巨大な尾を振るう。
「危ない!」
俺は咄嗟にミーシャを庇う。
尾が俺の背中を直撃した。
「ぐあっ!」
吹き飛ばされる。
痛い。
めちゃくちゃ痛い。
「グロッグ!」
ミーシャが駆け寄る。
「大丈夫……っす……」
立ち上がる。
背中が痺れるが、動ける。
「ザック、回復を!」
「もう魔力が半分切ってる! このままじゃ——」
アイアンドレイクが再び攻撃を仕掛けてくる。
エリシアが防御魔法を展開するが、すぐに割れた。
「くっ……!」
全滅する。
このままじゃ。
待て。
落ち着け。
ソードマスターのギフトがある。
完璧な剣技を再現できる。
ならば——鱗の隙間を狙えばいい。
「みんな! 俺が何とかするっす!」
「何を言って——」
「任せてくださいっす!」
俺は剣を構え、アイアンドレイクに向かって走る。
「馬鹿な!」
リオンが叫ぶ。
だが、俺は止まらない。
アイアンドレイクが大きく口を開ける。
火炎のブレスが来る。
俺はギリギリまで引きつけて——跳ぶ。
ブレスをかわし、アイアンドレイクの首元に着地する。
鱗の隙間が見える。
ここだ。
俺は剣を突き立てる。
ソードマスターの完璧な一撃。
鱗の隙間を貫き、急所を捉える。
「ガアアアアッ!」
アイアンドレイクが悲鳴を上げる。
暴れる巨体。
俺は剣を引き抜き、さらに連続で攻撃を叩き込む。
一撃、二撃、三撃。
すべてが完璧な軌道で急所を貫く。
「——っ!」
アイアンドレイクが倒れる。
地響きとともに、動かなくなった。
「……や、った……っす……」
俺は剣を収める。
全身が汗でびっしょりだ。
◆
「……信じられませんわ」
エリシアが呆然と呟く。
「あの鱗を、一人で……」
リオンも驚愕の表情だ。
「グロちゃん、すごい! 超すごい!」
ミーシャが抱きついてくる。
「まあ、悪くねえ……いや、かなり良かったぞ」
ザックが素直に褒めてくれた。
「いやいや、みんなのおかげっすよ!」
俺は笑顔で応える。
本当だ。
みんながいたから、俺は戦えた。
その時、リオンが背後から襲ってくる気配に気づいた。
「——後ろ!」
まだ魔物がいた。
小型の魔獣が、リオンに飛びかかる。
「させねえっす!」
俺は咄嗅に体を動かし、リオンを庇う。
魔獣の爪が俺の肩を裂いた。
「ぐっ!」
だが、その隙にリオンが魔獣を斬り伏せる。
「……なぜ庇った?」
「だって、仲間っすから!」
俺は笑う。
痛みなんて、どうでもいい。
仲間を守れたなら。
「……っ」
リオンが何かを堪えるように目を伏せる。
「グロッグ、治療するぞ」
ザックが回復魔法をかけてくれる。
傷が塞がっていく。
「ありがとうっす、ザック」
「……礼には及ばねえ」
エリシアが杖を下ろし、こちらを見る。
その瞳には、もう蔑みはなかった。
「……実力は、認めますわ」
初めて、素直な言葉。
「ありがとうございますっす、エリシア!」
「調子に乗らないでくださいな。認めたのは実力だけですわよ」
そう言いながら、エリシアは少しだけ微笑んだ。
リオンが拳を差し出す。
「……お前は、本物だ」
「リオン……」
俺は拳を合わせる。
「これからよろしく頼むっす!」
「ああ」
リオンが頷く。
その表情には、もう迷いはなかった。
◆
ダンジョンを脱出し、試験官室に戻る。
他のパーティも続々とゴールしていた。
「……全パーティ、戻ったな」
試験官が確認する。
「それでは結果発表だ」
緊張が走る。
「合格者は——」
試験官が名前を読み上げていく。
「エリシア・ヴァンフリート」
「リオン・アークライト」
「ミーシャ・ストームウィンド」
「ザック・グランドール」
そして——
「グロッグ・ブレイドハート」
「……やった!」
俺は思わず拳を握る。
合格だ。
勇者パーティの一員になれた。
「おめでとう、グロちゃん!」
ミーシャが抱きつく。
「ありがとうっす!」
「まあ、当然の結果ですわね」
エリシアが腕を組む。
「よくやったな」
リオンが肩を叩く。
「これからよろしくな」
ザックも笑う。
仲間ができた。
本当の、仲間が。
だが、試験官室の奥で。
騎士団長クロード・フォンブルグが渋い顔をしていた。
「……オークを勇者に推薦するなど」
「しかし閣下、実力は確かです」
部下が進言する。
「実力だけで勇者が務まるなら、苦労はせん」
クロードは腕を組む。
「王宮では既に反対の声が上がっている。オークの勇者など、前代未聞だ」
「ですが——」
「……まあ、合格は合格だ。あとは本人次第だな」
クロードは窓の外を見る。
その視線の先には、笑顔で仲間と話す俺の姿があった。
◆
夜。
宿舎に戻った俺は、一人でベッドに横たわる。
「勇者か……」
呟く。
夢だった異世界転生。
まさかオークになるとは思わなかったけど。
でも、今は仲間もいる。
これから、本当の冒険が始まる。
その時、窓の外で人影が動いた。
「……?」
見ると、黒いローブを着た男たちが何かを話している。
「……オークの勇者など、認められん」
「貴族派閥も反対している。あれを排除すれば——」
「王宮の威信のためだ」
俺は息を呑む。
陰謀。
俺を排除しようとする動き。
「……マジかよ」
冷や汗が流れる。
だが——
俺は拳を握る。
「やってやるっす」
どんな陰謀があろうと。
実力で、すべてをひっくり返してやる。
オークの勇者。
その名を、世界に刻んでやる。
窓の外で、男たちの影が消える。
俺は深呼吸して、ベッドに横になった。
明日から、本当の戦いが始まる。
——準備は、できてる。




