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第3話「認められた実力」

翌朝。


試験会場の地下に、ダンジョンへと続く巨大な扉があった。


魔法で作られた訓練用の迷宮らしい。


「各パーティ、準備はいいか!」


試験官の声が響く。


俺たちのパーティは五人。


エリシア、リオン、ミーシャ、ザック、そして俺。


全員が武器を構え、緊張した空気が流れる。


「……オークに後ろを任せるなど、悪夢ですわ」


エリシアが小声で呟く。


聞こえてるっすよ。


「大丈夫っす! 任せてください!」


俺は親指を立てる。


エリシアは鼻を鳴らして視線を逸らした。




「それでは——開始!」


扉が開く。


暗闇の中へ、俺たちは踏み込んだ。



ダンジョン内部は薄暗く、松明の明かりだけが頼りだった。


石造りの通路が複雑に入り組んでいる。


「ミーシャ、索敵を」


リオンが指示を出す。


「了解!」


ミーシャが目を閉じ、集中する。


風の精霊を使った探知魔法らしい。


「……前方50メートルに魔物反応。中型が三体」


「よし。エリシア、魔法で先制を。俺とグロッグで前衛を務める」


リオンが剣を抜く。


「……わかりましたわ」


エリシアが杖を構える。


俺も剣を抜いた。


ギフト「ソードマスター」が体に染み込んでいる感覚。


どんな動きも、完璧に再現できる。




通路を進むと、魔物が現れた。


狼型の魔獣——ダイアウルフだ。


三体が唸り声を上げる。


「《火炎弾》!」


エリシアの魔法が炸裂する。


一体が吹き飛び、壁に激突した。


「行くぞ!」


リオンが突撃する。


俺も続く。


ダイアウルフが飛びかかってきた。


だが——遅い。


俺は剣を一閃。


完璧な軌道で、魔獣の首を斬り落とす。


「……っ!」


リオンが目を見開く。


残る一体をリオンが斬り伏せた。


「……速いな」


「ありがとうございますっす!」


俺は笑顔で応える。


エリシアとザックが複雑な表情でこちらを見ていた。



ダンジョンを進む。


途中、いくつかの罠を解除し、魔物を倒していく。


俺の剣技に、徐々にパーティの空気が変わっていくのがわかる。


「グロちゃん、すごいね!」


ミーシャが素直に褒めてくれる。


「いやいや、まだまだっすよ!」


「……まあ、悪くねえ」


ザックも少しだけ笑う。


だが、エリシアとリオンはまだ警戒を解いていない。


無理もない。


オークへの偏見は、一朝一夕には消えない。




「……前方に大きな反応。これは——」


ミーシャの声が震える。


「どうした?」


「かなり強い魔物です。おそらく……ボスクラス」


全員が緊張する。


「試験のボスか。よし、慎重に行くぞ」


リオンが指示を出す。


俺たちは広間に踏み込んだ。


そこには——


「……嘘でしょう」


エリシアが呟く。


巨大な魔獣がいた。


全身が鋼のような鱗で覆われた竜種——アイアンドレイクだ。


体長は優に10メートルを超える。


「なんでこんなのが試験に!」


ミーシャが叫ぶ。


アイアンドレイクが咆哮する。


地面が揺れた。


「エリシア、魔法を!」


「《火炎槍》!」


エリシアの最大火力魔法が放たれる。


だが——


「効いてない!?」


魔法がアイアンドレイクの鱗に弾かれた。


「物理攻撃も通らないぞ!」


リオンの剣が鱗を滑る。


まずい。


これは本当にやばい。




アイアンドレイクが巨大な尾を振るう。


「危ない!」


俺は咄嗟にミーシャを庇う。


尾が俺の背中を直撃した。


「ぐあっ!」


吹き飛ばされる。


痛い。


めちゃくちゃ痛い。


「グロッグ!」


ミーシャが駆け寄る。


「大丈夫……っす……」


立ち上がる。


背中が痺れるが、動ける。


「ザック、回復を!」


「もう魔力が半分切ってる! このままじゃ——」


アイアンドレイクが再び攻撃を仕掛けてくる。


エリシアが防御魔法を展開するが、すぐに割れた。


「くっ……!」


全滅する。


このままじゃ。


待て。


落ち着け。


ソードマスターのギフトがある。


完璧な剣技を再現できる。


ならば——鱗の隙間を狙えばいい。


「みんな! 俺が何とかするっす!」


「何を言って——」


「任せてくださいっす!」


俺は剣を構え、アイアンドレイクに向かって走る。


「馬鹿な!」


リオンが叫ぶ。


だが、俺は止まらない。


アイアンドレイクが大きく口を開ける。


火炎のブレスが来る。


俺はギリギリまで引きつけて——跳ぶ。


ブレスをかわし、アイアンドレイクの首元に着地する。


鱗の隙間が見える。


ここだ。


俺は剣を突き立てる。


ソードマスターの完璧な一撃。


鱗の隙間を貫き、急所を捉える。


「ガアアアアッ!」


アイアンドレイクが悲鳴を上げる。


暴れる巨体。


俺は剣を引き抜き、さらに連続で攻撃を叩き込む。


一撃、二撃、三撃。


すべてが完璧な軌道で急所を貫く。


「——っ!」


アイアンドレイクが倒れる。


地響きとともに、動かなくなった。


「……や、った……っす……」


俺は剣を収める。


全身が汗でびっしょりだ。



「……信じられませんわ」


エリシアが呆然と呟く。


「あの鱗を、一人で……」


リオンも驚愕の表情だ。


「グロちゃん、すごい! 超すごい!」


ミーシャが抱きついてくる。


「まあ、悪くねえ……いや、かなり良かったぞ」


ザックが素直に褒めてくれた。


「いやいや、みんなのおかげっすよ!」


俺は笑顔で応える。


本当だ。


みんながいたから、俺は戦えた。




その時、リオンが背後から襲ってくる気配に気づいた。


「——後ろ!」


まだ魔物がいた。


小型の魔獣が、リオンに飛びかかる。


「させねえっす!」


俺は咄嗅に体を動かし、リオンを庇う。


魔獣の爪が俺の肩を裂いた。


「ぐっ!」


だが、その隙にリオンが魔獣を斬り伏せる。


「……なぜ庇った?」


「だって、仲間っすから!」


俺は笑う。


痛みなんて、どうでもいい。


仲間を守れたなら。


「……っ」


リオンが何かを堪えるように目を伏せる。


「グロッグ、治療するぞ」


ザックが回復魔法をかけてくれる。


傷が塞がっていく。


「ありがとうっす、ザック」


「……礼には及ばねえ」


エリシアが杖を下ろし、こちらを見る。


その瞳には、もう蔑みはなかった。


「……実力は、認めますわ」


初めて、素直な言葉。


「ありがとうございますっす、エリシア!」


「調子に乗らないでくださいな。認めたのは実力だけですわよ」


そう言いながら、エリシアは少しだけ微笑んだ。


リオンが拳を差し出す。


「……お前は、本物だ」


「リオン……」


俺は拳を合わせる。


「これからよろしく頼むっす!」


「ああ」


リオンが頷く。


その表情には、もう迷いはなかった。



ダンジョンを脱出し、試験官室に戻る。


他のパーティも続々とゴールしていた。


「……全パーティ、戻ったな」


試験官が確認する。


「それでは結果発表だ」


緊張が走る。


「合格者は——」


試験官が名前を読み上げていく。


「エリシア・ヴァンフリート」


「リオン・アークライト」


「ミーシャ・ストームウィンド」


「ザック・グランドール」


そして——


「グロッグ・ブレイドハート」


「……やった!」


俺は思わず拳を握る。


合格だ。


勇者パーティの一員になれた。


「おめでとう、グロちゃん!」


ミーシャが抱きつく。


「ありがとうっす!」


「まあ、当然の結果ですわね」


エリシアが腕を組む。


「よくやったな」


リオンが肩を叩く。


「これからよろしくな」


ザックも笑う。


仲間ができた。


本当の、仲間が。




だが、試験官室の奥で。


騎士団長クロード・フォンブルグが渋い顔をしていた。


「……オークを勇者に推薦するなど」


「しかし閣下、実力は確かです」


部下が進言する。


「実力だけで勇者が務まるなら、苦労はせん」


クロードは腕を組む。


「王宮では既に反対の声が上がっている。オークの勇者など、前代未聞だ」


「ですが——」


「……まあ、合格は合格だ。あとは本人次第だな」


クロードは窓の外を見る。


その視線の先には、笑顔で仲間と話す俺の姿があった。



夜。


宿舎に戻った俺は、一人でベッドに横たわる。


「勇者か……」


呟く。


夢だった異世界転生。


まさかオークになるとは思わなかったけど。


でも、今は仲間もいる。


これから、本当の冒険が始まる。




その時、窓の外で人影が動いた。


「……?」


見ると、黒いローブを着た男たちが何かを話している。


「……オークの勇者など、認められん」


「貴族派閥も反対している。あれを排除すれば——」


「王宮の威信のためだ」


俺は息を呑む。


陰謀。


俺を排除しようとする動き。


「……マジかよ」


冷や汗が流れる。


だが——


俺は拳を握る。


「やってやるっす」


どんな陰謀があろうと。


実力で、すべてをひっくり返してやる。


オークの勇者。


その名を、世界に刻んでやる。


窓の外で、男たちの影が消える。


俺は深呼吸して、ベッドに横になった。


明日から、本当の戦いが始まる。


——準備は、できてる。


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