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第2話「勇者選抜試験」

王都ルミナスの門をくぐった瞬間、俺は圧倒された。


石畳の大通り。

行き交う人々。

魔法で動く街灯。

遠くに見える白亜の王城。


「うおお……マジで異世界だ……!」


前世で何度も読んだ光景が、目の前に広がっている。


テンション上がりまくりである。




だが、周囲の視線は冷たい。


「オークだ……」

「何でこんな所に……」

「子供から離れなさい!」


母親が子供を抱き上げて走り去る。


ああ、そういや俺、見た目オークなんだった。


「いやー、慣れないっすねー」


苦笑しながら商人の紹介状を確認する。


宛先は王城の騎士詰所。

名前はクロード・フォンブルグ騎士団長。


よし、行くか。




王城の門前で、衛兵に呼び止められた。


「待て! オークが王城に何の用だ!」


「えーと、紹介状があるんすけど」


差し出すと、衛兵は眉をひそめながら受け取る。


「……本物のようだが……」

「中で待て。確認する」


門の脇に連れて行かれ、俺は石壁に背を預けた。


待つこと三十分。


ようやく現れたのは、威厳ある鎧を纏った初老の騎士だった。


「私がクロード・フォンブルグである」


低く重い声。


「おお! 初めまして! グロッグ・ブレイドハートっす!」


「……オークが、商人ギルドの紹介状を持っているとは」


クロードは疑わしげに俺を見る。


「いや、盗賊退治したら書いてくれたんすよ。それでですね、勇者になりたくて――」


「勇者だと?」


クロードの眉が跳ね上がる。


「オークが、勇者に?」


「はい! ダメっすか?」


「……冗談ではないのか」


「マジっす! 超マジっす!」


クロードは深く息を吐いた。


「……折しも、魔王軍の侵攻が激化している。実力ある者は種族を問わず求めている、というのが建前だが……」


「建前?」


「オークが勇者候補に、などという前例はない」


ですよねー。


「だが、紹介状もある。受付だけはさせてやろう」


クロードは踵を返す。


「ついて来い。勇者選抜試験の会場に案内する」


「マジっすか! ありがとうございます!」




試験会場は、王城の訓練場だった。


広大な敷地に、受験者が数十人。


全員、人間だ。


しかも、装備も立ち振る舞いも一流。


エリート揃い、って感じである。


「受付はあちらだ」


クロードが指差した先に、魔法陣が設置された受付がある。


「ありがとうございます! 行ってきます!」


俺が受付に向かうと、周囲がざわついた。


「オーク……?」

「何であんなのが……」

「警備は何してるんだ」


受付の女性職員は、露骨に顔をしかめた。


「あの……受験、したいんすけど」


「は? オークが勇者に? 冗談でしょう」


「いや、マジなんすけど」


「帰ってください。ここはあなたのような者が来る場所では――」


「待て」


クロードの声が割って入る。


「紹介状がある。受付させろ」


「し、しかし……」


「王令では、実力ある者は種族を問わずとある。試験を受けさせろ」


職員は渋々といった様子で、魔法陣を起動させた。


「……では、ギフト鑑定を。魔法陣に手を置いてください」


俺は言われた通り、魔法陣に手を置く。


途端、魔法陣が眩く輝いた。


文字が浮かび上がる。


【ギフト:ソードマスター】


「――――ッ!?」


職員の顔が真っ青になる。


周囲がどよめいた。


「ソード……マスター……!?」

「嘘だろ……数百年に一人の……!」

「オークが……まさか……!」


試験会場全体が、ざわめきに包まれる。


「こ、これは……」


職員が震える手で受験票を差し出す。


「試験、受けていただけます……」


「ありがとうございます!」


受験票を受け取ると、周囲の視線がさらに強くなった。


好奇、嫌悪、驚愕。


色んな感情が混ざってる。




試験会場の中央で、試験官が声を上げた。


「それでは、第一次試験を開始する! 内容は魔物討伐だ!」


周囲の受験者たちが、身構える。


「各自、訓練場奥の森へ入れ! 制限時間は一時間! Bランク以上の魔物を一体でも倒せば合格だ!」


Bランク以上か。


なるほど、ハードル高めだな。


「よし、行くか」


俺が剣に手をかけた時、隣から声がかかった。


「……オークが、ソードマスターとはな」


振り向くと、金髪のイケメン剣士が立っていた。


整った顔立ち。

鋭い眼光。

洗練された立ち姿。


完璧な主人公っぽさである。


「俺はリオン・アークライト。勇者候補筆頭と言われている」


「おお! グロッグ・ブレイドハートっす! よろしく!」


手を差し出すと、リオンは無視した。


「……まぐれだろう。ギフト鑑定の誤作動だ」


「えー、そんなことないっすよ」


「試験で証明してみせろ。オークに何ができる」


リオンはそう言い残して、森へ向かう。


うーん、ツンツンしてんなあ。




森の中に入ると、魔物の気配がすぐに感じられた。


草むらが揺れる。


飛び出してきたのは、Cランク魔物の凶暴狼だ。


「おっと」


剣を抜く。


狼が飛びかかってくる。


一閃。


狼の首が地面に転がる。


「んー、ちょっと物足りないかな」


さらに奥へ。


Bランク魔物の岩亀が現れる。


硬い甲羅で有名な奴だ。


「よし、これで――」


剣を振るう。


甲羅ごと、真っ二つ。


「おお、切れ味いいなこの剣!」


前世の知識と、ギフトの力。


最高の組み合わせである。


「もっと強いのいないかなー」


森の奥へ進むと、地響きが聞こえてきた。


木々が倒れる音。


現れたのは――巨大な影。


「おお……!」


Sランク魔物。


地竜だ。


全長十メートル。

岩のような鱗。

口から覗く鋭い牙。


「これは……ヤバいやつ!」


興奮が高まる。


地竜が咆哮を上げる。


地面が揺れた。


「よっしゃ、行くぞ!」


俺は地面を蹴る。


地竜の巨体に飛びかかる。


剣を振るう――


ソードマスターのギフトが発動。


剣に魔力が収束する。


「【一閃】!」


閃光が走る。


地竜の首が、宙を舞う。


轟音とともに、巨体が倒れた。


「っしゃあ! やったぜ!」


ガッツポーズ。


最高に気持ちいい。




試験会場に戻ると、試験官が目を剥いた。


「き、貴様……それは……」


俺が引きずってきたのは、地竜の首。


証拠に持ってきたのだ。


「Sランク魔物、地竜……!?」

「た、倒したのか……!?」


周囲が騒然とする。


試験官が震える声で言った。


「こ、これは……本物のソードマスター……!」


「えへへ、どうも!」


「合格だ……! 間違いなく合格だ!」


試験官が興奮気味に叫ぶ。


他の受験者たちが、呆然と俺を見ている。


リオンも、信じられないという顔をしている。


そこへ、優雅な足音が近づいてきた。


「まあ、まぐれでしょう」


声の主は、銀髪の美少女。


高貴な雰囲気を纏った、名門貴族って感じの子だ。


「地竜は弱っていたのでは? あるいは、他の誰かが倒したものを横取りしたとか」


「えー、そんなことないっすよ」


「信じられませんわ。オークごときが、Sランク魔物を?」


彼女は鼻で笑う。


「私はエリシア・ヴァンフリート。ヴァンフリート公爵家の令嬢ですわ」


「グロッグっす! よろしく!」


「……次の試験で、実力を見せていただきますわ」


エリシアは踵を返す。


うーん、こっちもツンツンしてるな。




試験官が再び声を上げた。


「第二次試験を発表する! 内容はパーティ戦だ!」


パーティ戦?


「魔王軍との戦いには、連携が不可欠! よって、受験者同士でパーティを組み、模擬戦を行ってもらう!」


おお、なるほど。


「パーティは、こちらで指定する! 発表する!」


試験官が魔法で名簿を浮かび上がらせる。


【パーティA】

リオン・アークライト(剣士)

エリシア・ヴァンフリート(魔法使い)

ミーシャ・ストームウィンド(弓使い)

ザック・グランドール(僧侶)

グロッグ・ブレイドハート(剣士)


「え」


俺の名前が、リオンやエリシアと同じパーティに入ってる。


「マジか……」


周囲がざわめいた。


「オークが……あのエリートパーティに……?」

「大丈夫なのか……?」


リオンが舌打ちする。


エリシアは露骨に不快そうな顔をする。


「何の冗談ですの……?」


「いや、俺も驚いてるんすけど」


「オークと組めと? 勇者候補筆頭の私が?」


リオンが苦々しく言う。


「おいおい、そんな言い方ないっすよ」


「……黙れ。次の試験で足を引っ張ったら、容赦はしない」


リオンはそう言い捨てて、離れていく。


エリシアも冷たい視線を投げてくる。


「期待はしていませんわ」


そう言って去っていく。


「……うーん」


これは、かなり険悪なパーティになりそうだ。


そこへ、明るい声がかかった。


「ねえねえ、グロちゃん!」


振り向くと、茶髪のショートカットの女の子が笑顔で手を振っていた。


エルフの耳が覗いている。


「私、ミーシャ・ストームウィンド! 同じパーティだね!」


「おお! よろしくっす!」


「ハーフエルフだから、私も結構差別されるんだよねー。お互い頑張ろ!」


ミーシャがウインクする。


「ありがとうございます! 心強いっす!」


「あとね、あのゴツいおじさんがザック。僧侶だよ」


指差された先に、無骨な顔の僧侶がいた。


腕組みして、俺を睨んでいる。


「……オークなんぞと組むとはな」


「まあまあ、よろしくっす!」


「……まあ、悪くねえ」


ザックはそう言って、視線を逸らす。


ツンデレっぽい。




試験官が再び声を上げた。


「パーティ戦は明日! 今日は各自、連携の確認をしておくように!」


明日か。


となると、今日中にパーティメンバーと打ち解けないと。


俺は深呼吸する。


よし。


エリートたちとの共闘。


簡単じゃないだろうけど、やってやる。


実力で、偏見を覆してやる。


「グロちゃん、作戦会議しよ!」


ミーシャが手を引く。


「おお、行くっす!」


俺は笑顔で応える。


――オークの勇者。


前代未聞の挑戦が、始まる。


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