第14話「戦いの終わり」
魔王が——
倒れた。
その瞬間——
戦場に、静寂が訪れる。
魔王軍の魔物たちが——
力を失ったように、その場に崩れ落ちた。
指揮官を失った軍勢は——
統制を失い——
逃げ惑い、霧散していく。
「勝った……のか?」
リオンが——
呆然と呟く。
「ええ……勝ちましたわ」
エリシアが——
震える声で、答える。
そして——
次の瞬間。
「勝ったぞ! 魔王が倒れた!」
「戦争が終わった!」
兵士たちの——
歓声が、戦場に響き渡る。
剣を、空に掲げ——
仲間と抱き合い——
涙を流して喜ぶ者たち。
みんな——
生き延びた喜びに、震えている。
俺も——
膝の力が抜けた。
「……終わったんだ」
呟く。
実感が——
じわじわと、湧いてくる。
長かった戦いが——
本当に、終わったんだ。
◆
王都に——
帰還した俺たちを迎えたのは——
街を埋め尽くす、民衆の歓声だった。
「勇者様万歳!」
「魔王を倒してくれた!」
「平和が戻った!」
道の両側に——
びっしりと人が並び——
花を投げ、旗を振る。
その熱狂に——
圧倒される。
「すごい……」
ミーシャが——
目を丸くする。
「これが、勝利の凱旋というものか」
リオンが——
感慨深げに呟く。
「でも、みんな……」
エリシアが——
戸惑いを隠せない表情で。
「グロッグを見ても、逃げませんわね」
そう——
民衆の視線は——
俺にも向けられている。
オークの姿を見て——
誰も悲鳴を上げない。
誰も顔を背けない。
それどころか——
「オークの勇者!」
「グロッグ様、ありがとう!」
「あなたが世界を救ってくれた!」
歓声は——
俺にも、向けられている。
涙が——
出そうになった。
こんな日が——
来るなんて。
思っても、いなかった。
「グロッグ」
エリシアが——
微笑む。
「これが、あなたが勝ち取ったものですわ」
「違うっす」
俺は——
首を振る。
「みんなで、勝ち取ったんすよ」
「……そうだな」
リオンが——
笑って、肩を叩く。
「俺たちの、勝利だ」
◆
王宮では——
盛大な祝賀会が開かれた。
大広間は——
華やかな装飾で彩られ——
貴族や騎士団の幹部たちが、集まっている。
俺たちが——
入場すると——
一斉に、視線が集まる。
その中には——
好奇の目も、警戒の目も、混じっている。
でも——
以前とは、違う。
明らかな敵意は——
感じられなかった。
「勇者パーティの諸君!」
クロード騎士団長が——
壇上に立ち——
朗々と、声を張り上げる。
「君たちの活躍により、我が王国は救われた!」
拍手が——
広間を満たす。
「特に——」
クロードは——
俺を、見た。
「グロッグ・ブレイドハート」
緊張が——
走る。
何を、言われるんだろう。
まさか——
やっぱり、オークだからって——
「お前こそが、真の勇者だ」
その言葉に——
場が、静まり返る。
「私は恥じている」
クロードは——
続ける。
「最初、お前を勇者と認めたくなかった」
「オークなどという魔物が、勇者になれるわけがないと——」
「そう、思い込んでいた」
彼の声は——
深い反省を、にじませている。
「だが、お前は戦い抜いた」
「種族の壁を、実力で超えた」
「仲間を守り、民を守り、王国を守った」
「それは紛れもなく——」
クロードは——
拳を、胸に当てる。
「勇者の、行いだ」
「オークも、人間も、関係ない」
「真の勇者とは——」
彼は——
俺を、指差す。
「グロッグ、お前のような者を言うのだ!」
その瞬間——
広間が——
割れんばかりの拍手に包まれた。
「オークの勇者万歳!」
「グロッグ万歳!」
「勇者に種族など関係ない!」
貴族たちまでもが——
立ち上がり、拍手する。
まだ、全員じゃない。
複雑な顔をしている者も、いる。
でも——
確かに、何かが変わった。
少しずつ——
確実に——
差別の壁が、崩れ始めている。
「やったね、グロちゃん!」
ミーシャが——
嬉しそうに、はしゃぐ。
「まあ、当然っちゃ当然だ」
ザックが——
照れ臭そうに、呟く。
「あなたなら、成し遂げると思っていましたわ」
エリシアが——
優雅に、微笑む。
「おい、調子に乗るなよ」
リオンが——
笑いながら、からかう。
みんなが——
祝福してくれる。
これ以上——
嬉しいことは、ない。
◆
祝賀会が——
最高潮に達した頃。
エリシアが——
俺に近づいてきた。
「少し、外へ出ませんか?」
「あ、はい」
バルコニーに——
出ると——
夜風が、心地よい。
王都の街並みが——
眼下に広がっている。
あちこちに——
焚き火が見え——
民衆が祝杯を上げているのが、わかる。
「本当に、終わったんですわね」
エリシアが——
しみじみと、呟く。
「そうっすね」
「正直に言いますと——」
彼女は——
夜空を、見上げる。
「最初、あなたのことが理解できませんでした」
「オークなのに、なぜそこまで明るいのか」
「なぜ、差別されても笑っていられるのか」
「なぜ、諦めないのか」
彼女の声は——
静かで、穏やか。
「でも、今ならわかりますわ」
「あなたは——」
エリシアが——
俺を、見る。
「誰よりも強く、優しく、勇敢だったから」
「種族なんて——」
「本当に、些細なことだったのですわ」
彼女は——
微笑む。
「あなたと出会えて——」
「私の世界は、広がりましたわ」
「ありがとう、グロッグ」
その言葉が——
胸に、染みる。
「こっちこそ、ありがとうございます」
俺は——
頭を下げる。
「エリシアさんたちがいなかったら——」
「ここまで、来れなかったっす」
「まあ、当然ですわね」
彼女は——
くすりと笑う。
その笑顔は——
最初に会った時とは——
全然、違う。
心から——
リラックスした、笑顔だった。
◆
翌日——
訓練場で——
リオンと、会った。
「よう」
彼は——
剣を、肩に担いでいる。
「一本、どうだ?」
「え、今からっすか?」
「戦争は終わったが——」
リオンは——
不敵に、笑う。
「俺とお前の勝負は、まだついてない」
「はは、そりゃそうっすね!」
俺も——
剣を、抜く。
◆
激しい——
打ち合いの末——
俺たちは、同時に剣を収めた。
「……まだ、届かないな」
リオンが——
悔しそうに、呟く。
「でも、すごい腕前っすよ」
「誰のおかげだと思ってる」
彼は——
笑う。
「お前という、最高の目標がいたからだ」
そして——
拳を、差し出す。
「次は——」
「俺が、お前を超える」
その目は——
以前とは違う。
ライバルとしての——
尊敬と、闘志が——
込められている。
「いつでも来てくださいっす!」
俺も——
拳を、合わせる。
ゴツン——
という音が、響く。
「また、強くなろうぜ」
「もちろんっす!」
笑い合う。
仲間同士の——
最高の、瞬間だった。
◆
その後——
ミーシャとザックにも、会った。
「ねえねえ、グロちゃん!」
ミーシャが——
弾んだ声で言う。
「戦争は終わったけど、冒険はまだまだこれからだよね?」
「また一緒に、色んな所に行こう!」
「当たり前っす!」
俺は——
笑う。
「これからも、よろしく頼むっす!」
「まあ、お前が困ったときは助けてやるよ」
ザックが——
ぶっきらぼうに、言う。
でも——
その目は、優しい。
「ありがとうございます!」
「……礼なんていらねえよ」
彼は——
照れ臭そうに、そっぽを向く。
みんな——
最高の仲間だ。
◆
そして——
「グロッグ様ー!」
飛び込んできたのは——
グルーシャだった。
「う、うわっ!」
「グロッグ様、会いたかったです!」
彼女は——
俺に、抱きつく。
「あの、グルーシャさん……」
「グロッグ様、本当にかっこよかったです!」
「魔王を倒すなんて、さすがです!」
「もう、惚れ直しちゃいました!」
彼女の目が——
キラキラ、輝いている。
「だから——」
「グルーシャは、グロッグ様と結婚します!」
「ええええ!?」
周囲が——
どっと、沸く。
「いや、まだ早いっすよ!」
「早くないです!」
グルーシャは——
頬を膨らませる。
「グロッグ様は、世界一のイケメンで、世界一強くて——」
「グルーシャの理想の殿方です!」
「理想って言われても……」
困り果てる俺を見て——
みんなが、笑う。
エリシアも——
ミーシャも——
リオンもザックも——
みんな、楽しそうに笑っている。
ああ——
これが——
平和なんだな。
こんな——
馬鹿みたいなやり取りができる。
それが——
どれだけ、幸せなことか。
◆
数日後——
俺は——
王都の、城壁に立っていた。
遠くに——
地平線が、広がる。
まだ見ぬ——
世界が、待っている。
「グロッグ」
振り返ると——
エリシアたちが、いた。
「次は、どこへ行くんだ?」
リオンが——
聞く。
「うーん……」
俺は——
考える。
「まだ、決めてないっすけど——」
「世界は、広いっすからね」
「まだまだ、冒険したいっす」
「それに——」
俺は——
みんなを、見る。
「まだ、種族の壁が完全に消えたわけじゃないっす」
「オークや、他の魔物種族への差別も——」
「まだまだ、残ってる」
「だから——」
俺は——
拳を、握る。
「もっと、冒険して——」
「もっと、活躍して——」
「みんなに、見せたいんすよ」
「種族なんて、関係ないって」
「誰だって、頑張れば——」
「認められるって」
その言葉に——
みんなが、笑顔になる。
「相変わらず、お人好しですわね」
エリシアが——
呆れたように、笑う。
「でも——」
「それが、あなたの良いところですわ」
「じゃあ、また冒険だね!」
ミーシャが——
嬉しそうに、飛び跳ねる。
「まあ、付き合ってやるよ」
ザックが——
肩を、すくめる。
「俺も、まだまだ強くなりたいしな」
リオンが——
不敵に、笑う。
「グロッグ様、どこへでもついていきます!」
グルーシャが——
目を、輝かせる。
みんなが——
一緒に、来てくれる。
こんなに——
心強いことは、ない。
「じゃあ——」
俺は——
剣を、空に掲げる。
「また、冒険の始まりっすね!」
「おう!」
みんなの——
声が、重なる。
風が——
吹く。
新しい——
冒険への、風だ。
世界は——
まだまだ、広い。
俺たちの——
物語は——
これからも、続いていく。
オークだけど——
勇者やってる。
それが——
俺の、生き方だ。
これからも——
ずっと——
みんなと一緒に。
空を——
見上げる。
青空が——
どこまでも、広がっている。
新しい——
世界へ——
歩き出そう。
「行くぞ、みんな!」
「おー!」
俺たちは——
新たな——
冒険へと、旅立った。




