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第11話「心の揺らぎ」

翌朝。


目が覚めても、魔王の言葉が頭から離れなかった。


『お前は何のために戦っている?』


『オークでありながら、人間に認められようとする矛盾』


ぐるぐる回る。


消えない。


「……チッ」


俺は頭を振って、ベッドから起き上がった。


考えても仕方ない。


今日も今日とて、やることをやるだけっす!



街へ、出た。


補給物資の調達。


エリシアとミーシャが同行してくれる。


「グロッグ、顔色悪いよ?」


ミーシャが心配そうに覗き込んでくる。


「大丈夫っす! バッチリっす!」


笑顔で、誤魔化す。


「……そう?」


「そうっす!」


エリシアが、じっと俺を見ていた。


でも——


何も言わない。



武器屋の前を通りかかった時。


聞こえた。


「あれ、例のオークだろ?」


「ああ、勇者パーティに入ってるっていう」


男たちの、声。


「オークのくせに調子に乗りやがって」


「所詮は魔物だろ。信用できるかよ」


「人間様の真似事して……笑えるよな」


胸が——


ざわついた。


「……っ」


「グロッグ!」


ミーシャが、俺の腕を掴む。


「気にしちゃダメ! あんな連中の言うこと!」


「分かってるっす」


笑顔を、作る。


「全然、平気っすよ」


でも——


平気じゃ、なかった。


エリシアが、男たちを睨んでいた。


「……黙りなさい」


その声は、冷たい。


「彼は私たちの仲間です。貴方たちに侮辱される謂れはありませんわ」


「へ、へえ……すみませんでした」


男たちが、逃げるように去っていく。


「エリシア、ありがとうっす」


「……当然のことをしたまでです」


彼女は、不機嫌そうに前を向いた。


でも——


その背中が、小さく震えていた。



その日の夜。


クロードから、緊急の報告が入った。


「オークの村が、襲撃された」


「……なんすって?」


「人間の傭兵団による略奪だ。詳細は不明だが——被害は甚大らしい」


俺の、拳が震えた。


「場所は!」


「東の森、オルグ村だ」


「行くっす!」


「待て、グロッグ。お前一人では——」


「待てないっす!」


俺は、走り出していた。



オルグ村。


そこは——


惨状だった。


焼かれた家。


散乱する荷物。


泣き叫ぶ、村人たち。


「おい! 大丈夫っすか!」


駆け寄る。


でも——


オークの老人が、俺を睨んだ。


「……貴様か」


「え?」


「人間と一緒にいる、裏切り者が」


その言葉に——


凍りついた。


「違うっす! 俺は——」


「貴様が人間と手を組んだから、こうなったんだ!」


他の村人たちも、俺を責める。


「人間に媚びを売って!」


「オークの恥さらしめ!」


「出ていけ!」


胸が——


痛い。


「俺は……」


言葉が、出ない。


「グロッグ様!」


グルーシャが、走ってきた。


「グロッグ様は間違ってない! グロッグ様は私たちのために戦ってるんです!」


「黙れ、小娘!」


老人が、吐き捨てる。


「あんな裏切り者に騙されおって」


「裏切り者なんかじゃありません!」


グルーシャが、俺を庇う。


「グロッグ様は——グロッグ様は、誰よりも立派なオークです!」


「……グルーシャ」


彼女の瞳には——


涙が、浮かんでいた。


でも——


村人たちの目は、冷たいまま。


「もういい。帰れ」


「……っ」


俺は——


何も言えずに、その場を離れた。



宿に、戻った。


部屋に、籠もる。


『俺は……何のために戦ってるんだろう』


魔王の言葉が、蘇る。


『オークでありながら、人間に認められようとする矛盾』


村人たちの、言葉。


『裏切り者』


『人間に媚びを売って』


街で聞いた、声。


『オークのくせに調子に乗るな』


『所詮は魔物』


ぐるぐる回る。


消えない。


「……俺は」


何のために——


戦ってるんだ?


人間に、認められたい?


オークの、仲間を守りたい?


でも——


どっちからも、拒絶される。


俺は——


どこにも、居場所がない。


「……クソ」


初めて——


弱気に、なった。



コンコン。


ノックの、音。


「グロッグ、入るぞ」


リオンの、声。


「……入んなくていいっす」


「駄目だ」


勝手に、入ってきた。


「おい……」


「話がある」


リオンが、俺の隣に座る。


「……何すか」


「お前、村で何を言われた?」


「……別に」


「嘘をつくな」


リオンの声は——


いつもより、優しかった。


「クロードから聞いた。村人に責められたと」


「……っ」


「俺は——お前が羨ましかった」


「は?」


予想外の言葉に、顔を上げる。


リオンが、苦笑していた。


「努力して、鍛錬して。ようやく勇者候補筆頭になった」


「……」


「なのに、お前が現れた。最強のギフトを持って」


彼の、拳が握られる。


「悔しかった。オークのくせに——って、何度も思った」


「リオン……」


「でも、間違ってた」


彼が——


俺を、見る。


「お前は俺が認めた男だ。種族なんて関係ない」


「……それは」


「お前の剣は本物だ。お前の心も、本物だ」


リオンが、立ち上がる。


「だから——諦めるな。お前らしく、戦え」


「……っ」


胸が——


熱く、なった。



リオンが出ていった後。


また、ノックの音。


「グロッグ……入ってもよろしいですか?」


エリシアの、声。


「……どうぞ」


彼女が、入ってきた。


いつもの高慢な表情じゃなく——


不安そうな、顔。


「あの……」


「エリシア?」


「私——ずっと、間違っていました」


彼女の声が、震えている。


「最初、あなたを見下していました。オークだから、と」


「……」


「でも、あなたは——私に大切なことを教えてくれた」


エリシアの瞳に——


涙が、浮かぶ。


「実力だけじゃない。種族だけでもない。心が——人を作るのだと」


「エリシア……」


「あなたがいなければ、私は変われなかった」


彼女が——


俺の手を、握った。


「だから——諦めないでください」


涙が——


零れる。


「私たちには、あなたが必要です。私には——あなたが、必要なんです」


「……っ」


胸が——


いっぱいに、なった。



翌朝。


目が覚めると——


心が、軽かった。


仲間たちの、言葉。


それは——


俺を、支えてくれる。


「そうっすよね」


俺は——


一人じゃない。


魔王の言葉に、答えが見つかった気がした。


『何のために戦っている?』


——仲間のため。


信じてくれる人たちのため。


そして——


こんな世界を、変えるため。


「よし!」


ベッドから、跳ね起きる。


今日も——


全力で、行くっす!



朝食の席。


パーティ全員が、揃っていた。


「グロッグ、元気になったみたいだね!」


ミーシャが、笑顔で言う。


「もちろんっす! 俺は無敵っすから!」


「調子に乗るなよ、オーク」


ザックが、にやりと笑う。


でも——


その目は、優しかった。


「まあ、お前がいねえと困るのは事実だがな」


「ザック……」


「勘違いすんなよ! 別に心配なんかしてねえから!」


典型的な、ツンデレ。


俺は、笑った。


「みんな、ありがとうっす!」


エリシアが、小さく微笑む。


リオンが、頷く。


ミーシャが、ウィンクする。


ザックが、そっぽを向く。


この仲間たちと——


なら。


どんな困難も、乗り越えられる。



その時——


扉が、勢いよく開いた。


「緊急事態だ!」


クロードが、息を切らして飛び込んできた。


「魔王軍が——王都への総攻撃を開始した!」


「……なんですって!?」


エリシアが、立ち上がる。


「規模は?」


「全軍だ。魔王自らが、先頭に立っている」


クロードの表情は——


険しい。


「最終決戦の火蓋が、切られた」


「……っ」


パーティ全員が——


表情を、引き締める。


「すぐに王都へ向かう。準備しろ!」


「了解っす!」


俺が、答える。


胸の、ざわつきは——


もう、ない。


魔王の、問い。


それに対する、答え。


今なら——


はっきりと、言える。


俺は——


仲間のために、戦う。


この世界を、変えるために、戦う。


それが——


俺の、生きる道。


「行くっすよ、みんな!」


「ええ!」


「ああ!」


「当然だ!」


「おう!」


仲間たちの——


声が、重なる。


最終決戦——


始まる。


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