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第1話「オーク転生!?」

気がつくと、視界が緑だった。


いや、違う。

視界そのものじゃない。視界に映っているものが、緑なのだ。


「……は?」


俺——元・佐藤健太は、自分の腕を見つめて固まった。


筋肉の塊のような太い腕。

ゴツゴツとした関節。

そして何より、全体を覆う鮮やかな緑色の皮膚。


「嘘だろ……」


慌てて立ち上がる。

体が重い。いや、重いというより——デカい。

さっきまで高校生だった俺の体とは、明らかに質量が違う。


周囲を見回すと、そこは見たこともない森の中だった。

木々の合間から差し込む光が、幻想的な雰囲気を演出している。


まるで、ファンタジー世界みたいな——


「待て待て待て! まさか……」


胸の奥で、期待と恐怖が入り混じった感情が渦巻く。


そうだ、俺は確か——


トラックに轢かれた。


典型的な異世界転生パターンじゃないか! 


俺は大の異世界小説好きで、毎日のように小説投稿サイトを巡回していた。

主人公がチート能力を手に入れて、美少女ハーレムを築いて、魔王を倒す——

そんな王道展開に、何度憧れたことか。


「マジで転生したのか!? 俺が!?」


興奮で声が裏返る。


いやでも、待てよ。

この緑色の腕は何なんだ。


近くに水溜まりを見つけて、恐る恐る覗き込む。


「」


絶句した。


そこに映っていたのは、明らかに人間じゃない何かだった。


緑色の肌。

ゴツゴツした骨格。

鋭い牙が覗く大きな口。

小さな目と、突き出た額。


これは——


「オーク……だと……?」


RPGで散々狩ってきた、あの雑魚モンスター。

それが、今の俺の姿だった。


「いやいやいや! ちょっと待て! 異世界転生って、もっとこう、イケメンとかチート能力とか、そういう方向じゃないのか!?」


誰にともなく叫ぶ。

当然、返事はない。


しかし——


俺は深呼吸をした。


パニックになっても仕方ない。

まずは状況を整理しよう。


異世界転生したことは、ほぼ間違いない。

姿がオークになったのも、残念ながら事実だ。


なら、次に確認すべきは——


「ステータス! スキル! ギフト!」


RPG的な世界なら、絶対にあるはずだ。

何かしらのチート能力が!


すると、視界の端に半透明のウィンドウが浮かび上がった。


『グロッグ・ブレイドハート』

『種族:オーク』

『ギフト:ソードマスター』


「ソード……マスター……?」


その下に、小さく説明文が表示される。


『数百年に一人の逸材に与えられる最強クラスのギフト。剣技の習得速度と威力が常人の百倍。全ての剣技を極めし者の証』


「——マジかよ!」


思わず拳を握りしめる。


オークの姿は確かにショックだった。

でも、最強クラスのギフト! 


これなら——これならイケる!


「オークだけど最強……これはこれでアリかも!」


前向きに考えよう。

むしろ、他の転生者がやったことのない新境地じゃないか。


そう思った瞬間だった。


「きゃあああああ! グロッグ様ああああ!」


甲高い声が森に響いた。


「うおっ!?」


振り向くと、一人の少女が——いや、少女オークが、こちらに走ってきていた。


人間で言えば十代後半くらいだろうか。

オークの姿ではあるが、確かに女性の体つきをしている。


「グロッグ様、ご無事でしたのね! ああ、なんて美しい……!」


「は?」


少女オークは俺の前で立ち止まると、うっとりとした表情で俺を見つめてきた。


「その力強い筋肉! その堂々たる牙! その、その、深い緑の肌! ああ、グロッグ様は本当に完璧なイケメンですわ!」


「……え?」


困惑する俺に、少女は胸に手を当てて言った。


「わたくし、グルーシャですわ! グロッグ様が森で倒れていたと聞いて、心配で心配で!」


どうやら、このグロッグという名前が今の俺の名前らしい。

そして、この少女——グルーシャは、俺のことを「イケメン」だと言っている。


オーク基準での、イケメン。


「あ、ああ……ありがとな」


「きゃああ! お声まで素敵! グロッグ様、村にお戻りになりませんこと!? 皆、お待ちしておりますわ!」


グルーシャの案内で、俺は近くのオークの村へ向かった。


村では、他のオーク達が俺を見て次々と反応する。


「おお、グロッグ! 相変わらず良い面構えだ!」

「その筋肉、惚れ惚れするぜ!」

「うちの娘の婿にどうだい!?」


どうやら本当に、俺はオーク社会では「超イケメン」扱いらしい。


人間の美的感覚とは、まったく違う基準で。


村長——これまた屈強なオークだ——が、俺に声をかけてきた。


「グロッグよ、お前は我が村の誇りだ。そのギフト『ソードマスター』で、いつか人間どもを見返してやれ」


「人間を……?」


「ああ。奴らは我々オークを、知能の低い野蛮な魔物扱いだ。だが、お前は違う。お前なら、きっと——」


村長の言葉に、俺は拳を握った。


そうか。

この世界では、オークは差別されているのか。


なら——


「村長、俺、人間の町に行ってみたいっす」


「何?」


「このギフトを活かして、オークだって凄いんだって証明したいんすよ。人間も、エルフも、ドワーフも、みんなが認める強さを手に入れて——」


村長は、しばらく俺を見つめていた。


やがて、深く頷く。


「……わかった。お前らしい。気をつけて行けよ、グロッグ」




数日後、俺は村を出て街道を歩いていた。


装備は村から貰った革鎧と、一振りの剣。

見た目は完全にモンスターだが、気持ちは前向きだ。


「よし! まずは人間の町で冒険者登録だな! そんで実力を示して——」


その時だった。


「助けてくれええええ!」


前方から、馬車が猛スピードで走ってきた。

その後ろを、明らかに柄の悪い男達が追いかけている。


山賊だ!


「おい、大人しく荷物を置いてけ!」

「抵抗すりゃ命はねえぞ!」


馬車の御者は恐怖で顔を歪めている。


——放っておけるか!


俺は剣を抜いて、馬車の前に飛び出した。


「待ちやがれ!」


『ソードマスター』のギフトが、体に力を満たす。

構えた瞬間、剣の扱い方が——まるで何十年も訓練したかのように、自然に理解できた。


「な、何だ!? オークだと!?」


山賊達が驚いて足を止める。


俺は剣を構えたまま、叫んだ。


「悪ぃが、この人は通させてもらうぜ!」


「オークの分際で人間の味方か!? 笑わせんな!」


山賊のリーダーらしき男が剣を抜く。


だが——


遅い。


俺の体は、まるで意思を持ったかのように動いた。

一歩踏み込み、剣を振り抜く。


金属音が響き、リーダーの剣が宙を舞った。


「な——!?」


「次は本気で斬るぜ?」


凄みを効かせて睨む。

山賊達は、一瞬で顔を青ざめさせて逃げ出した。


「た、助かった……ありがとう、ございます……」


御者が震える声で礼を言う。


「いやいや、当然っすよ! 困ってる人を助けるのは——」


「ぎゃああああああ! オークが人を襲ってるぞおおおお!」


「は?」


俺が振り向くと、街道の向こうから別の旅人達が走ってきていた。


そして——


俺と、剣を持って立っている俺と、怯えている御者を見て。


完全に誤解している。


「おい待て! これは違——」

「衛兵を呼べ! オークだ! オークが人間を襲ってる!」

「魔物め! 退治しろ!」


「ちょっと待てええええ!」


大混乱だった。



なんとか誤解を解くのに、三十分もかかった。


御者が必死に説明してくれたおかげで、ようやく旅人達も——そして駆けつけた衛兵達も——事情を理解してくれた。


「……本当に、オークが人間を助けたのか?」


衛兵の一人が、信じられないという顔で呟く。


「ああ、この方は命の恩人です! どうか、お咎めなきよう!」


御者は商人らしく、俺に紹介状を書いてくれた。


「これを持って王都へ行くといい。私の知り合いの騎士に渡せば、話くらいは聞いてもらえるだろう」


「マジっすか! ありがとうございます!」


紹介状を受け取り、俺は王都への道を歩き始める。


——オークの勇者か。


前代未聞だろうな。


でも、面白そうじゃないか。


この世界で、俺は証明してやる。

種族なんて関係ない。

行動と実力で、全てをひっくり返してやる。


王都の門が、遠くに見えてきた。


そこで待っているのは、歓迎か——それとも、更なる偏見か。


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