一品目 真夏のカレー
「試験の結果はまぁこれといって悪くはないけど、良くもないな。でもまだ一年生だし、これからこれから。」
「先生……フォローありがとうございます……。」
試験返却は一体一の別教室で行われ周りに見られずにすんだと安堵の赤、こんな情けない点数を取ってしまったと惨めの青。比率は青色パープル。
そんな肩を落とす俺に
「どうだ、クラスには馴染めたか?」
と追い打ちのように放たれる質問。
「ぼちぼちですかね……。」
「それならいいんだ。いじめだけは絶対見逃したくないからな。何事も早期発見だよ。」
俺の前に座す倉山先生はクラスで一人な俺に気を使ってくれてるんだ。
その無精髭、硬派な見た目とは裏腹な優しさも運動部顧問の割に、温厚で老けても若くもないちょうどな歳の人が持ち合わせているにしては物珍しい。(全国の運動部顧問の先生方に謝れ)
決してボッチな奴を目の敵にして腫れ物にしようとしている訳では無いし悪気なんてもってのほかだ。
だからこそ刺さる、その純真な問い。
先生、俺、来学期こそ友達作ります。
「じゃあ次、鴻野呼んできてくれ。」
「はい。ありがとうございました。」
面談室を出て、次の役者を呼びに教室へ向かおうと階段を下っていると。
「何にやけてるのよ。」
「げ、優れてる方。」
「スグ、?」
「忘れて、こっちの話だから。倉山先生が出番だよって。」
「そろそろだと思って事前に向かってて正解だったみたいわね。」
予知能力でも持ってるのかよ。
「それに木下のことだから、そう長くはかからないでしょ?」
何を自慢げに。人の成績が浅く薄いみたいに言いやがって。
「一クラス分、今日中に終わらせるためには序盤で躓いてたらマズいだろ。気を使って円滑なコミュニケーションをな。」
「はいはい。お疲れ様。」
小学生からの幼馴染である鴻野 楓に自分の成績を誤魔化してる途中だったが切られてしまった。
この素晴らしい結果を自慢してやろうかと思っていたが、どうやら興味はないらしい。無論、聞かれては、こちらが恥ずかしくなってしまう結果だったのだが。
「いいから早く戻りなさいよ。試験結果、返してもらったらホームルーム無しで帰っていいって倉山先生言ってたでしょ。」
「そういえば……言ってたような。」
「昔から抜けてるけどそろそろしっかりしたら?」
そういうと叱責し飽きたのか鴻野は面談室へ向かう。
こうして迎えた予想外の放課後を有意義に過ごそうと校門を出た俺は前々から行きつけのカレー屋へ足を向けた。
俺は友達はいないが自他ともに認めるグルメだ。
唯一誇れるというか常人以上の意欲があるものといえばそれは食事だ。
自慢じゃないがこの地域近辺の飲食店(チェーン店も含む)ほとんどを食べ歩いた。
この街の美味しいお店を教えて、と問われればこと食べログ評価では書ききれないほどの知識量を披露してみせよう、マダム━━━━━。
そんな俺が今日の英気を養うために、選びに選びぬいた替えがない精鋭が【そおる食堂】の牛すじカレーだ。
店は学校から歩いて20分ほどかかる駅の近くで営業しているが、味も値段も歩く価値があるものだ。
道中照りつける日差しも、今のルンルンな俺の足取りを止めるには実力不足。 跳ねる気持ちを抑えながら歩みを早め、ようやく店へ到着した俺は颯爽と席に着き、注文をする。
届いた料理を眺め今日の惨めさを忘れる。
俺は知ってる。このカレーが美味いことを。
スプーンを手に取り、いざ実食。
「いただきます。」
そう呟くとすぐさま動くスプーンはまるで俺の脳が操ってるとは思えないほどのスピードでカレーを口に運んだ。
「ーーーーーーっ!!」
熱さと美味さと程よい辛さに悶える。
今日のあれこれを忘れひたすらにカレーを食べる。
この牛すじの溶け具合、ルーとの相性、バツグンだぜ。
こりゃCoCo壱も目じゃないな。まぁこの街にCoCo壱はないのだけど。
勢い止まらぬスプーンは皿の隅々までルーをすくい上げ、遂には米粒一つも残さず、空の皿を作り上げた。
「ふぅ……最高。」
これが俗に言うドカ食いだな。
至福の瞬間を終え店を出ようとカバンを手に取る。 中身を探る手は次第に速度を増していく。
無理もない。あるべきものが無いのだから。
あるべきものが、絶対に無くてはならないものがそこにはないことに気づく。
財布が━━━━━無い。
店長に訳を話し、猛ダッシュで学校にUターン。
前々から行ってて、良かった、店長ありがとう!店長ありがとう!と思いながら、今ようやく帰路についたであろう学生とは逆走し学校へ向かう。
これでは忘れ物をしていますと自己紹介してるようではないか。
しかし今はそんな羞恥心より檻の中が脳裏に浮かぶ。それだけは避けたい。
俺は速度を落とさず走ったお陰で来る時よりも二回りくらい早く学校に到着した。
「は"ぁ"、は"ぁ"、は"ぁ"、死"ぬ"カ"レ"ー"出"る"」
猛暑も相まって、さっき食べたカレーも今では、体を蝕む原因のひとつとなり散々だ。
全身で息を整え教室へ向かう。
やはり、ロッカーに忘れていた。
「良っっっかったあぁ。」
正直ここになければお手上げだった。
まだ荒い息を落ち着かせ、店へ向かおう。
「さ、戻るか。」
「あの━━━━━」
教室を出ようとしたとき知らない声が背中から聞こえた。
振り返るとそこには隣のクラスの女子が。
えーっと確か名前は……。
「ど、どうも、2組のく、くさ、草薙 もみみ、椛です……。」
わーなんだろすごいかわいい。
「ど、うも、木下 雅樹っす。」
思わず口に出そうなのを堪えて挨拶を返した。
予想外の返答に彼女は挙動不審を見せる。
黒い前髪に隠れた目はキョロキョロと縋るように何かを探していて、とても話が続けられる状態ではなかった。
「あの、草薙さん?」
「ひゃいっ!?」
かわいい。アニメ以外で初めて聞いたよひゃいなんて。
「なんの用でしょう━━━━━?」
「えと、あの、そのわわわあわあわ」
この流れ、俺がいくら友達がおらず、放課後を一人悲しく過ごしているとしてもわかるぞ。
これは、告白だ。
しかし、何故?
俺と草薙さんとの間にそんなイベントが発生するほど交流はないはずだ。
となれば俺の勘違い?
いや、いーーや勘違いではない。
かくいう俺はどこにでもいる高校一年生。
こんなイベント発生したなら期待の一つや二つしてしまう。
この人気のない廊下で2人。
シチュエーションとしてはいいではないか。
そう思うと今まで関心なかった草薙さんが可愛く見えてきた。
今も聞き取れない小さな奇声を発してるがよく聞けば可愛らしい声。
華奢な身体には似合わない良いものを持ってるではないか。
胸は今にもボタンが悲鳴をあげようとしているほど張り詰めている。
制服、最高!!ありがとう日本!!
何に対しての感謝かわからないが━━━━━
「わた、わたた、わたたしし……。」
わたし?
「すすs、すk」
すき?
「私、好きな人がいるんです!」
━━━━━は?




