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第2話 封緘(ふうかん)者とは閉じる者、開封者とは開く者 その1

 さまざまなサイズや形状のコンクリートブロックや鉄パイプや鉄板、足場材が整然と積まれた資材置き場の片隅にふたつの人影があった。

 ひとりはスーツにサファリハットという奇妙な出で立ちの青年、もうひとりはパーカーにデニムパンツの女子小学生。

「ここ?」

 砂利を踏みしめ見上げる小学生に青年が答えながら帽子を脱ぐ。

「ここです」

 小学生は正面に向き直ると右手を青年の持つ帽子の中に突っ込む。

 そこから取り出したのは大型のハンマー。

「じゃ、やるよ」

「どうぞ」

 短く言葉を交わし、小学生がハンマーを振り下ろす。

 なにもない空間に火花が散り、亀裂が現れた。

「お見事」

 亀裂の奥でうねうねと躍るタコ足に青年が微笑む。

 不意に、そのタコ足の間から墨の塊がぷっと噴き出された。

「おっと」

 青年は穏やかな表情を変えることなく、それを左手で受け止める。

 “墨”はスライムのように手のひらを移動し、薬指の先端にまとわりつく。

 青年は満足げに頷くと、その薬指とすでに黒く染まっている小指を伸ばして小学生に向ける。

「これで四箇所終了、ですね」

「残りは……二十四?」

 小学生の手からハンマーが消える。

 青年が答える。

「そうです。一昨日のひとつ目から昨日のふたつ目、そして、今日の昼過ぎに開いた三つ目のこれらすべてはすでに封緘――つまり、閉じられてるようですけどね」

「閉じられてるって……」

 青年の言葉に小学生の顔色が変わる。

「じゃああたしとの約束は? またやり直すの? 最初から?」

 食いつくような勢いの小学生に対し、青年は穏やかに笑う。

「心配いりませんよ。約束は二十八箇所の亀裂クラックを開くこと。そのあとで閉じられたからといってなかったことにはなりません」

「なんだ」

 ほっと息をつく小学生に、青年は幼い妹を見るような笑顔で続ける。

「私の指関節すべてを黒く染めることができれば、彩美あやみさん、あなたの願いはちゃんと叶えて差し上げますよ」

「あたしの願い……」

 彩美と呼ばれた小学生がつぶやいた瞬間――

「こらあああああっ」

 ――怒気を孕んだ濁声がふたりを襲った。

 目を向けると、ここの管理を任されているらしいスエットにジャンパーを羽織った大柄な若者がやってくるのが見えた。

「なに勝手に入ってんだ、ああ?」

 若者はふたりを睨みながら噛みつくような勢いで怒鳴りつける。

 しかし、ふたりの表情は変わらない。

 慌てるでもなく、ましてや反省しているようでもなく。

 小学生の方は“なに、こいつ”と言わんばかりに憮然と、青年の方はかすかな笑みすら浮かべて若者を見ている。

 そのふたりの間を縫って亀裂から伸びたタコ足が風を切る。

 タコ足に触れた若者はその場で十センチほどの貝殻に姿を変え、砂利敷きの地面に転がった。

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