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エピローグ 図書室にて その1

 珪斗が訪れた時、放課後の図書室には誰もいなかった。

 スマホで遊んでいた当番の図書委員はいきなりの利用者に“めんどくせえなあ”という表情を見せるが、すぐにスマホに意識を戻す。

 図書委員とはいっても別に本が好きでやっているわけではない。

 ランキングの上位が体育会系であることからもわかる通り、和岳高校における図書室の利用率はけして高くない。

 調べ物が必要な課題が出た時くらいにしか利用されることはなく、放課後の図書室は誰もいないのが“いつもの光景”なのだった。

 なので“なんらかの実作業を伴う他の委員会より楽そう”という横着な理由で図書委員に立候補する者も珍しくなかった。

 今、遊んでいる図書委員のように。

 郷土史のコーナーへ進んだ珪斗は、奥の閲覧机でハードカバーの市史を広げる。

 ほとんど誰も手に取ることがないらしく、新品同然のそれを古代から現代へ向けてぱらぱらとページを繰っていく。

 見たい情報はすぐに現れた。

 それは和岳原古墳のページだった。

 今ならばドローンで撮影するところだろうが、市史に掲載されている古墳は市役所の屋上から撮影したものらしく、その全景写真は、あの日、珪斗が見たのとまったく同じ構図だった。

 しかし、肝心の記事はといえば、それほど語るべきことがないのか、あるいは不明なことが多いのか、ごく当たり前の古墳としての情報が簡潔に書かれているだけだった。

 当然のように、どこにも“禍々様”や“亀裂”に関する記述はない。

「ちぇっ」

 思わず舌打ちを漏らし、それでもせっかくだからと残りのページを眺めるとはなしに繰っていく。


 岩槻管郎がどうしているのかは知らない。

 北高へ転校してしばらくは垣崎のもとへイトコから動画が送られてきて“笑いもの”にされていたようだが、最近は飽きたのか――あるいは退学したのか――うわさも聞かなくなった。

 そもそも、禄郎の末路など珪斗にとっては“どうでもいい話”なのである。


 端岡彩美にはあのあと、一度だけ会った。

 いや、正確には“見かけた”。

 珪斗が親からのお使いで下校中に立ち寄った駅前のコンビニを出た時、向かいの歩道を老婦人と弟らしき男の子と三人で駅に向かって歩いていた。

 珪斗と目が合った彩美は一瞬、気まずそうな表情で立ち止まったが、すぐになにか言いたげな表情へと変わった。

 しかし――。

「姉ちゃん?」

「彩美ちゃん?」

 同行している男の子と老婦人に声を掛けられて我に帰ったらしく――

「うん、なんでもない。行こ」

 ――何事もないように三人で駅の人混みに消えていった。

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