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第6話 放課後クロスオーバー その11

「和解が成立したようで」

 満足そうに頷く虎目に、珪斗と珊瑚が頭を下げる。

「えと、いろいろとお世話になりました」

「……デス」

 そんなふたりに虎目が笑う。

「私はなにもしてませんがね」

 珪斗が頭をかく。

「いえ、その……。背中を押してくれたっていうか……」

 そして、問い掛ける。

「でも、どうしてわざわざ学校まで来て……」

 そうなのだ。

 わざわざ学校までやってきて珪斗と珊瑚の和解を後押ししてくれた、その理由は、目的はなんなのか?

 そんな珪斗の疑問に対する虎目の答えは――。

「まだ続きがあるからですよ」

 虎目の微笑みに邪悪な陰がよぎった――ように珪斗には見えた。

 珊瑚は不思議そうに首を傾げる。

「つ、続きっていうのは……なんなのデス?」

 虎目は意味ありげに口角を上げて珊瑚を見下ろす。

 その表情に珪斗と珊瑚は続く言葉を待つ。

 が、虎目はなにも答えずその場から霧のように消え去った。

 同時に聞こえた息を飲む音に、珪斗が瑞乃を見る。

 瑞乃は目を見開いて周囲をきょろきょろと窺っている。

 その様子に、今の瑞乃に虎目が見えていたことを珪斗は理解する。

 ならば……。

「珊瑚」

 珪斗の声に珊瑚が応える。

「わかってるデス」

 次の瞬間、瑞乃の目線が珊瑚を捉えたことが珪斗にもわかった。

 珪斗は瑞乃に声を掛ける。

「上浜」

「ん?」

「相棒の珊瑚だけど……見えてる?」

「……うん」

 珊瑚は頷く瑞乃の前に出る。

 そして、おずおずと口を開く。

「あの……」

 瑞乃は黙って珊瑚を見下ろしている。

 そのプレッシャーに抗すべく、珊瑚が声を張り上げる。

「お墓ではごめんなさいデスっ」

 そして、深々と頭を下げる。

「あ? ああ」

 その勢いに瑞乃は押され、戸惑う。

「本当は教室で謝ろうと思ってたんデス。でも、その、えと、瑞乃が怖かったんで……」

 珊瑚の後ろで珪斗が顔を背けて噴き出す。

 確かに無表情であまり話さない瑞乃は怖く見えてもしょうがない。

 瑞乃はそんなことを思う珪斗を睨み付ける。

 珊瑚はまだおろおろと続けている。

「空気を和まそうと……ノートを見てもらおうと……。そしたら、瑞乃が考え事モードに入って……そこに珪斗が入ってきて……。だから、その、お墓ではご迷惑をおかけしてごめんなさいデスっ」

 瑞乃は改めて頭を下げる珊瑚をいつもの無表情に戻って見下ろす。

「アタシは別に気にしてない」

 そして、珪斗を見る。

「結局、原因はなんだったんだ。やっぱりあのノートだったのか?」

「いや、それなんだけど」

 珪斗が頭をかく。

「珊瑚は別に怒ってなかったってことで」

「は?」

 その言葉を受けて瞬時に頬を赤く染めた瑞乃が珪斗を改めて睨み付ける。

「誰かの勘違いでアタシまで振り回されたってことか。しなくてもいい湖山のフォローまでさせられて」

 珪斗はもちろん瑞乃がフォローした内容を知らないが、仲介に入ってくれたことにはしきれないほどの感謝を抱いている。

 今回の一件は瑞乃自身にはなんの見返りも、そもそも助ける義理もない話なのである。

 それだけでも珪斗にとっては恐縮しきりなのに、さらに“実は僕の事実誤認でした”となれば、瑞乃が怒ってもしょうがないうえ、珪斗としてはお詫びの申し上げようもない。

「申し訳ありませんでしたっ」

 珊瑚以上に深々と頭を下げる。

 そして、珊瑚と一緒に教室を出たあとで買ったグレープジュースを両手でうやうやしく差し出す。

「これ、お礼です。受け取ってください」

「……」

 瑞乃は無言でグレープジュースを受け取ると、珊瑚にずいと顔を寄せて声を潜める。

「教室でアタシが言ったことは全部忘れろ。アタシは全部忘れた。絶対に湖山には言うな。いいな?」

 その鬼気迫る表情に珊瑚が震える。

「わ、わかりましたデス」

 小声で答える珊瑚に瑞乃が頷き、目顔で促す。

 その意を悟った珊瑚が珪斗を振り返る。

「では、さっそく急ぐのデス」

「どこへ?」

 ぽかんと見下ろす珪斗に瑞乃が呆れた声を掛ける。

「貝殻になった人を戻しに、だろ? なんで忘れてんだよ」

「やべ、マジで忘れてた」

 珊瑚との関係が戻ったことですべてが終わったような錯覚に陥っていた。

 それだけ、珪斗にとって珊瑚との一件は重要なできごとだったのだ。

「頼りないな」

 ため息交じりでつぶやく瑞乃に珊瑚が敬礼する。

「じゃ、行ってくるのデスっ」

「い、いってら」

 つられて瑞乃も返礼する。

「上浜、今日はありがと。あと、悪かった。本当に悪かった」

 ぺこぺこと頭を下げ続ける珪斗の手を珊瑚が引く。

「急ぐのデスっ」

「うん。急ごう」

 が、ふたりで校門を出たところで珊瑚が不意に立ち止まる。

「忘れてたデスっ」

「な、なにを」

 珪斗の目の前で珊瑚のスカートが瞬時に短くなった。

以前こっちの方がいいデス?」

 赤い頬で目線を外しながら問い掛ける珊瑚に珪斗は即答する。

「どっちでもいい」

「デス?」

 珪斗は一瞬戸惑った表情を浮かべた珊瑚へ、畳みかけるようにまくしたてる。

「“どうでもいい”じゃないよ。“どっちでもいい”だ。どっちも好きだ。中身が珊瑚なら、どっちでもいい。どんな格好でもいい」

 珪斗は慣れない言葉に文字通り火を噴きそうな顔面で繰り返す。

「中身が珊瑚であれば……それでいい」

「……デスっ」


 珪斗も珊瑚も気付いていなかった。

 そして、姿を消した虎目も気付いていなかった。


 校門向かいの歩道から自分たちを見ていた女子小学生の存在に。

 虎目とともに“開封者”として行動していた端岡彩美の存在に。

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