第6話 放課後クロスオーバー その5
“魔法陣”をざっと消して新しい紋様を描く。
そして、再度、指を鳴らす。
新しい光の玉が現れた。
「今度は真珠の意識だよ。これもやっぱり部分だけどね」
虎目は珪斗にささやくと、光に向き直って問い掛ける。
「君は真珠の意識でまちがいないか」
光がゆらりと揺れて答えた。
「まちがいない。私は真珠の一部だ」
その反応に珪斗が違和感を覚えてぼそり。
「なんか口調というか雰囲気が違いますね」
「一部だからね」
あっさり答えた虎目は光に本題を問う。
「珊瑚に告げたパスコードの中身はなんだ」
光が明滅する。
「暗号化した情報の復元コードだ」
「なんの情報?」
問い掛ける虎目に真珠の意識が答える。
「湖山珪斗の部屋から持ち出したノートだ」
「げええええええええっ」
思わず叫んだ珪斗に虎目がびくっと目を向ける。
しかし、珪斗はそれどころではない。
消失した妄想ノートだと。
その中身があろうことか珊瑚に伝わってただと。
「い……いつのまに」
思わずつぶやいた次の瞬間、思い出す。
“真珠の消息がわからなくなった日の夜”に“真珠が訪ねてくる夢”を見たことを。
いやいやいやいや。
あれは夢ではなかったのだ。
実際に真珠が僕の部屋を訪れていたのだ。
ていうより僕自身が招き入れたのだ。
赤い顔でだらだらと汗を垂らす珪斗を、ノートがなんなのか知らない虎目は訝しげに見ている。
そんな虎目へ真珠の意識が続ける。
「珊瑚がかわいそうだったから。そんな目で見られていることも知らず、一生懸命、湖山珪斗を信じて行動している珊瑚があまりにもかわいそうだったから。だから、その内容を珊瑚に見せてやろうと思った」
「ぐぐぐぐ」
珪斗は言葉が出ない。
ひたすら頬を赤く染め、全身から汗を噴き出させるしかない。
虎目が改めて真珠の意識に目をやり、問い掛ける。
「ところで、封緘をやめるというのは?」
「……」
真珠の意識は答えない。
虎目が首を傾げる。
「言えないか?」
少しの間を置いて真珠の意識がゆらりと揺れた。
「岩槻管郎はケダモノだった。それだけだ」
珪斗がその言葉の意味を直感的に悟ったのと同時に真珠の意識が告げる。
「あのノートを見た時に同じ臭いを感じたのさ。湖山珪斗はいずれ岩槻管郎と同じことを珊瑚に対してやりかねないとね」
珪斗はなにも言い返せない。
もし珪斗が上位ランカーであったなら、とは言わないまでも最下位ランカーでなかったなら、自信を持って言えただろう。
自分は管郎とは違うと。
そして、真珠の言葉が“管郎によって壊された心が生み出した思い込み”であると反論できただろう。
しかし、珪斗は上位ランカーではなく最下位ランカーである。
相手が断定すれば否定も反論もできずに流されてしまううえ、自分自身に対して自信を持つこともできず、低い自己評価の中で生きてきた人間なのだ。
なによりも、珊瑚を“相棒”ではなく“女の子”として見ていたことは事実であり、その一点だけとはいえ真珠に対する管郎とまったく同じ認識だったのだ。
それを知った珊瑚が、管郎に対して真珠が抱いたものと同じ感情を珪斗に抱いたとしても不思議はない。
というよりも、確実に抱いたのであろう。
珊瑚から珪斗へのよそよそしい態度は、珪斗に対する不信感の表れと考えれば合点がいくではないか。
さらに虎目が言った、珊瑚が凹んでいるらしいという臆測とも矛盾しないではないか。
なによりも、よそよそしくなった珊瑚のスカートが長くなったことがノートの中身に嫌悪感を抱いたことの決定的な裏付けではないか。
そんなことを考える珪斗の脳裏にひとつのイヤな記憶がよみがえる。




