第6話 放課後クロスオーバー その3
放課後の購買は営業時間外ということで誰もいなかった。
珪斗は自動販売機の前でポケットから財布を取り出すと――
「瑞乃はなにを飲むんだろう」
――そんなことをつぶやきながら並ぶ商品に目を這わせる。
その時、背後で窓ガラスを叩く音が聞こえた。
上位ランカーなら友人の存在が頭をよぎるところだろうが、友人がいない下位ランカーの珪斗にとってはやかましいだけでしかない。
「なんだよ、うるさいな」
舌打ちとともに振り返る。
そして、ガラス越しに立っている人物を見て身を硬直させる。
虎目だった。
どうしていいかわからず立ちすくむ珪斗に、虎目は初めて会った時と同じ穏やかな笑みで窓を開けるよう手振りで告げる。
珪斗はまるで催眠術に掛かったかのようにふらふらと歩み寄り、解錠した窓をからからと開く。
虎目はあの日と同じくサファリハットを浮かせて微笑む。
「久しぶり」
珪斗もまた、あの日と同様に無言で頭を下げる。
虎目が笑う。
「いやあ、良かった。この学校で」
その言葉から珪斗に会うためにやってきたことがわかる。
おそらく、初めて会った資材置き場に最も近い学校ということでここを訪ねてきたのだろう。
そして、もし、ここで会わなければ、市内の全高校――とはいっても二校しかないのだが――を訪ねるつもりだったらしいことが窺える。
そんなことを察した珪斗に虎目は“今の珪斗が最も訊かれたくないこと”を問い質す。
「最近、どうしたんだい?」
珪斗は答えられず――
「いえ……」
――曖昧に返す。
虎目は窓枠に手をついて身を乗り出すと、大げさな身振りで校舎内を見渡す。
そして、改めて珪斗を見る。
「珊瑚はどこに?」
珪斗がうつむいてもごもごと答える。
「……連絡が付かないというか」
「それはありえないな」
そう言われても事実なのでなにも答えられない。
虎目は少し考えて告げる。
「今からちょっと出てこられないか」
その言葉に珪斗はためらう。
虎目とは自分たちにとって“敵対勢力”である。
従っていいのだろうか?
そんな珪斗の逡巡を見透かしたかのように虎目が促す。
「怖がることはないさ。君に危害を加えるつもりなら初対面でやってるし。そもそもそんなつもりはないことはあの時に言った通り。そんなことより、私なら珊瑚と連絡をとれるかもしれないよ」
その一言に珪斗は考えるよりも先に答えていた。
「い、行きます」
しかし、答えてから軽はずみな自分を反省する。
虎目の正体がわかってないのに、ついていって大丈夫なのか?
もうひとりの自分が答える。
正体がわかってないのは珊瑚だって同じじゃないか。
虎目と珊瑚、そして、真珠――この三人は目的こそ違えど似た存在であることはまちがいない。
つまり、虎目が珊瑚と連絡をとる手段を持っていても不思議じゃない。
少なくとも、自分や瑞乃よりも珊瑚に近しい存在なのだから。
しかし、さらに別の自分が口を出す。
虎目の目的はなんだ?
ここで珊瑚と連絡をとることが虎目にとって意義のあることなのか?
虎目にとって“敵対勢力”の珪斗を助けることにどんな利点があるというのか?
なにかの罠かもしれない。
それでも――。
気が付けば珪斗は生徒玄関へ向かっていた。
虎目とは珊瑚と連絡をとれる人物である――今の珪斗にとってそれこそが最も重要なことであり、それ以外はどうでもよかった。
それだけ追い詰められていたのかもしれないけれど。




