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第5話 笑わない珊瑚 その1

「知ってる? となりのクラスの岩槻」

「誰?」

「岩槻管郎っているっしょ。最下位の。ウチのクラスだと湖山ポジの」

「あー、いたね。どうかした?」

「転校だってさ」

「どーでもいいよ、そんなの」

「それがさー、転校先が北高きたこーだって」

「マジ? あいつ、ぜってー死ぬじゃん」

「だろ。ずっと学校さぼってたのが家にばれて、呼び戻されるんだってよ」

「で、家から通える学校ところってことか。バカだねえ。ちゃんと通ってりゃよかったのに」

 朝の教室で、席を立った珪斗はそんな噂話を背中で聞き流しながら教室後方の掲示板へ向かう。

 そして、貼り出されている掲示物に目を這わせる。

 ただ、目を這わせるだけで読んではいない。

 席を立ったのは、掲示物に用があるからではなく、管郎の噂話が耳に入るのがおもしろくなかったから――それが理由だった。

 とはいえ、その感情の根底にあるものは管郎に対する嫌悪でもなければ、ましてや同情でもない。

 普段は存在を無視しているのに、事件や事故に巻き込まれたり、なにかに失敗したりしようものなら瞬く間に話題の中心にする――そんな同級生の態度が不快だった。

 その不快感の理由には管郎だけでなく珪斗自身もまったく同じ境遇だからという事情があることは言うまでもない。

 失敗したり叱られたりした事実は十分後にはとなりのクラスにまで拡散しているが、逆に成功したり褒められたりしたことは、いつも通り黙殺される。

 そういうスピーカー役が至る所でアンテナを張っているのがこのクラスなのだ。

「湖山はどーなるんだ」

 そんなスピーカー役のひとりである男子生徒が、珪斗へ聞こえよがしに声を上げる。

 もちろん、その声色は楽しんでいる。

「そうそう。岩槻がいなくなったら学年ランキング最下位争いにも影響だよなあ」

 そう言って爆笑する。

 その笑い声を聞きながら、珪斗は教室を出た。

 そして、とりあえず教室にいたくないから出てきただけではあるけれど、せっかくだからと始業前のトイレに向かう。

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