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第4話 真珠になにが起こったか その6

「珪斗、大丈夫デス?」

 イチョウの下から駆け寄ってくる珊瑚に珪斗が問い返す。

「真珠さんは、どこへ……?」

「わからないデス。ただ、封緘をやめるそうデス」

「やめる?」

「はいデス」

 こともなげに答える珊瑚から真珠の消えたイチョウへと目線を移す。

「なにかあったのかな」

「それは訊いてないデスけど」

 珊瑚もまた珪斗の目線を追ってイチョウを見上げる。

 そして、珪斗が次に問うであろう疑問を聞くまでもなく答える。

「言いたくないって言ってたから訊かなかったデス。言いたくないことを言うのはつらいことなのデス。つらい思いをさせてまで訊きたくないのデス」

 その言葉に珪斗は珊瑚を見下ろす。

「珊瑚は――」

 珊瑚も珪斗を見上げる。

「はいデス?」

 珪斗は無意識に自身の表情が緩むのを感じた。

「――いい子だな」

「しししっ」

 照れ笑いの珊瑚だが、すぐに思い出したように声を上げる。

「そーデスっ。忘れちゃいけないデスっ。珪斗っ」

「どうした?」

「あれデス。あれを早くデスっ」

 珊瑚は両手でスマホほどの長方形を描きながらじたばたと足踏みをする。

 それがなんなのかすぐに珪斗は理解する。

「プレート? ちょっと待って」

 ポケットから取り出して珊瑚に向ける。

 珊瑚は珪斗の手にしたプレートに顔を寄せてささやく。

「二十億年前――火星で――妹が――吊り橋を――飲み込んだ」

「なんだそれ」

「真珠の伝言なのデス。忘れそうなのでプレートに記憶させたのデス。じゃ、また明日なのデス」


 その夜、珪斗は妄想ノートが消失していることに気が付いた。

 とはいえ、部屋のどこかにあることはまちがいない以上、慌てる必要はないだろうとベッドに身を投げる。

 そして、ごろりと仰向けになって天井を見上げる。

 仮に妄想ノートをなくしていなくても、あるいは、今から探してすぐに見つかったとしても、今日の珪斗は妄想に浸る気分ではなかった。

 なので“ノートの捜索”は明日以降にして今日はとっとと寝ることにする。

 部屋の照明を消して目を閉じると、まぶたのうらに“妄想に浸る気分ではない理由”が浮かび上がる。

 ひとつは初めて見た珊瑚の泣き顔。

 そして、もうひとつは去り際に珪斗を一瞥した真珠の表情。


 その表情は明らかに珪斗を睨み付けていた。

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