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第3話 上浜瑞乃という女 その1

「湖山、いいか?」

 クラブ活動が盛んなこともあり、放課後に突入すると同時に教室は潮が引いたように誰もいなくなる。

 そんな“他には誰もいない教室”で呼び止められた珪斗は耳と目を疑った。

 そもそもクラスの最下位ランカーである珪斗が同級生から声を掛けられることなど“代わりに委員会へ行け”とか“当番を代われ”といった用件くらいしかない。

 しかし、今、声を掛けてきた生徒の用件がそれらとは思えない。

 というのも声を掛けてきたのは女生徒なのだから。

 女生徒がめんどくさいことを押しつける相手は“下位ランカーの女生徒”なのが暗黙の了解であり、そもそも女生徒が最下位の珪斗ごときを相手にすることはないのだ。

 だから珪斗は耳と目を疑い、そして、戸惑った。

「な、なに、かな?」

 少し緊張気味に問い返す。

 声を掛けてきた相手――無感情女・上浜瑞乃へと。

 瑞乃はどこのグループにも属さず、常にひとりで、男子は元より女子の間でも“なにを考えているのかわからない”と遠巻きに観察されているような生徒である。

 そんな女生徒ゆえに目的の読めない不安感と警戒心が珪斗を包み込むのも当然のことだった。

 瑞乃は周囲を見渡して改めて誰もいないことを確認すると、ずいと距離を詰める。

 少し遅れてふわりと漂ってきたいい匂いに珪斗の緊張が増す。

 瑞乃はそんな珪斗の目をレンズ越しにじっと見つめたままスカートのファスナーを降ろす。

 思わぬその行動にこれからなにが起こるのかと珪斗の心臓が加速する。

 降ろしたファスナーの奥へと潜り込んだ瑞乃の手がスカートの中でなにかをまさぐっている。

 珪斗の目がスカートの中でもぞもぞしている手と、相変わらず無感情な瑞乃の表情をせわしなく行き来する。

 そんな珪斗に対して瑞乃は表情を変えず、スカートの中から取り出したものを見せる。

「これ、元に戻せるんだよね」

「こ、これって」

 珪斗は目を見張り、息を飲む。

 それはクラックのそばにいつも落ちている貝殻――その正体はクラックから伸びる禍々様に触れた犠牲者の変わり果てた姿である――だった。

 思わぬものを突きつけられて戸惑う珪斗に瑞乃が続ける。

「昨日、湖山が資材置き場に入ってくの見てたんだけど」

「え、あ、ああ、うん」

 瑞乃は珪斗と珊瑚の“初仕事”を見ていたらしい。

 予想外のことに要領を得ない返答しかできない珪斗を、瑞乃は対照的に力のこもった目で見ている。

 まるで睨み据えるように。

 そして、繰り返す。

「戻せるんだよね?」

 その眼力に押された珪斗はあわあわと答える。

「うん、たぶん。できる……と思う」

「じゃあ、戻してよ」

「ちょ、ちょっと待って」

 ポケットからプレートを取り出して昨日のように画面のカーテンを指先でタップする。

 慌てたような珊瑚の声がもぞもぞと返ってきた。

「ちょ、ちょっと待つデス」

 しかし、瑞乃の眼力にきりきりと縛り上げられている珪斗にそんな余裕などない。

 叩く(タップ)以外には確か……。

 テレビで見たのを思い出し、横方向にスワイプする。

 画面の中でカーテンがしゃっと開く。

 そこには半裸でドーナツをくわえている珊瑚の姿があった。

「どーしていきなり開けるんデスかあああああっ」

 珊瑚は口元から落としたドーナツをそのままに、慌てて胸元を隠してカーテンを閉じる。

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