3.牛と鏡と推しのはじまり
村を抜け、ようやくたどり着いた教会は、白い石造りの立派な建物だった。
扉を開けると、香のような匂いと荘厳な静けさ。
私と牛……夢愛を不思議そうな顔で見ていた神官たちの前に、司祭様が現れた。
まだ若い。二十代半ばくらいで、真面目そうな目をした人だった。
私は深呼吸をし、話しだす。
「…今から話す事は本当のことなんです!お願いします!助けてください!!」
「彼女はもともと人間なんです!私の親友で、別の世界に居たんですが2人でなぜかこの世界に迷い込んでしまって、その時に彼女がなぜか牛になっていたんです!!私とだけはテレパシーで会話できるんです!ほんとなんです!変なこと言ってると思うかもしれませんけど!」
司祭は目を丸くしたが、すぐに真剣な顔になり、頷いた。
「……信じましょう。異界から迷い込む人が稀に現れると言うのは存じております。どうか、祈りの間へ」
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そして奥へと案内される。
そこには巨大な鏡が祭壇のように据えられていた。
縁には古い文字が刻まれ、淡く光を放っている。
「これは“真実の鏡”。姿形がどんなに変わっていようとも、本来の姿を映し出します」
司祭の声が響く。
夢愛が牛の足を震わせた。
「ンモ……(もし映ったのが牛のままだったら……私、もう戻れないのかな)」
私は夢愛の肩付近をぽんと叩く。
「大丈夫。ほら、行ってみよ」
牛の夢愛が鏡の前に立つ。
光が揺らめき、映し出されたのは…
長い髪をふわりとなびかせた、美しい少女だった。
透き通るような肌にくりっくりの瞳。ふさふさのまつ毛は影を落とし、バラのような赤く可愛らしい唇が柔らかな笑みを作り出す。
それはそれは信じられないくらい整った顔立ち。
「…………」
沈黙。
私も、司祭も、夢愛本人すらも言葉を失った。
「…………」
最初に声を上げたのは私だった。
「…可愛いすぎる…いや…"美"!!圧倒的"美"!!」
(……ゆずき?)
「推す以外の選択肢などもはや存在しない…尊い……!」
(ちょ、やめて!?今牛だから!現実の私は今、牛だから!!)
「この美しさを見て推さないなんてあり得る!?ありえないでしょう!!!」
「ンモォォォ!!(やめろぉぉぉ!!)」
司祭は呆然とつぶやいた。
「……これほど清らかな美を持つ方が……牛に姿を変えられているとは……神よ、なぜこのような試練を…」
真剣に祈りを捧げる司祭。
その横で私は両手で顔を覆って叫んだ。
「夢愛!私はこの世界であなたを推すことにするわ!!!!」
「ンモモモモ!!!(落ち着いてぇぇぇ!!)」
鏡の中で頬を赤く染め慌てる夢愛は、たしかに圧倒的に美しい少女だった。
私は涙目になりながら夢愛の牛の顔を抱きしめる。
「……夢愛、絶対人間に戻ろうね!推しのために私、頑張るわ!!!」
「ンモォォォォ!(やめろーーー!!!)」
こうして私は――異世界で親友を“推す”ことになった。




