2.牛は草を食べる。夢愛は?
持ち物が異世界仕様に変化していたが、この世界の財布やお金らしきものもあったため、村の宿に宿泊できることになった。
正直粗末な宿屋だけど、屋根があるだけで今はありがたい。しかも夢愛を一緒の部屋に入れていいと言ってくれた。ありがたい。
「はい、お嬢ちゃんにはパンとスープね」
宿のおかみさんが皿を置いてくれる。
温かい匂いに、ホッとした。
その横で「はい、この子には」と出されたのは山盛りの牧草。
「……牛だし、まあそうなるよね」
「ンモオオオ!?(いや待って!これ私の!?)」
夢愛の悲鳴が頭に響いた。
「モォォォ!!!(いやちょっと待ってゆずき!これ青臭い匂いしかしないんだけど!?)」
(仕方ないじゃん、牛にパンとスープは出さないでしょ)
(でも心は人間なんだってば!!)
必死に抵抗する夢愛。
けれど空腹には勝てず、ついに一口。
「……ンモ……(あれ?ちょっと甘い?)」
(……今“イケる”って思ったでしょ)
(思ってない!!!)
私と夢愛の目線などでのやり取りを見て、おかみさんは笑った。
「あんたたち、仲良いねえ、それにこの子よく食べるねぇ、元気な牛だこと」
「え、あ、はい……まあ……へへ」
「ンモォォォォ!!(私はまだ人間よ!!尊厳!!!)」
ーーー
夜。
寝床の藁の上で、夢愛がぽつりと声を落とした。
(…ねぇ、ゆずき。もし私が“草うまっ”って本気で思うようになったら……どうする?)
「……」
(魂の同期が進んで、心まで牛になっていくのかもって思ったら……正直、怖いんだよ)
私は夢愛のつぶらな牛の目を見て、肩をすくめた。
「きっと大丈夫。私が絶対人間に戻すから。……だから今は我慢して草食べて」
「ンモォォォォ(ううううう涙)」
そして翌朝。
目を覚ました私が見たのは牧草をもりもり食べている夢愛の姿だった。
「……めっちゃ食べてるじゃん」
「ンモォォォ!(違うの!空腹に負けただけなの!)」
「はいはい。夢愛は人間、人間」
私は笑いながら毛布を畳んだ。
……牛は草を食べる。
夢愛は――まだ、ギリギリ人間だ。




