1.親友が牛になりまして…
「……あれ?」
目を開けると、私は見知らぬ林の中に転がっていた。
さっきまで夢愛と推し活帰りに歩いていたはずなのに。
頭がズキズキする。着ていたTシャツやジーンズは、いつの間にかファンタジーの衣装みたいなチュニックに変わっていた。
震える手で腰のポーチから手鏡を取り出す。映った顔は――。
「……え、若返ってない?しかも詐欺写真的ばりのこの顔!」
混乱して鏡を落としそうになった、そのとき。
「ンモォォォ……」
背後から、切実そうな牛の鳴き声が響いた。
振り返ると、一頭の牛がじっと私を見ていた。
「……牛?」
(……ゆずき!)
頭に直接、声が響く。
「ひっ!?え、ちょっと待って。いま喋った!?」
(いや喋ってない!でも聞こえる!?私よ!夢愛!)
「ええええええぇぇぇぇぇぇ!??!?」
林に私の悲鳴が響いた。
「な、なんで牛!? てか耳ピクピクしてるし!」
(こっちが聞きたいわよ! 推し活帰りに事故って……気がついたらこれよ!)
「いやいや!だって口からは“ンモォー”しか出てないし!」
(でも頭では普通に話せてるじゃない!)
私――柚木と、牛の姿になった親友・夢愛は顔を見合わせた。
「これ……どういうこと?」
(わこんない、でも考察するに多分、魂と身体が完全に同期してないんだと思う)
「同期……?」
(そう。魂がちょっとはみ出してるから、こうしてテレパシーで会話できてる。でも――もし完全に同期したら……)
二人同時にゾッとした。
「……牛の脳みそに、夢愛の魂がハマる!?」
(いやぁぁぁやめてやめて!!笑えないから!)
ーーーーー
必死で頭をひねる二人。
「とにかく、このままじゃマズい事だけは間違いないからどうにかしなきゃ!」
(誰か詳しい人探さなきゃ…専門家とか)
「専門家って何の専門家???あ、異世界なら……教会とか?偉い神官的な人なら何か知ってるかも!」
(……それだ!)
こうして、牛になった夢愛を救うため、私たちは教会を目指すことにした。
ーーーーーー
林を抜け、村の外れにさしかかったところで。
村人たちが牛を見つけて目を輝かせる。
「おお!立派な牛だ!」
「よく太って、毛並みも美しい!」
「ンモォォォ!!!モォォォ!!!」(ちょ、やめて!品定めするように見ないでよ!!)
必死の訴えも、口からはやっぱり「ンモォー」しか出ない。
私は慌てて牛の首にしがみつき、叫んだ。
「この牛は家族同然なので売るつもりはありませんっ!!!!」
……こうして私たちの教会を目指す旅は、前途多難なスタートを切った。




