カラクレナイ#79 手枷なんて無いようなもん
目が覚めると周りが肉肉しいものに覆われた空間で壁に寄りかかりながら地面に倒れていた。うーん、気を失っていた……な、なんだっけ?突然現れたギャルに抱えられて…強制的にヘッドバッドさせられて意識が飛んだんだっけ……で?今いるここはどこだ?ただ崖の上にいるってわけじゃあるまい。見た感じ巣のようだが……ってなんだこれ、腕が縛られてるのか?……チッ、壊せない、脱出は無理だな。
「あ、起きたー?よかったよかった、君を傷つける気は無かったからねー。まぁ人質にはとるんだけど。」
「……っ!」
先ほどまで何もいなかったであろう場所に、例の少女が立っていた。彼女はにこやかと笑い、指をクイっと動かすと肉で覆われた地面が変形していき、そうして形作られた不恰好な椅子に座って、足を組み、頬杖をついて何も言わずにこちらを見つめてくる。
「……なんだよ。こっちずっと見て。」
「んー?何でも?ただ面白い体してるなーって。」
「面白い体?」
そう言うと少女は椅子から忽然と消え、まるで瞬間移動でもしたかのように俺の横に移動する。少女は音もなく俺に近づいてくると、顔が触れ合う寸前まで顔を近づけ、手を腹に置き、胸の辺りまでゆっくりと撫で上げる。
「君はまだその血が馴染んでいないようだね。その“悪夢”の血が。困ったなぁ。僕がやったと思われるのも嫌だし……ふっ、ちょーっと痛いけど、我慢してね?」
「え?ッ!!!」
そう言うと少女は左胸に手を置き直し、勢いよく胸に手を突っ込む。手を突っ込んだ場所から噴水のように血が吹き出しぐちゃぐちゃと肉を掻き回す音が聞こえる。そしてバキッという音が聞こえ肋骨が折れるのを感じたと思ったら、そのまま心臓を掴みとられる。バクッ、バクッ、と心臓が跳ねると同時に、強く握られて心臓が潰れそうになる。
こい…、っ!!何が傷つける気はないだ!!いきなり心臓掴み取りやがって、思いっきり俺を殺そうとしてんじゃん!!はぁ…落ち着け、まずは何とかこいつの腕を抜かせないと……!
「っと、これでいいかな。これで君も全力が出せるでしょ。」
「はぁ、はぁ、全力……?」
そう言うと少女は手を引き抜き、血を落とそうと手を縦に振る。俺の胸に空いた穴自体はもう塞がりかけているがいかんせん肋骨が折れている以上、もうちょっとだけ時間がかかりそうだ。
で、全力?全く何言ってんだか、俺の心臓モミモミしてただけのくせに……って魔式が使えるようになってる!?苦行なしでも、いつも使ってる通りに!何で急に?まさか、こいつがやったのか?
「これ…あんたがやったのか?」
「まぁねー見ててなんか嫌だったし」
軽い気持ちですごいことをするもんだ。ともかく、これで俺は魔式を利用していろんなことができるようになった。少し怪しくも思えるが…使わない手はない。この手錠は無理だが手錠が縛られてる壁だったら……っ!
「アッハ、無駄だよ。君が逃げ出すことを考えてないわけないじゃん!壁は壊れないよう、全部私の魔力で強化されてる。結界だって最高傑作とも言えるものを作ったんだから。手錠は…言うまでもないね。私のお手製だよ。」
全方位対策済みってわけか。だけど、唯一対策してない脱出方法があるんじゃないのか?
「一応聞くが、あんたを倒せば結界は解かれるんだよな。」
「?当たり前じゃん。出来ないけど。」
「そうかい。安心したよっ!!!」
俺は腕がちぎれる勢いで腕を引っ張り始める。手錠と壁が絶対に壊れないと言う前提だが、魔式も展開してこれで腕を引きちぎって拘束を抜け出す!こいつも傷つけるつもりはないって言ってるから手出しはしてこないはず。どうせ後から生えてくるんだ。腕ぐらいくれてやる!
「そんな引っ張ったら腕が取れちゃうよ?なーにやってんのさ。」
彼女の言葉は無視してただ引っ張る。まず手首の関節が外れる。次に肘、肩と順々に。徐々に腕がミシミシと不快な音を立て始める。壁や手錠が壊れるそぶりはない。ストップも入らないしこのまま……!!
「腕を引きちぎってまで拘束から逃れたいだなんて…ドMなの?逆か?まぁいいや。私は止めないし何だっていいケド、どうなっても知らないからね。」
そう言って彼女は後ろを向く。ま、干渉もされないってことで好都合だ。俺はさらに力を入れて引っ張る。すると肩あたりの皮が裂け始め、肉が見え始める。ミシミシという音がミチミチという音に変わりついに骨が見えるようになる。後もう少しぃ……力を引き絞って!
「おらぁああああああ!!!!!」
一気に力を込め、両腕とも肩から腕を引きちぎる。そのまま立ち上がり、腕を治しながら少女に向かってこう尋ねる。
「少し紹介が遅れたなぁ。俺は紅咲、あんたは?」
「……私は赤い血潮の「腕」、ブラッキウム!セロ・ブラッキウムだ。」
彼女は心臓モミモミで魔力の栓を抜いたわけですが、あれは固まった魔力を吸収したって考えてください。あとついでに血が馴染むようにしてます。今の庵は血だけほぼ純血だと思ってください。




