カラクレナイ#77 幕が閉じる。暗雲は立ち込める。
焦らせんなよ
地面に固く固定されてその場でヌシがのたうち回る。小さな手をばたつかせ、背中から膨大な量の魔力を放出し続け灰の鎖から逃れようとするが、全方向からがっしりと巻きついた鎖からは逃れられず、見ていて哀れになってくるほど情け無い姿になっていた。
「はぁ、手間取らせやがって…面倒くさい野郎だったぜ。でもそれも…これでしまいだぁっ!!」
動けないヌシに向かって魔力を注入し続ける。アテネさんが手こずるほど固い術式だったとしても魔力さえ注入すればぶっ壊せる。とはいえ…やはりなかなか割れない。一応苦行もしてるが…これでまだ割れないとは……触手のヘボヘボ結界とは比べものになんないな。
「グギャアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
「っぐ……!なん…だよ……これ……!」
「み、耳が……!」
「これは……っ不味いですね……っ」
結界に魔力を注入し始めると今まで一つも言葉らしい言葉を話さなかったヌシが赤ちゃんの泣き声に近い金切り声をあげ始めた。これ……っ、どこから出てんだ……?止めないと……っ頭が割れるっ。でもっ、魔力の注入は止められないっ。誰か……っ、頼むから止めてくれ!
「安心しろ!耳を魔力で覆うんだ!!そうしたら多少はマシになる!!」
「……!助かった!!ありがとよ!!」
アテネさんの呼びかけでなんとか俺の頭は守られた。こいつ…往生際が悪いんだよ。この見た目で赤ちゃんみたいな泣き声出したらもう赤ちゃんだろうが。いや、もしかしたらその可能性もあるか?確かミネルヴァさんがこのヌシは誰かに意図的に作られた存在だかなんだか言ってた気がする……コアに埋まっている本体と思わしき血腫はまだまだ発達しきっていない不完全なものだし、誰かが生まれたばかりの血腫を使って実験したと考えるのが筋か。まぁそんなこと気にせずに倒すが。
と言うかここまで魔力を注入し続けたのは久しぶりだな。こんぐらい長かったのは1番最初に巣を攻略した時ぐらいか?あの時はまだまだひよっこで……って今も言えた立場じゃない、か。まぁ、あの時と比べて流石に成長はしたか。さて、早くこの茶番も終わらせないとな。いつまでも思慮に浸ってる場合じゃないしな。
「さっさと割れろぉおおおおおお!!!!!」
その瞬間、パリンという音があたりに響く。そしてそれとほぼ同時にその場にいた全員がヌシに向かって特大の火力を放とうとする。ってこんなとこいたら巻き込まれる!!
「魔式「獣化」死喰い」
「血術 真理代入 制限解除 魔力超過「鮮血淋漓」」
「魔式「炎鳥上等」」
「魔式「見えざるハデスの兜」冥府の手招き)」
俺の後ろで恐ろしい轟音が4回も連続で鳴る。さらに揺れとともに爆発的な攻撃によって泥があたりに飛び散って俺の背中は今泥まみれだ。あー……もう体中泥まみれだったか。気にすることじゃないな。
それ置いておいて、ヌシはどうなった?後ろを振り返り確認すると、そこにはヌシらしきものは無く、それどころか肉片一つとして残っていなかった。なんなら泥の沼の底が少し見えるほどに。全く…過剰戦力だったか?結界が割れてからは一瞬だったな。
「ふぅ…やりましたねぇ。まさかここまで手こずるとは思ってませんでしたが……」
「そうですね。まさか私もニーズヘッグを使うことになるとは。」
「あれはお前が勝手に使ったんだろ。あのまま紅咲を待てばいいのによぉ?」
「なんですか?だったらあのままあいつに好き勝手やらせろと?少しぐらい発散しないと!」
「それが逢魔ヶ騎士団団長の姿かよ?全く恥ずかしいったらありゃしない。」
「お二人とも、落ちついてください。」
さっきまでゴリゴリ戦闘してたのに…急に和み始めるとは……いや、和んではいないんだが、やっぱ、強い人たちは心の余裕が違うなぁ。とは言え、カリンちゃんはヘルメースさんの肩を借りてるし、アテネさんなんて地面に膝をついて大剣に体重を乗せていたりとみんな随分と消耗している。ヘルメースさんは血術しか使ってないからか余裕そうだが、大概ポーカーフェイスだからなあの人は、ちなみにアテネさんの腕と大剣はいつのまにか元に戻っていた。あの形態の時は魔力の消費が激しいのだろうか。
「皆さん、まだ気を抜いていい場面ではございませんよ。まだ黒幕らしき血腫は現れていませんからね。万が一、こんなだらけきった空間に黒幕が来たら何人か死んでしまいますよ?」
そう言えばそうだった。最初の襲撃のハイダーを誑かしたり、今戦っていたヌシを作ったであろう膨大な魔力を持った血腫。うーん、ここにいるかと言われればいなさそうだが……少なくとも、今回の襲撃にも絶対に一枚は噛んでいるだろうし、いたら厄介だしな。ただ、準備を整えていたところでここにいるメンバーでやれるかどうか……まぁバッグには王様もいるし大丈夫か。でも一応気は引き締めないと……
「大丈夫だろ、そういう奴は大体こういう場には姿を現さないっていうのが常識なんだから。だから手駒増やして手下に襲撃をやらせてんじゃないのか?」
「もちろんその可能性もありますが……ふっ、いいえ、忘れてください。私の悪い癖なのです。物事を悪く考えすぎる節がありましてね。」
「そうそう、忘れたほうがいいよー。だってこれからみーんな死んじゃうんだから♡」
“それ”は急に現れた。鮮血を思わせるような色鮮やかな赤い髪、それでいて死を感じさせる見開いた黒い目、恍惚とした顔に口から見える尖った犬歯。返り血を浴びた半袖のシャツと裾を折っているスカート。右手は恐怖に滲んだ顔の兵士の生首を掴んでおり、おもむろに手を挙げるとそれを潰し、頭から血を浴びる。
ギャルに似たその格好の少女はどこからとも無く音も立てずに目の前に立っていた。そしてそいつを見た瞬間、自分の脳が最大限の警戒を告げる。こいつはダメだ!早く逃げろ!と。なぜか?そんなものは見ればわかる。少女からは昼のナイトメアに似た、ドスの効いたとてつもない魔力のオーラを感じるのだ。……だが動かない。一ミリたりとも動かないのだ。周りのみんなもそうなのだろう。ひどく引き攣った表情のままただ茫然とそこで止まっている。
時間が止まっているのではと錯覚するほど静かで、うるさい状態で、気づいた時には少女は自分の後ろから顔を覗き込んでいた。目と目が合う。ブラックホールに引き込まれるが如く、際限なく少女の目に吸い寄せられる。体は動かないまま、気づけば俺は少女に抱えられていた。
「ま、私が用あるのはこの子だけなんだけどね。他は……ま、面倒いしいっか。」
「ぉ……おまぇ……紅咲様を……っ、どうするつもりだ……!」
ヘルメースさんが硬直から抜け出し、少女へ問いかける。もう少女は背を向けて逃げる一歩手前で、ヘルメースさんの問いかけに反応し動きを止め、振り向かずに答える。
「なーんにもしないよ。強いて言えば…餌?」
そう言うと少女は俺を抱えて飛んでいった。最後に見えたヘルメースさんの顔は悔しさと絶望感に侵され、いつもの笑顔や余裕は無くなっていた。俺はどうなるのだろう。
こういうみんなで一気に火力を叩き込むの好き。名前?適当テキトー
あと黒幕ちゃん堂々登場、そろそろか……




