カラクレナイ#75 1本、2本、次はお前だ
一本目を倒した後、カリンちゃんを背負ってすぐに二本目、ミネルヴァさんが相手している触手の方へ向かおうとする。だがいざ向かおうとする直前、目の前にミネルヴァさんが現れる。少し消耗しているようだが怪我はないようだ。けど…そうなると二本目の触手は今どうなっているんだ?大きく暴れ回ってるんじゃあ……
「おや?ミネルヴァさん、どうしてこちらに?触手はどうしたのですか?」
「あぁ?あんなの俺にかかれば余裕だっての。さぁ、さっさとヌシをやるぞ。」
「そうは行きません。あなた、あの触手の結界を破るのに何を使ったんですか?手段によってはあなたの行動は王に報告しますよ。あなたがまた“禁術“を使おうというのなら王も黙っていないでしょうから。」
ヘルメースさんはさっきまで常に上がっていた口角が下がり、底がない黒い目を開いて腰を低くしてミネルヴァに目線を合わせていた。すごい気迫だ…問い詰められているミネルヴァの顔は俯いて罰の悪いように目を逸らす。気のせいか、元々小さい体がさらに縮こまって見える。ふーむ、禁術……そんなものもあるのか。と沈黙を破りミネルヴァが俯いたまま話し出す。
「……ちょっとだけだぞ!決して命が危うくなるような運用はしてない!大体あんたらにどうこう言われる筋合いはないね!散々俺を利用してきたくせに!」
「フッ、それもそうですね。昔は散々上司としてあなたの行為は黙認し使用していました。が、私も立場が変わったのでねえ…一人の友人として、そして王を支える同僚として、あなたを失いたくないのですよ。」
「チッ、口が達者だな。性格悪いぜ、やっぱ。」
「ハッハッハッ、よく言われますよ。何せものすごく欲張りなものでね。」
高らかに笑いながらヘルメースさんは元の顔に戻る。ミネルヴァも一息ついた後、少し落ち着いた顔になりヌシと戦うアテネさんの方を向く。
アテネさんは傷一つついておらず、ヌシにダメージを与えられていないとはいえ相手に何もさせず優位を保ち続けている。結界がなかったら普通に勝ってるんじゃないか?
「……この件は一旦音沙汰なしってことでいいか?今はあれを野放しにはして置けないでしょ?」
「そうですね、まぁ見逃してあげます。ですがあなたの考えていた計画の根幹とも言える部分が今ダウンしてしまっているのですよ。」
「ん?それって……カリン!?おいおい、大丈夫なのか?」
「えぇ、命は。ですが…まぁいつ起きるか。秘策もありますけど……」
「くっそー、カリンがいないと結界が……私と妹は論外、そうだなぁ、代わりにあんたできないのか?」
「出来ますが…彼女以上は望めませんよ?あくまで血術というのは魔式の下位互換に過ぎないのですから。しかも鎖なんて……あれほどの魔力出力を持つヌシであれば抑えるのには強度が足りないでしょうねぇ。」
「じゃあ魔術でなんとか出来ないのかよ。魔術だって使えるだろ?」
「それも同じこと、いえ、魔術は血術よりも酷いでしょうねえ。」
ふーん、触手にやるのとじゃ勝手が違うってことか?さっきのはパワーが弱かったから抑え込めただけでヌシにやるとなるとあのロケットエンジンで鎖ごと飛んでいくだろう。それを確実に抑えるためにはどうしてもカリンちゃんの魔式が必要ってことか。だが今のカリンちゃんは連戦に次ぐ連戦で魔力を使い切って昏睡状態……と
「はぁ……困ったなあ。一応試してみるが、後で怒られるのは俺なんだぞ?」
「大丈夫ですよ、私も一緒に謝りますから。」
「……じゃあとりあえずやってみるか。」
そう言った直後、ミネルヴァさんは姿を消した。おそらくだろうが最初に会った時や今みたいに姿を消したりあらわしたりするのが禁術、まぁその中の一つか何かなのだろう。けどそれでどうやって触手を倒したんだ?ただ姿が消えるだけじゃ結界に攻撃を弾かれて何も出来ないしな。
「消えちゃったけど…大丈夫なのか?ヌシを倒しに行ったんだろ?結界に弾かれるんじゃ……」
「まぁおそらくそうなるでしょうね。ですが…万が一ということもあります。彼女の使う禁術、「見えざるハデスの兜」は“世界”からその存在を消すことができます。」
「世界?」
ヘルメースさんは小さく頷きながらヌシの方を向く。
「えぇそうです。知っている前提で話しますが世界というのは巨大な演算機械のようなものです。コンピュータと言ったほうがいいでしょうか。彼女が使う禁術を簡単に言うと自分を一時的に世界というコンピュータのゴミ箱に捨てる。そう言うことをやっているのです。」
ゴミ箱に?世界から存在を消したことで透明化をしてるってことか。そんなこと、長く続けていたらいつかは一時的どころか全ての情報が消えてしまうのでは……?それこそ本物のコンピュータもゴミ箱に捨てられたデータをずっとは残しておかないはずだ。まさか禁術になっている理由って……
「おそらくあなたの考える通りです。この術が禁術になっている理由は使い続けると本当に世界から存在自体が消えてしまうのです。先ほども言いましたが今はまだ一時的に存在を消しているに過ぎませんので私たちの記憶にも残っていますがいつか私たちは彼女を認識できなくなります。」
「そんな……」
「ただし、あれにはその代償に見合う力があります。あの禁術は性質だけで言えば魔法に片足を突っ込んでいましてね。魔力のバイパスが世界と繋がるのですよ。いや、魔力ではありませんね、確か…霊力でしたっけ?」
「霊力?魔力とは何が違うんだ?」
まーた新しい力が出てきやがった。霊力ぅ?幽霊が使ってそうな力だな。
「霊力とは冥府、言うなれば地獄の霊たちだが使う魔力、生体エネルギーに連なる第三の力です。霊が使うものですから生者には特攻がありましてね。魂そのものを攻撃するので吸血鬼も再生能力関係なく殺せるのですよ。」
殺せるって…すごい嬉々として言うな。だが再生能力関係なく命あるものなら倒せるとなると確かに便利だろう。なんならミネルヴァさんやカリンちゃんが所属しているのは掃除屋、何を掃除するのかは定かではないがおおよそ王に逆らおうとする吸血鬼だろう。そう言う意味でも都合がいいってことか。
「そして…存在を消している状態であれば結界をすり抜けて攻撃が可能なのですよ。」
だから触手を単独で…ってだったらなんであんな自信なさそうにダメ元で……!みたいな雰囲気だったんだ?それだったら簡単に倒せそうだが……
「フッ、それは結界の強さによりますから。それに……あのヌシは霊力では倒せないでしょうから。」
疑問を口に出す前にヘルメースさんが答える。思考を読まれてる感じがして嫌な感じだ。で、霊力で倒せないって言われたがなぜ?あぁいやわかったぞ。コアっていうのは複数の血腫の肉団子のようなもの。それと合体しているヌシは魂が複数人分あるんだ。なんならコアの分の魂はそこらに転がっている血腫の死体を取り込めば回復できる。それが理由だろう。
「では、我々は彼女らに耐えてもらってる間にカリンを起こすことに注力いたしましょう!」
「切り替えが早いな……秘策があるって言ってたけどどうするんだ?」
「簡単なことです。ゴニョゴニョ……」
ヘルメースさんは俺に背負われているカリンちゃんの耳元で何かを囁く。すると「ヘルメース様のパンケーキ!!」と大きな声で叫びながら飛び起きた。なんだって?まさかパンケーキで起きるとは……結局飯なのか。世の中は。
「あれ…鎧くん?おろしてくれる?」
「おいおい、もう大丈夫なのか?まだ傷も治ってないだろうに…」
「大丈夫、パンケーキが食べれるとわかっていればどうとでもなる。」
パンケーキ好きすぎだろ。




