カラクレナイ#4 休息ってやつですか?
そのあと行きと同じように、裂け目を通って帰ってきたのだが、ナイトメアに言われ、元々自分が寝ていた部屋をつかせてもらえることになった。
そうして部屋に戻ると角っこのラックに新しい服がかかっていた。そういえば俺は襲われた時の服装で今まで過ごしていた。今の服は胸元が裂け、腹の部分に穴が空き、至る所が泥まみれになっている。
ここにかけてあるということは、ナイトメアが俺を気遣っておいてくれたのだろうと、勝手に思い服を着る。服はナイトメアと同じように赤と黒を基調としている少しラフなパーカーのような軍服だった。パーカーと言われればパーカーだし軍服と言われれば軍服。そういうのが一番正しいと思う。着てみると結構肌触りが良く、ちょうどいいサイズだった。
なぜあいつが俺の体格をピッタリ知っていたのかはさておき、そういえば今日は朝ごはんを食べてから何も食べていないことに気づいた。そう思うと急にお腹が減ってきたのでナイトメアに夕飯(時間感覚がなくなっているがおそらく夕飯でいいだろう)をせびりに行くことにした。部屋を出て右にまわって廊下を歩いていくと、談話室のようなところにナイトメアがいた。
彼女は暖炉を見て物思いにふけていたようだが、気配を感じ俺が新しい服を着ていることに気づいて微笑んだ。
「サイズはピッタリだったようじゃの。よかったわい。見た感じで適当に作ったから、合うか心配じゃったんじゃ。」
「作ったって、これあんたが作ったのか?」
「そうじゃぞ。長年生きておったから裁縫は得意なんじゃ。材料はわしの血じゃがな。」
血?その言葉を聞いて一瞬顔をしかめる。この服ナイトメアの血でできてるのか。見た感じただの繊維だが、思えばただの繊維にしては丈夫だし軽いし確かにちょっとだけおかしいところはあったが…
「なんじゃ嫌なのか?血で作ったって言っても、血を魔力を使って金属化してそれを糸のようにしたものを使っとる。こんな繊細なことわしぐらいしかできないんじゃからな。金属化しとるから、汚いとかもないしな。」
「まぁ、嫌ってほどじゃないんだが。お前の血を身に纏っていると考えると、すごく…なんか…嫌だ。」
「結局嫌なんじゃないか!そんなに嫌なんじゃったら今ここで血の金属化をやめてお前を素っ裸にできるんじゃぞ。」
「わかったから!ありがたく着させてもらうよ!」
「それなら良い。そういえば腹は減ってないか?お前はまだ空腹を感じるじゃろうから、わしが何か持ってきてやろう。」
そうだった。この服のインパクトで忘れていたが、今の目的はご飯をもらうことだった。
「ありがとう。でもあんたの言い方だと吸血鬼は空腹を感じないのか?」
「そうじゃ。吸血鬼は基本的に何も食べないからの。血なんて吸わんわい。まぁ趣味の一種として料理を楽しむやつはおるがの。」
吸血鬼っていうのは随分と特殊な生き物だな。生きるのに食事を必要としないなんて。というか吸血鬼なのに血を吸わなくて大丈夫なのか?それではただの鬼だが。もし俺が同じようになるとしても3時のおやつだけはこれからも食べ続けよう。血は遠慮しておく
そうして血でもなんでもない普通のご飯をナイトメアから貰えたのだが、貰えたのはあの裂け目の中から出てきたおにぎりだった……しかも日本のコンビニおにぎりだし……ちゃんと買ったものだよなこれ。
ナイトメアに聞くとあいつは急にニッコリして俺を部屋に戻そうとしてきた。
結局そのままの勢いで部屋に戻ってきてしまったので部屋にあったテーブルと椅子でおにぎりを食べている。俺は今この瞬間、犯罪に手を染めているのかもしれない。なってこった、吸血鬼になって最初にした食事が推定万引きされてきたコンビニおにぎりなんて……深く考えるのはよそう。
あのあとナイトメアから言われたことは明日から本格的な吸血鬼としての修行が始まるとのことで、しっかり休めと言われた。言っても今日は座学でほとんど動かなかったので全く疲れていないのだが。
そういえば、今は何時なんだろうか?スマホは血腫に襲われた時に壊れてしまったし、俺は腕時計とかもつけていない。しかもこの部屋というか屋敷にある時計は俺の世界とは時差(?)があるだろうし…
まぁそんな深く考えずにベッドに横になろう。いつか寝たい時に眠たくなるだろう。そう思い遠くからベッドに飛び込む。うむ、やはりこの部屋の設備は素晴らしい。施設のベッドとは比べ物にならないふかふか度だ。マットレスとはこんなにも体を包み込んでくれるのか。
ふと、このベッドもナイトメアの血で作られているのでは?と良くない考えが頭をよぎったので弾き出しておこう。そんなことを考えていると安眠ができなくなる。そうしてゆっくりと瞼を閉じ驚きに満ちた魔界での初日が終わった。
翌日、朝起きると廊下から慌ただしい音が聞こえてきた。その何秒かあと部屋の扉がバーンと蹴飛ばされナイトメアが飛び込んで来た。
「さーて、朝じゃぞ!新しい今日が始まるぞ!さっさと支度して修練場の方に向かうぞ!ほれほれさっさと目を覚ませ!」
「結構前から起きてますよ。そんな大きい声出さなくても…で今日から本格的な修行をするんですよね、師匠。」
「まぁ、そうじゃな。じゃがその前にお前の体がちゃんと吸血鬼になったかどうか、確認しよう。えい。」
そう言うとナイトメアは手刀で俺の右腕を切り飛ばした。激痛が……と思ったが意外にも痛みは感じず、肝心の右腕は切断面からメキメキ再生してあっという間に元に戻った。血腫に襲われた後の再生力もすごかったが今の一瞬で腕が再生されるなんて常識では考えられない。本当にバケモノじみた力だな。
再生した右腕は問題なく動かせるし、指もちゃんと動かせる。ひとつ気になったことはそんなに筋肉はついてなかったはずの腕が両方とも細マッチョぐらいには筋肉がついていたことだ。これも吸血鬼になった影響ということか。あといつのまにか切れたはずの服の右袖が再生していた。こっちはナイトメアの血でできているからなんだろうが、服も再生するとは…なんとも気味が悪い。
「再生力の方は問題なさそうじゃな。よーし、次はこの鉄パイプを握りつぶせ。ほれ。」
ナイトメアは裂け目から鉄パイプを取り出し、俺に投げつけた。
投げられた鉄パイプは至って普通のありふれたものだった。これを握りつぶす?できるのか?疑問に思ったがちょっと力を込めて握ると、まるで紙で作られているかのように潰れてしまった。そこまで力を入れなくても潰れてしまったのでちょっと呆気に取られている。嘘だろ。再生力もそうだが吸血鬼は基本スペックが高くないか?人とは比べ物にならないな。
「よし、ちゃんと力は定着しておるようじゃの。それでは今からお前に吸血鬼としての立ち振る舞いというものを教えてやろう。行くぞ。」
ということで急かされるように首根っこを掴まれ裂け目に投げ込まれた俺はまた昨日と同じ場所に着いた。そこには昨日のまま放置されたホワイトボードと椅子の他に新しく追加されたサンドバッグが置いてあった。本当にどこから持ってきたんだあれ。あいつの反応から察するにどっかから盗んできたのかもしれない。返すときも考えて丁重に使わないと。
そう思っていると、ナイトメアがやってきて開始早々そのサンドバッグを1発で遠くに吹っ飛ばしててしまった。裂け目から飛び出してきての鮮やかなドロップキック!!あれは芸術点が高いですねーってやかましいわ。あれの元々の所有者には申し訳ない気持ちでいっぱいである。師匠に代わってお詫び申し上げたい。
「さーて、今日は基本的な吸血鬼の戦い方、血を操る技術の血術について学ぶぞ。ちゃんとついて来い!!」
「師匠、なんでさっきからそんなハイテンションなんですか?具合でも悪いんですか。」
「……えーと、この魔界の常識として吸血鬼には3つの戦い方があるとされておる。」
こいつ、無視しやがった。
おにぎりはちゃんと買ったものです。




