カラクレナイ#32 1日が終わりそうな頃に見るゴスロリほど嫌なものはない
グローからのフィードバックを終え自分の部屋に戻ってきた。するとそこには畳の上で寝そべって漫画を読むナイトメアがいた。しかも日本語の。つまり俺の世界の漫画だ。買ってきたのか?ちなみに俺はここ魔界の語学は一年間のうちにナイトメアに教わった。文法が大体日本語だったから簡単だったな。ナイトメアの教え方は下手だったが……そんなナイトメアは俺に気づくと寝そべったまま顔だけこちらに向けて話し始めた。
「おぉ、終わったか。待っておったぞ。」
「一応ここ俺の部屋なんだが……まぁあんたに言っても仕方ないか。」
なにを言ったってこいつにはあの裂け目がある。例え穴という穴を全て塞いでも塞ぎようがない穴を新たに開けて侵入してくるのだ。対策しようがないから逆らいようがない。
「で?待ってたって何で待ってたんだ?」
「ん?あぁ、そうじゃった。グローにはなんて言われたんじゃ?」
「グロー?今日の指南でか?まぁ……大したことは言われてないさ。本当小さなことだ。」
「じゃからその内容を聞いとるんじゃ。わしもアドバイスしてやるから早う言え。」
「……へいへい。」
あーなんだったっけなぁ……そうだ、確かあの時は……
「君は作戦を立てるのが下手だね。」
「え?」
「いや、え?じゃなくてさ。本当だよ?」
急にディスられたのでちょっとだけ驚く。いや普通フィードバックというのは
そういうものなのだが……作戦を立てるのが下手?まぁ正直言って頭は回らないほうだが……それ以外の根拠が欲しい。
「作戦を立てるのが下手って……そう言える根拠はこの試合の中にあんのかよ。」
「もちろん。そうじゃなかったら言ってないよ。まぁ決定的なのは君が立てたあの策?崩のイメージを固めて油断させたところを打ち上げるやつ。あれ、一回限りの策だよねぇ。」
う、確かにそうだな。しかも一回限りと言っても勘のいいやつには避けられるだろう。それでいうならグローも避ける素振りは見せてたしなぁ……案外穴だらけな作戦だった。
「あの崩だって最初っから僕が魔式を使ってたら避けてただろうしね。杜撰にも程があるよ。そしてその後の爆発、確かにあれは素晴らしい威力だった。だけどあれを耐えられたらもうなす術がなくなっちゃうよね。」
「いや、でも大半の敵はあれでやられるし……」
「僕が生き残ってるんだから君がこれから相手する敵には通用しないと思ったほうがいいよ。」
あの威力の爆発を耐える敵が普通にいるってことか?少なくとも俺はまだ見たことがないぞ。そんな化け物。というか何で俺がそんな化け物と戦う前提なんだよ……面倒くさい。とりあえず作戦を立てるのが下手なのは自覚したが……
じゃあ何だ?俺は馬鹿みたいに突撃して行ったほうがいいってことか?
「作戦を立てるのが下手なんだったら……俺は何したらいいんだよ。戦いの指針は必要だろう。」
「うーん。僕が考えるに君の師匠のナイトメア様も作戦とか深く考えずその身一つで突撃してるような人だと思うけど……だから君もそうしたらいいんじゃない?」
「突撃するってことか?」
ナイトメアって何も考えずに突撃するタイプなのか。以外……でもないな。むしろ解釈一致ではある。
「うん、そう。そもそも君の魔式ってシンプルで悪巧みができるようなものじゃないでしょ?工夫はできるかもしれないけど……僕はフィジカルで戦ったほうがいいと思うな。」
「でもフィジカルで戦うって言ったってさっきの試合ではあんたに歯が立たなかったじゃないか。」
何回か殴り合いをすることがあったが俺の攻撃は大部分が受け流されグローのバッドのスイングでボコボコにされた記憶しかない。
「それは……君って純血じゃないんだろ?しかも吸血鬼になって1年かそこらしか経ってないらしいじゃないか。そりゃそんなハンデがあるなら僕が勝つさ。技術の差だよね。」
「純血?」
急に聞きなれない言葉が出てきた……まだ新出単語が増えるというのか。
「あぁ、純血っていうのは平たく言えば吸血鬼から生まれた吸血鬼さ。中に人間の血が入ってない純粋な吸血鬼のこと。まぁ純血か純血じゃないかっていうのは差別にも繋がるからあんま大きい声では言えないんだけどね。」
なるほど。まぁ一部の奴らは純血であることにこだわりを持ってそうだしな。というかそんな差別用語が魔界にもあるなんて……どんなとこでも差別は広がるものなんだな。いやだいやだ。
「それで純血じゃないと吸血鬼本来のフィジカルを持つのが遅いんだよね。時間が経つと吸血鬼の血が馴染んでいくんだけど……1年かそこらじゃ馴染み切らないらしいよ。燈魔さんによれば最低でも50年は必要らしいしね。」
……5、50年?そうなったら俺もう還暦迎えてるじゃないか。50年後なんて想像できないが……今の俺の素のフィジカルが鉄パイプを潰せるぐらいなんだよなぁ。これでも十分すぎるぐらいパワーがあると思うのだが……これ以上になるのか?えぇ?
「じゃあ……年の差で負けたってことか?俺。」
「ま、そういうことになるね。大丈夫、後70年もすれば僕に勝てるようになるよ。それまで頑張って修行してね。」
70て。その頃には米寿達成だよ。88歳になってグローさんと戦って勝てる気がしないが……いや、吸血鬼って老いが存在しないのか。一旦俺は何歳まで生きれるのか……案外早死にしそうだな。
「……っていうのがフィードバックであった一連の流れだな。」
「雑に流してくれてもよかったのにすごく詳しく話すのう、お主。話しすぎて漫画一巻読み終わりそうじゃ。」
「漫画一巻は今の俺の話程度じゃ読み終わんねぇよ。で?アドバイスしてくれるんだろ。早く言ってくれよ。」
「まぁまぁそう急くな。まずはこの漫画が読み終わるまで……」
「騙されないぞ。そう言って裂け目から次の巻が出てくるんだろ。」
「はぁ、うるさいのう。しょうがないからありがたい言葉を一個だけ可愛い弟子に授けてやろう。」
一個だけかよ。全くケチな師匠だ。大盤振る舞いして十個ぐらい話してくれてもいいものの。
「そうじゃな……作戦を立てられないのはいいとして、殴り合いで競り負けるというのはわしの弟子として恥ずかしいから……わしの記憶をちょっとだけお主に渡そう。」
ん?今なんて言った?き、記憶を渡す?そんなことができるのか?あぁ……まぁ頭に手を突っ込んで記憶を弄ることができる人もいるもんな……渡すこともできるのだろう。でもどこの記憶を渡されるんだ?
「き、記憶を渡すって言ったって何についての記憶をくれるんだ?」
「話の文脈を考えたらわかるじゃろ。わしのナイトメア流喧嘩殺法の記憶じゃよ。これを理解できたら今でも十分にグローに敵うと思うぞ。」
……ナイトメア流喧嘩殺法とかいうダサい名前は置いといて。ナイトメアという超武闘派の記憶というめちゃくちゃ貴重な記憶を読み込めるんだ。それだけで何年分もの経験を積めるだろう。
「まぁこれは一種のズルみたいなものじゃがな。身体には相当負担がかかると思ってくれ。」
「まぁデメリットはあるだろうが……それぐらいだったら安いものだろ。」
身体の負担がどのくらいのものかは知らんが、その程度で数年スキップできるんだ。そのぐらいだったらやってやるさ。
「ふむ、だったらいいが……後悔するなよ?」
「誰が後悔なんてするかよ。ほら、やるならさっさとやってくれ。」
ふぅ、記憶を渡すっていうのはどういう感覚なんだろう。優しく入り込んでくるといいが……ということで記憶を渡してもらうため、今ナイトメアが瞑想している。どうやら昔繋いだ魔力の繋がりを通じて記憶を送るらしい。記憶ってそんなメールみたいに送れるのか。便利な世の中で生きているなぁ俺。
「じゃあ送るぞ。1、2、3。ほい。」




