カラクレナイ#2 ゴスロリに噛まれて吸血鬼になった
重いまぶたをゆっくり開け次第に頭のモヤがなくなる。どうやら長い間寝ていたようだが…いざ目を覚ましたら見知らぬ場所で寝ていた。
周りは黒を基調としたシックな部屋のようだが、なんと言うか……よく映画とかで出てきそうな魔術系の道具(ドクロや何かの試験管、魔法陣とか)がところどころに置かれている。
ここどこだ?少なくとも俺の住んでいる部屋はこんなとこではないが。
「目が覚めたか」
急に話しかけられビクッとしたが、声が聞こえた方を向くがそこにはさっきまでいなかったであろう1人の少女が座っていた。俺の注意不足だったか?確かそこには椅子も何もなかったはずだけど。
話しかけてきた少女は赤と黒のゴスロリを着た見覚えのある人だった。
そうだった、僕は路地裏で肉塊の化物に襲われてゴスロリの少女に助けられたんだった。
……ほ、ほんとうか?あまりにも濃すぎる夢だと言うことも考えられるが。
いやぁ目の前に当の本人がいるのだから本当のことなのだろうか。まだ夢の中という線も……少女に見えないよう布団の中で腕をつねってみる。痛いだけで何も変わらない。どうやら全部現実のようだ。誰か嘘だと言ってくれ。
きっと俺は余程の間抜け面で彼女を見つめていたのであろう。それを察してくれたのか彼女は話し始める。
「起きたばっかりでまだ頭が冴えていないようじゃが……まぁいいわい。時間はたっぷりある。順番に話していこう。」
「まずわしはナイトメア。ここの家主でお主を助けた人物じゃ。まぁそう大した者でもないので気軽にナイトメアと呼んでくれ。」
ナイトメア、か。悪夢って意味だけど……大丈夫なんだろうか。このまま襲われたりはしないよな?というか見知らぬ部屋に俺を連れ込んできている時点で誘拐じゃあないか。ピンチを抜け出せたと思ったら、案外まずい状況にいるのかもしれない。あと一人称がワシだったり喋り方が古風なのはデフォなのか?
「で何が起こったのか。じゃが、まずお主が襲われた化け物について話そうかの。」
デフォらしい。
「奴らは血腫。ここ魔界の化け物であり無限に増殖する世界の癌のようなものじゃ。ほら、見た目も癌っぽかったじゃろ。」
「えーまぁ奴らは元来ここにしか現れないはずじゃったんじゃが……近頃何故かそっちの世界に行ってしまうようになってなぁ。」
あの化け物は血腫っていう名前だったのか。あいつが実在したという証拠は俺の服が切り裂かれていたり破れていたり、いろいろあるのだが、流石にここまできて現実じゃないなんてことはないだろう。というかここが別世界みたいな言い草だな。どういうこっちゃ。
「おそらく、こことあっちの時空間が何者かによってめちゃくちゃにくっつけられてしまってパイプラインができてしまっておるのじゃろう。って難しい話は置いといて……」
「ちょっと待ってくれ。こことあっちって言ってるが今俺がいる場所はどこなんだ?」
「あぁ、ここは魔界じゃよ。基本的にはお主らの世界と同じじゃよ。魔力があるかないかの違いじゃな。これは後で話そう。」
ま、魔界?いつのまにか異世界転移でもしていたのか?俺は。
「話を戻すと、わしはそういう転移した血腫を被害が出る前に駆除してまわっておるんじゃが……今回はお主が死にかけてしまった。」
「本当にすまない」
こっちが助けてもらった側なんだからそちらが謝る必要ないと思うのだが……それだけ俺が死にかけたことに責任を感じてるってことか。いやでもまぁ、今こうして生きているんだから別にどうでも……ん?何で俺生きてんだ?至る所穴だらけであと数秒で死んでたみたいな容体だったのに。
「あーこれが最後なんじゃが……おほん、言いにくいことなんじゃがの。お主は、その、血腫に襲われ死に瀕していただろう。じゃから治すために、そのお主の血を吸って、吸血鬼にしてしまったんじゃ……」
「え?」
ん?いきなりのことすぎてあたまが追いつかないが、え?要するに俺は今人外になったってことか?待て、そもそもナイトメアは吸血鬼ってことか?
この最後のカミングアウトで今までで落ち着いた脳がまた混乱してきた。一旦待とう。えーと確かにあの時の怪我は現代の医療じゃ絶対に治せないものだったであろう。たとえ正義の凄腕闇医者が通りかかっても無理だと思う。そんなものが綺麗さっぱり治って今生きているのだから、それには超常的なものが絡んでいる。と言われても不思議ではない。
さりげなくあの時空いた腹の傷を触ってみたがそこには穴が空いた後もなく完璧に治った腹があった。ついでに言えば足だって裂かれた胸だってちゃんと感覚があり綺麗に治っていた。
「えっと……ってことはあんたは吸血鬼ってことか?」
「ん。そうじゃな。わしは吸血鬼でも特に血が強い真祖の吸血鬼じゃからのう。魔界でも指折りの…ってそんなことはどうでもいい。」
「えーと、勝手な話じゃが吸血鬼になってしまったお主を、元の生活にそのまま戻すわけにはいかんのじゃ。じゃからお主はこれから眷属としてわしと一緒に生活をすることになるのじゃが……」
おーん。なるほど、まぁ僕が吸血鬼になったから色々力みたいなのが芽生えたのだろう。例えばなんだ?よくあるのでいうと怪力にコウモリ化、それから不死身の再生能力とかか?
再生能力は証明されているとして他のものは特に自覚はないがどうなのだろう。ま、どうせそのうちわかるか。それでそんな力を持った化け物を簡単に社会に置けないってことか?
「一応聞くがそれって拒否権はあるのか?」
「いやない。」
はっきり言われてしまった。
「こればっかりは変えられない事実じゃ。わしがお主を吸血鬼にしたばかりにすまんのう。」
「もう俺は一生あちらの世界には行けないのか?」
「あぁ。じゃがまぁ、わしみたいに1人であちらにいけるような力を使えるようになればいいがの。」
「……もしもう帰れないとして、俺が身を置いている施設の人たちが俺が帰ってこないってことで心配をかけていることが心配なんだが。」
「その点は大丈夫じゃ。都市伝説というカバーストーリーを流しておいたからの。」
……それでいいのか?偽装工作っていうのは。というかまさかもう自分の世界に帰れないなんて……いや帰る手段はあるらしいが……まぁいい。吸血鬼になったと言うことはしょうがないことだしナイトメアは俺を助けるためにこんなことをしたんだろうが、少し悲しい気持ちになってきた。まぁうっすらとした記憶で何かにうなづいたような気がするからあの人を恨むのはお門違いってやつだ。
「それでこれは提案なんじゃが……お前、わしに師事するつもりはないか。」
「師事?師事って俺があんたの弟子になるってことか?」
「あぁそうじゃな。まぁ師事っていうか眷属じゃからな。それなりのことは教えねばならない。それにワシに師事すれば、いつかわしのようにあちらの世界に行けるようになるかもしれんし血腫どもをぶん殴れるようになるぞ。まぁもちろんお主に拒否権はないがの。」
師事か。まぁやることもないだろうしこの提案を受けるしかないのだが……ま、やるだけ頑張ってみるか。そう思い首を縦に振る。
「よーし、それじゃこれからお主とわしは師弟関係じゃ。まぁこっちから何か強制することは……多分ないから安心してくれ。わしは主人と眷属みたいな堅苦しい関係は嫌だからな。」
嫌な言い方だな。その間はなんだよ。話がとんとん拍子に進みすぎだと思う。
「あ、まだお主の名前を聞いとらんかったな。なんて言えばいいんじゃ?」
「俺か?俺は……紅咲、紅咲庵だ。」
そんなこんなでここから吸血鬼、紅咲庵は始まることになるのだった。




