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【転生ショップと薄幸少女】

初投稿です。よろしくお願いします。

 現代日本最大のオタク街。ミニスカメイドさんや執事のコスプレをした喫茶店員のチラシ配りに交じって、中世ヨーロッパ風の騎士やお姫様のコスプレをしたチラシ配りが現れたのは二十年以上前と言われている。


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 異世界転生支援ショップ

 『トランスファ』

 あなたの第二の人生を応援します。


 ★本チラシ持参のかたに、転生基本セット無料プレゼント

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 初めは何かの冗談だと思われていたが、そのうちにこの店を訪れたらしいといわれる行方不明者が出てきた。ネット上では『自殺ほう助ショップ』だとか『裏社会とつながっている』だとかいう根拠のないバッシングが後を絶たなかった。


 状況が一変したのは10年前。キッカケは財閥の会長だとかいう偉い爺さんが「儂、異世界に転生して聖女になる」というトンデモ発言をした後に行方不明になった事件だ。さすがに看過できなくなった警察はじめ各行政機関が様々な理由をつけて立ち入り調査を行った結果が『国家認定ショップ』の公表だった時にはさすがに世間でも相当話題になった。なにしろ国が『異世界転生は創作ではなく実在する』と認め、件の店がその認定店となったのだから…



「いらっしゃいま…、あ、あの当店は未成年のかたのご利用は~~」

「親権者の同意書と印鑑証明は持ってきている。それと児相の決裁書の写しもある」


 こちらの言葉をさえぎって言い切られてしまいました。


「乙女ゲーム・学園ガチャパックで。あと、オプションで入学準備五年付きでお願い」

「それでは身分証明書の提示をお願いします」


 それまで頑なだった女の子の言動がとたんにあやしくなった。また訳あり案件のにおいがしますね。


「この春に卒業した中学の生徒手帳でよければ…」


 この言い方だと高校進学はしなかったように聞こえる。そして生徒手帳を受け取った私は困惑を深める結果になった。


「あの、お客様。提示いただいた身分証明と親権者の署名の苗字が異なるのですが…」

「どうせこのあと、事情を訊かれるんでしょ?二度手間だからその時に話します」



 とにかく話を聞かないことには仕方がないだろうと考えて応接室に案内した。


「うちはシングルファーザーだったんです。母親は私に物心がつく前に男を作っていなくなって法律上は行方不明扱いのままです。それでお父さんも私が十歳の時に事故で他界して。それで警察から児童相談所に連絡がいったんです」


 あー、やっぱり激重案件ですね。


「それで白石さん…あ、児相の担当のひとです。白石さんが母親の兄というひとを見つけ出してくれて。私からみたら伯父という関係になりますね。伯父は『道義的責任から』親権者になってくれたんですけど……

 伯父にとっては血のつながった姪でも伯父の家族にとっては他人じゃないですか。私も母方の伯父がいるなんて知らなかったくらいですし。それで『親権者にはなってもいいけど家族に迎え入れるのは難しい』って。児相とも随分と話し合いをしたみたいです。結局、生活費や学費の面倒を全面的に見る代わりに私はお父さんと暮らしたアパートに暮らし続けることになりました」


 随分とハードな人生を送ってきたかたみたいです、その若さで。そのせいか姿はまだ子どもなのに仕草が妙に大人びてみえました。ひょっとして精神年齢は私より高いんじゃなかろうか?


「あ、伯父はよくしてくれましたよ。日帰りでしたけどハウスキーパーも雇ってくれましたし、月に一回は忙しい時でも顔を見に来てくれたり。年一回の学校の三者面談にも仕事の都合つけてきてくれましたし」


 なるほど、と頷いて続きを促しました。


「伯父に世話になるようになってからずっと異世界転生を考えてたんです。伯父や白石さんとも何度も話し合いました。私の意思が固いとわかると『異世界に行ってまで苦労させたくない』って……

 乙女ゲームの学園ガチャパックならほぼ確実に貴族の子女になるじゃないですか。別にヒロインになりたいなんて思ってないんです。むしろモブの下級貴族令嬢のほうがいいくらいなんです」


 その頃、手元のタブレット端末に今回のお客様の情報が届いた。児相の決裁含め全て事実だと裏が取れた。まったく何をどうやっているのかウチの社長のチートぶりも相変わらずだ。まあそうは言っても異世界転生自体が社長の個人能力に依存しているのがウチの店なので今更なんだけど。


「それでは乙女ゲーム・学園ガチャパックにて承ります。こちらのパックには転生基本セットが付属します」

「転生基本セットってネットで確認してきたけど一応もう一回説明してもらえますか?」

「はい、もちろんでございます。まずは言語です。どの世界に行っても言葉が通じますし、現地の文字も読めるようになります。また日本語のダジャレやことわざも伝わるようになります。漢字の音読み/訓読みを使ったもじりや同音異義語も通じますね。

 次に一日の体感時間が24時間になるように脳内補正されます。付随して一週間が七日という感覚もどの世界でも伝わります。また長さや重さ等の単位がメートル法でしゃべっても翻訳されます。聞き取る時も馴染みやすいメートル法で聞こえます。

 それから定番のアイテムボックスですね。こちらは国家認定店となった時に行政の指導で付属するようになったものです」

「え?アイテムボックスもついてくるんですか??」

「はい。ただし注意事項がございます。まず転生先の世界で収納魔法のようなものがない世界の場合、アイテムボックスは奇異に映ります。そのような世界に転生した場合は他人の目に触れないように注意するなどの気配りが必要になります。

 もうひとつの注意点は収納容量です。これは転生者の資質によってしまっておけるものの容量が変わります。無限の容量を誇る場合もあればガマグチの財布程度の容量しかない場合もあり、これはガチャ運任せになります。だいたいは転生キャラのレアリティが高いほど容量が大きくなる傾向がありますが絶対とはお約束できません」

「まあ、オマケでもらえるようなものですからね。分かりました」


 その他にも説明を続けていった。最後に、私には一点だけ確認しておかないといけないことがあった。


「お客様、乙女ゲームには悪役令嬢という定番キャラがいて断罪ルートなどもございますが」

「わかってる。こんな境遇だから乙女ゲームで遊んだ事はないけど転生を考えた時からメジャーな乙女ゲームの攻略サイトは何度も見返してきたの。だから仮に悪役令嬢に転生しても断罪を回避できると思う」


 "メジャーな"というところにちょっと引っ掛かりを感じた。でもまあドマイナーなゲームを引く確率は低いし、その中でさらに悪役令嬢を引く可能性というと本当に低い。目の前の女の子の熱意に気圧されてしまったように私は話を切り上げた。


「それでは説明は以上となります。最後にこちらの同意書、重要事項説明書その他の書類に署名をお願いします」


 自分が客だったらウンザリする量だが、これがお役所と付き合うということだ。後で書類をまとめて整理するのは私なのだから少しくらい我慢して欲しい。本当なら本人の実印も必要だけど今回は未成年で親権者の実印付き同意書があるんでサインだけしてもらう。


 全ての手続きを済ませた後、転生室に案内する。最終確認を終えると彼女は異世界に旅立っていった。

手元のタブレットに転生結果が表示される。


 田中様(16歳) → エリザベス・オーリス公爵令嬢。乙女ゲーム『月の光に願いを込めて』の悪役令嬢キャラ


やってしまった。彼女が転生したのは、ネット上でぷち炎上までした不人気ゲームの悪役令嬢だった。


システムに慣れたら毎日定時にスケジュール投稿するつもりです。

→ 設定してみました。


次回からは悪役令嬢を主人公にした物語が本格的にスタートします。

よろしければまた見に来てください。


(4/22) 章タイトルの付け方を変えたのでエピソードタイトルを修正しました。


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