第1話 異世界にやってきた!
斎藤雪、二十八歳。
髪、手入れなし。
肌、荒れ放題。
メイク、経験なし。
ファッション、知識なし。
趣味、ゲーム。
性格、自信を無くして内向的に。
胸のサイズ、A。
恋愛経験、ゼロ。
「何故こうなってしまったんだ......」
私は頭を抱えていた。
この歳にもなると、親からは孫が見たいやら言われるわ、周りはSNSで彼氏、子ども自慢をするわでうんざりしていたからだ。
私だって、十四歳くらいの頃までは高校生の頃に彼氏の一人や二人できて、それで付き合って恋愛経験を積んで、二十歳超えたら大学で理想の男性と出会って、そのまま結婚とかできちゃうんじゃないかって思っていた。
実際、その頃まではモテていたのだ。
部活動ではテニスをしていて、男子どもからの注目もあったものだ。
だけど、成長するにつれてニキビができるわ、髪の質が悪くなっていくわ、胸は成長しないわでモテる要素がどんどんどんどんどーんどん無くなっていった。
女友達からケアの方法とか聞かなかったのかと疑問に思うかもしれないが、無理な話だった。
まず、周りはその頃受験で忙しかったからだ。
特に私の友達は進学校を目指している子が多く、オシャレの話などほとんどなかった。
高校の友達に聞くことはできなかったのか、とも思うかもしれない。
残念なことに、私は情報系の高校に進学してしまったのだ。
女子生徒なんてほとんどいない。
いやだって、男ばかりって聞いてたからさ、逆ハーレムみたいなのを作れると思ったのよ。
まぁ確かに男に囲まれてたといったら囲まれてたけど、やっぱ内気な人が多いというかなんというか。
毎日楽しかったけど、まぁ品は落ちたよね。
そんで、大学生活が始まっちゃったけど、この時点で顔面クレーターみたいになってて、男も女も寄ってこなくなって自暴自棄。
酒とタバコに逃げちゃって、適当に就職。
そのままダラダラと過ごして、もう二十八歳。
「はぁー......。ま、いっか。ごはん食べに行こ」
おなかが空いた私は、適当に着替え、家を出た。
......そして、私は通り魔に刺されて死んでしまった。
目が覚めると、闇の中にいた。
ザ・深淵みたいなところ。
記憶はある。
なんか刺された。
めちゃんこ痛かった。
あいつ殺す、絶対。
でも、そんなことは無理だってわかっていた。
私は刺されて、おそらく死んでしまったのだから。
なんとなく辺りを見渡すと、背後に後光がさしてる男性が立っていた。
なんか、天使が着てそうな白い服を着てる。
後光がさしてるから、もしかしたら偉い人なのかもしれない。
眺めていると、こちらに近づいてきて、声をかけてきた。
「私は神。残念ですが、あなたは死んでしまい......。うわっ......」
おいこの神私を見てドン引きしたぞ。
神じゃなかったらしばき倒してたぞこの野郎。
「ごほん......。あなたは死んでしまいました。ですが、おめでとうございます。あなたは生き返る権利を得ました」
「えっ!!!」
「私が昨日、福引で人を生き返らせる力を手に入れたので」
神と名乗る男は、券を取り出して見せびらかしてきた。
なんか一気に胡散臭くなった。
本当に神なのだろうか。
「突っ込みどころはあるけど......。本当に生き返ることができるんですか!?」
「えっ、いや知らない。自称命を司る神が開催してた福引の一等でもらった力であって、私の力じゃないし......」
なんだこいつ。
本当に大丈夫か、おい。
「本当は人の罪に応じて天国に行くか地獄に行くか割り当てるんですが、なんかこの力を使って失敗してもよさそうな人がいたので、声をかけてみたというわけです」
「よし、ひっぱたく」
こいつが神かどうかなんて関係ない。
「まぁまぁ落ち着いて。好きな世界に転生させてあげますので」
「本当にうまくいくんだったら、こんな私でもモテモテになれる世界に行きたいけど......」
「えぇ......」
「......なんか今なら神を倒せそうな気がする」
私はキレていた。
今すぐこいつをボコボコにしたいと思っていた。
「やばいひっぱたかれる! えーい、この者をこの者がモテる世界へ送ってくれ!」
神が券を掲げると、私の体が光りだした。
「なんか光ってるんだけど! 私大丈夫!?」
「だから知らないっていってるだろ!」
「ふざけんなよおい! お前、転生できなかったら化けてでるからな此畜生!!!」
「あ! 神に此畜生だなんてなんて人間だ! クソっ、こんな人間地獄に叩き落してやればよかった! バーカバーカ! お前なんてその光で焼け死ねばいいんだ!」
私と神でこんなやり取りをしていると、光が強くなりすぎて私の視界は真っ白になった。
そして、目が覚めたら森の中にいた。
目の前にはなんか、青い水飴みたいで、顔がついている動く物体、所謂スライム的なやつがいる。
私は、本当に創作でよくある異世界に転生してしまったようだ。
「うわーマジじゃん......。まさか、あの胡散臭い神の力で異世界に来れるとは......。」
眼の前のスライムを見つめながら呟く。
「しかし、森の中に飛ばされてどうすればいいんだか......」
周辺は木、木、そして木。
とりあえず森を出ないと話にならない状況であった。
「あと、こいつは敵なのかそうじゃないのか......」
スライムをじっと見つめて呟く。
「ぷぷっ」
スライムがニヤけつつ、ぷぷっという笑ったかのような音を口から発した。
ぶちゃ。
「み゛ゅ゛!」
「......あっ」
気がついたら私は、下等生物に煽られたと思い、無意識でスライムをストンピングしていた。
スライムは物凄い勢いで弾け飛んだ。
そのせいで、スライムの体の一部が服に付着してしまった。
「......やっちゃった」
服に付着した残骸を払った後、その場でしゃがみ、スライムの残骸の一部を指先でつつく。
「......動きはない。ただの残骸のようだ......。やっちゃって良かったのかな......。というか、雑魚で良かった......」
ゲーム知識ではあるが、スライムといっても種類によっては強いだろうし、こいつがその強いやつだった可能性だってある。
雑魚スライムでホッとした。
「あ、なんか体に力がみなぎるような気が......」
所謂、レベルアップ的な効果なのだろうか。
心なしか力がついたような気がする。
というか私、スライム一匹倒したらレベルが上がるほど雑魚だったのか。
「ははっ......。私ってほんっとうにダメ人間なんだな......」
あまりの自分の情けなさに笑ってしまった。
しかし、その笑いは次に思いついた考えですぐに消えた。
「もしかして私、今ものすごく危険な状況なのでは......?」
スライム一匹でレベルが上がるほどの雑魚、武器なし、防具なし、魔法なし、仲間なし、薬なし、食料なし......。
冷静に考えてみると、とんでもない状況だった。
「と、とりあえずどうにかしなきゃ......!」
とりあえず人里を目指すか安全な寝床は確保した方が良いと思った私は、すぐに行動に移すのだった。