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6 一瞬で気持ちが戻ってしまいました

デビュタントの夜会が近づいてきて、ルーチェは重い腰をあげた。

ルーチェの言った通り、あれ以降ダナン侯爵家のベイジルにデビュタントについて聞かれることはなかった。


「お兄様!! デビュタントのエスコートお願いできますか?」

年頃になって、つかまらなくなった兄を騎士科の入り口でようやく捕獲する。


ルーチェと兄のエリオットは双子なだけあって、外見が似ている。

同じ赤色なのに、なぜ兄は凛々しく見えるのだろうか?

騎士として鍛えているせいで体格もよく、赤い髪がなびく姿は妹から見ても惚れ惚れしてしまう。

侯爵家の嫡男でそれなりに外見も整っているエリオットは令嬢達から人気があるようだが、まだ婚約者はいない。

中身の残念さが周りにバレているのだろうか?


「ん? もうそんな時期か! いいよいいよ! あれ、バーナード先生はいいの?」


「いつの話をしているのよ。昔の話よ。お父様に断られちゃったから、もうお兄様しかいないの!」


「そっかー、お父様はお母様をエスコートしたいだろうからねー」


「約束ですよ!」


「オッケー、オッケー。任せて!」

軽く言うエリオットにほんのり不安を覚えながらも、ルーチェはほっと胸をなでおろした。


「お兄様、家でダンスの練習につきあってほしいのですが……」


「いいよ! ルーチェと一緒に家に帰るの久々だね! 誕生日の時以来? いいよ、ゆっくりお茶もしよう。今度の週末でいい?」


「大丈夫です」


「じゃ、俺、これからまだ鍛錬あるからさー、またねー」

子供の頃と変わらない気やすい態度のエリオットに、ルーチェも小さく手をふる。


やっぱり私は家族に恵まれているわね。

今世で結婚はしないかもしれないけど、気心知れた家族や友人がいる。

それで十分だとルーチェは思った。


◇◇


エリオットと約束した週末久々にルーチェは侯爵邸に帰ってきていた。

一緒の馬車で帰るつもりが、婚約者とデートだというサマンサの化粧を手伝うことになりエリオットに先に出てもらうことになった。


子供の頃に家庭教師をしてくれていたエミリー先生にレッスンをお願いしている。

ホールに顔を出すと、すでにエミリー先生が待っていた。


「お久しぶりです」

学園に入学して以来会っていないエミリー先生に、微笑んでカーテシーする。


「あらあら、すっかり綺麗になっちゃって」

お母様の友人だというエミリー先生はふっくらしていて穏やかでいつ会ってもほっとする。


「今日はありがとうございます。あれ? お兄様はまだ来てないんですか?」

「じゃあ、先に行くね」と侯爵家から来た迎えの馬車に乗り込んだはずなのに、その姿が見当たらない。


「エリック様? 今日は……」

「今日のお相手は僕ですよ、お姫様」

どこからか音もなくバーナードが現れた。


昔と変わらない素敵な姿で。

三十歳を超えてもやっぱり変わらない。

ルーチェの胸が音を立てる。それを打ち消したくて顔をしかめる。


「でも、今日はお兄様と練習する約束をしたのに! お兄様とは子供の頃以来踊ったことがないから、合わせたかったのに……」

久々の再会に動揺して、思わず声を荒らげてしまう。


「休日ですが騎士科で近衛騎士に訓練をつけてもらえることになったそうですよ。体格は違いますけど僕で我慢してください。それに、ルーチェもエリオットもダンスは得意だから、大丈夫でしょう?」

ルーチェは子供のように駄々をこねた自分が恥ずかしくなった。


確かに、貴族学園でもダンスの授業はあるし、希望者にはデビュタントに合わせてダンスの課外授業もあった。

今日のダンスレッスンは不安なルーチェのために行われるのだ。

忙しいお兄様やバーナード先生を巻き込んだのはルーチェだ。

仕事の合間を縫って来てくれたバーナードの手を取る。


私も背だけはグングン伸びたんだけど……。

前はうんと見上げないといけなかった横顔が近くなった。

背丈は近づいたはずなのに、余計にバーナードの背の高さを感じる。


「それでは、はじめましょうか」

エミリー先生が音楽をかけてくれて、踊りだす。

六年離れていたのに、前世の気持ちは鮮やかによみがえってくる。

バーナードの香りやぬくもりは、なんで前世と変わらないんだろう?

繋いだ手や、自分の体を支える手の感触に震えてしまう。


前世で王太子だった頃、ダンスの練習も嫌というほどした。

結局、人前で踊ることなんてなかったんだけど。

あの頃もこんな風に彼はダンスの練習につきあってくれた。

深夜の灯りも音楽もないホールでこっそりと。

そのことを思い出して切なくなる。


そんなルーチェの気持ちとは裏腹にアップテンポな曲になり、バーナードはわざと難しいステップを踏んでくる。

負けず嫌いな気持ちがむくむくと湧いてきて、競うようにステップを踏む。

曲の最後にはくるりと大きく回されて、しっかり受け止めてくれた。

踊り終わった高揚感で思わず笑いが漏れてしまった。


「こんな風に笑うところを始めて見ました。僕はルーチェを困らせてばっかりですね。でも、諦めませんけど」


「え?」

六年間距離を置いたことの意味のなさを、それからルーチェは思い知ることになる。

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