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 フラン家の居間にて。



「·········」

「ご、ごめんね? トレイル。私、ついうっかりあなたが女の子の奴隷買ったんじゃないかって······」


 まだ頬がヒリヒリする。ここは少しフランを困らせてやる。


「あーっ、いってええ! し、死ぬぅ! 口の中が血まみれ洪水だ! ああっ! 俺の旅もここまでか」

「ええ?! 大丈夫? トレイル?!」

「も、もう無理だ。くっ!ふ、フラン! よくも俺の事を信じずに殴ったな······」

「ごめーん! 本当にごめん! そうだよね、いくらトレイルが駄目人間でも借りたお金で女の子の奴隷を買うなんて事まではしないもんね。ただ、エッチでバカで、だらしなくて、お金が無いだけで──」

「おいっ! 反省してないだろっフラン!」


 まったく。なんで俺はこんな信用ないんだ。俺が一体何したってんだ。


「ふう。まあ、もういいさ。それにフランには日頃から迷惑かけっぱなしだもんな。殴られたって文句は言えねえよ」

「そんな事ないよ! トレイル、本当にごめんね?」

「いいって、いいって。その代わりと言っちゃなんだが、俺の話を聞いてくれるか?」

「うんっ! もちろん!」


 フランは改めて、対面に座るナズの方へ向いた。


「えっと、ナズちゃんだっけ?」

「は、はい!」


 シャキーンと姿勢を正すナズ。


「ナズです。改めましてよろしくお願いいたします」

「うん。改めまして、私はサフラーヌ。フランって呼んでね」

「は、はいっ、フランさん!」


 あたふたと全力なナズにフランがクスリと笑う。


「ナズちゃん可愛いね。トレイルに変な事されなかった?」

「え? へ、変な事って?」

「トレイルはエッチなの。すーぐ、女の子の胸元とか生足とかジロジロ見たり、いやらしい手つきを忍ばせてきたりするから気をつけてね」

「おい、いきなり先入観を植え付けんな」


 否定はせんがな。


「それで、トレイル。話って?」

「ああ。このナズなんだがな、これまでの経緯はさっき簡単に話した通りなんだが、問題はここからでな。当然と言えば当然なんだが、行く当て無いんだ。俺も雇用先探しながらナズの行く先探しとくからその間だけでもここに置いて貰えないか?」

「うん、もちろん! と、言いたいんだけど······」


 フランが言葉を濁す。


「叔母さんがなんて言うかなぁ」

「そうだな。まあ、帰ってきたら頼んでみるわ。だからそん時はフランも援護してくれ」

「わかった!」


「······あ、あの」


 そこでおずおずとするナズ。


「すみません、厄介事を持ち込んでしまって······」

「ううん、そんな事ないよ。困った時は助けあわなきゃ。叔母さんだってきっと分かってくれる」

「は、はい」

「それよりナズちゃん」


 と、そこで。フランがナズの首に架けられた首輪に手を伸ばす。


「こんな物着けられて······許せないよ。こんな良い子を」


 フランが怒りを顕にする。


「とりあえず、まずはこんな物取っちゃおうか。ナズちゃん、じっとしててね」

「は、はい」

「いくよ······大地より産まれし鉄よ、我が声に応えよ······」


 詠唱と共にナズの首輪がガチガチと音をたてて震えだし、やがてガチンッというバネが弾けるような音を鳴らして首輪の接合部が開いた。


「あっ! は、外れた?!」

「ふいー。うん、外れたね。良かった良かった」


 満足そうに笑うフランと、驚いて目を丸くするナズ。改めて外れた首輪を手に取ってまじまじと見つめていた。


「こ、こんな魔法あったなんて」

「うん。土系魔法の金属操作魔法を応用して外したの。我ながら上手くいったよ」

「ありがとうございます! フランさん、このご恩は一生忘れません! トレイルさんともども命の恩人です!」

「あはははっ、大げさだよ~。でも、喜んでもらえて良かったよ」

「フラン、グッジョブ。流石だな」

「うんっ」


 さて、ナズの枷も外れたし後は交渉だけだな。

 と、思っていたら──


「ただいまー」


 ガチャリとドアが開いて叔母さんが帰ってきた。


「ふう、フラン、夕飯の仕込みの手伝いして──え?」


 俺とナズの姿を見て固まる叔母さん。


「あ、どうもっす。叔母さん、実は話があって······」







 そして簡単に経緯を話すこと十分。叔母さんの判決が下る。



「駄目よ」

「いや~、なんとなくは分かってたっすけどね。もうちょっとこう、どうにか──」

「駄目というか無理なのっ!」


 叔母さんがキッと睨んできた。


「いい? トレイル君。私達だってあまり裕福じゃないの。もっと言えば私は姪の面倒を見るだけで精一杯なの」


 力無く項垂れるナズに視線を漂わせてから叔母さんは大きくタメ息を吐いた。


「ごめんなさいね。別にあなた達が憎いから言ってるんじゃないの。でも、私も数年前に夫を無くしてからは経済的に余裕が無いの」

「そう、すよね」

「ナズさん? だったかしら。こんな事言っても仕方ないけど、頑張って」

「·········」


 ふーむ。

 俺みたいなのが断られるのは仕方ないが、ナズみたいな娘が断られるのは流石に不憫だ。


 ·········しゃーない。背に腹は変えられんか。


「すんません、もちろんタダでお願いしようって訳じゃないっす。これだけしか無いんすけど」


 俺は有り金全部、200ゴールドにも満たない金を叔母さんの前に出した。

 叔母さんの表情が驚きに変わった。


「これ、ナズの生活費っす。足りないのは分かってます。でも、ここ以外に行く当てないんすよ。せめて雨風凌げる場所だけは無いとキツイんじゃないかと思うんす。十日間くらいだけでもお願いします。それまでに俺がなんとか行き先探しますんで」


 我ながら無茶苦茶な要求だが、ともかく今はその場しのぎでもこう言わなきゃならん。


 叔母さんは黙ったままじっと俺の事を見てたが、やがて参ったようにタメ息を吐いた。


「まったくもう。フランは厄介な友達を持ったみたいね······」


 でも──と叔母さん苦笑い。


「私の姪も人を見る目がなかった訳じゃないみたいね」


 そう言うとナズに振り向いて、微笑んだ。


「ナズさん。とりあえず今日はここに泊まっていきなさい」

「えっ?! いいんですか?」

「ええ。何時までも置いとく事は出来ないけど、少しの間ならね。事情は深くは知らないけど、森の中で迷ってたのなら疲れたでしょう」

「············」


 じわっと目に涙を溜めるナズ。


「あ、ありがとうございます。本当に、なにから、何、まで······」

「いいのよ。私は最初そんなつもりは無かったんだし、私に感謝はしなくていいわ」


 そう言って叔母さんは俺の方を見た。


「トレイル君。一つだけ、ナズさんの行く当てが無い事も無いわ」

「え? マジすか?」

「ええ。ただ、これが良い手かどうかは何とも言えないのよ」


 叔母さんはそう言って立ち上がり、ランプを片手に玄関へ向かった。


「来て。案内するわ。フラン、ナズさんの事頼むわね」

「うん。でも、叔母さんどこに行くの?」

「······森の近くよ」

「え? あ·······もしかして······」


 フランは何か知ってるのか、察したように黙った。


「さ、行きましょうトレイル君」

「うっす」


 促されて、俺も玄関へ足を向けた。



お疲れ様です。次話に続きます。

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