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「ハックショイィッ! うぅ? なんだ、何か寒気が······」
「どうしたんだいトレイル。風邪かい?」
「いや。誰か俺の噂をしているんだろう。それも悪い噂を」
他にも金借りっぱなしの奴居たかなあ。
「ま、良い噂ならいいんだけどな。このスレイヤー屋の評判、とかな」
「だね」
フルトが頷く。
「これから頑張ろう。僕も役に立てるよう努力する」
「おう」
フルトとルッカを迎えて、一晩越した最初の朝。
俺はフルトと共に物置小屋へと赴いた。
──ガタガタッ──
「置き場なんか無いからさ。とりあえず、ここに保管出来るモンは保管しておいた」
「お、おお。す、すごい!」
フルトが感嘆の声を上げる。物置小屋の埃っぽいテーブルや棚に適当に置かれたワイバーンの素材。それらを輝いた目で眺め回す。
「こ、こんなにワイバーンの素材がっ······! これを一個人が所有してるなんて!」
そう言って、近くの爪や翼膜を触りだす。興奮からか、少し震えながら。
「ターナ君の解体技術は大したものだね! どれもこれもかなり綺麗に切り分けているよ!」
「あいつは真面目だからな」
「お、おお! これは尾の骨か?! これが翼の骨格か! なあっ?! 鱗が床に散らばってる?! 駄目じゃないかトレイルっ、貴重な資料を!」
こういう事になると目の色が変わるのがフルトの面白いところだ。普段は冷静で、大人しい優等生なんだが、研究の事とかになると我を忘れたかのように興奮しだす。
「まさかこれだけの貴重な素材を僕が扱える日が来るなんてっ······」
「楽しそうだな」
「むう、しかしワイバーンの素材は流石にまだ扱い慣れていないな。こっちはしばらく研究してから手をつけよう。となると······トレイル、他にモンスターの素材は無いのかい?」
「全部売っちまった」
「うぅっ!? し、仕方ないか······しかし、もっと沢山の素材があれば、あの理論や、あの実験、それにあれを作る事もっ······」
眼鏡が光りだすフルト。どうやら研究スイッチが入ってしまったらしい。
「とりあえず、しばらくゆっくり見ててくれよ。俺はルッカの方にも顔を出してくるからさ」
「ふーむ、これだけの鱗があれば、あるいは防具も作れるか。そうだ、魔法武具のように特殊な材料の代替えとしてこの鱗とかを利用出来ればっ······」
すっかり、しっかり、どっぷり思考の世界に浸っているようなので、そっとしとくか。
物置小屋から出て、庭を覗く。すでにフランとターナが居り、朝食の用意をしていた。
「あ、トレイルおはよー」
「おはようだ」
「よ、朝早くから精が出るな二人とも」
いつもより多めの鍋の中身。大人二人分追加だからな。
「ナズとルッカは?」
「中で話してるよ。ルッカちゃん、ナズちゃんの作ったポーションが気になるみたいで」
二人はどんな話をしているのか気になったので、俺は酒場に入った。
酒場の奥のテーブルに、二人は座って話し込んでいた。テーブルの上に沢山の小ビンが出され、本も何冊か広げられている。
「じゃあ、このポーションは普通の素材だけで?」
「はい。トレイルさんとフランさんが森の奥で採ってきてくれた鮮度の高い物を使用しましたが」
「すごい! まともな道具も無いのに、これだけの質のポーションが作れるなんてっ。ナズちゃんのスキルは夢のようだね」
「そ、そんな。大した事は······。軍に居た頃も、上官からは煙たがられてましたし······」
「よ、二人とも」
話してるところにお邪魔させてもらうと、二人は今になって気づいたように顔を上げた。
「あ、おはようございますトレイルさん」
「お、おはよう、トレイル君っ」
「朝から勉強会なんて熱心だな。どうだ、ルッカ。昨日は眠れたか?」
「う、うん! お陰さまでっ。あ、あのっ、本当にありがとうねトレイル君」
「気にすんなよ。その代わりと言っちゃなんだが、これからよろしく頼むぜ」
そう言うと、ルッカはもじもじとして『うん』と小さく頷いた。
その後少ししてから、六人揃っての朝食になった。
「フランさん、お代わりお願いずら」
「はいはーい、たーんと召し上がれ」
「フルト君、ワイバーンの素材はどうだった?」
「いや、凄いよ! あんなに多くの素材があるなんて! ああ、ここは天国かもしれない!」
「なんだか賑やかになりましたね」
「だな」
二人加わっただけで、また賑やかさが増した。
「内臓器官はないが、骨髄は──」
「それなら、濃度の高い魔血漿が──」
新人二人は早くもあーだこーだと学術的な話にのめり込んでいる。
「ナズさ、オラよくわかんねんだけど、オラはこれから何をするずら?」
「えっとね、多分なんだけど、ターナちゃんの力を活かしてね······」
ナズとターナもこれからの事について話している。その手には大きなパンを握って。
「ふふ、トレイル」
「ん?」
「どんどん楽しくなってきそうだね」
「そうだな」
隣では、フランがオタマを持ったまま笑っている。
「なんかさ。最初はどうなるのかと思ったけど、これからどんどんトントンいきそうじゃない?」
「そうだといいな」
フランの言わんとしている事は分かる。
なんとなくなんだが、これからの未来が良い方向へ、良い方向へと向かっていくような。
そんな気がしてくるんだ。
「それじゃあ、ルッカ。準備はいいか?」
「は、はいっ!」
「ターナは?」
「もちろんずら!」
食後、俺とルッカ、ターナの三人で装備を整えて最終確認を行う。
「ナズ、念のためポーションをまた貰うぞ」
「はい。まだ備蓄はありますから、ぜひ活用して下さい」
「それじゃあ、フラン、フルト。ここは任せるぞ」
「りょーかいっ!」
「フラン君が居れば怖いものなしさ」
フラン、フルト、ナズの三人に留守を任せ、俺とルッカ、ターナ三人で早速出発する。
「腕が鳴るずら!」
「おう、張り切ってるな。無茶はするなよ? ルッカ、お前もな。基本的には援護でいい。自身の安全を第一に考えてくれ」
「う、うんっ」
俺ら三人が向かう場所。
それは、新しいフィールドだ。
お疲れ様です。次話に続きます。




