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「駄目よ」

「ええっ?! なんで?」


 おい。



 話がちげえじゃねえか。




 馬車で半日程の隣町パデスに着いたのは良かった。

 ここでフランの親戚の家にしばらく世話になって、新しい仕事を見つけて俺の人生の再スタートをする──はずだったのだが······。


 フランと共に親戚の家とやらに赴いてみたが、玄関先にて叔母さんなる人物に睨まれている。



「叔母さん、部屋だって余裕あるし、トレイルは私の幼馴染みだから身元は保証できるのよっ」

「そういう問題じゃないのっ、フランっ。貴女も年頃の娘なのよ? それなのに男を同じ屋根の下に上げるなんて駄目に決まってるでしょ?」


 やべー。すげえまともな意見だ。というか、俺の邪な心を見透かされたのでは?


「私面倒見るからっ、ちゃんとお世話するからっ!」

「駄目ったら駄目! ウチでは置けないのっ!」


 なんか捨て犬とか捨て猫を飼う飼わない問答のようになってきた。


「叔母さんおねがーいっ。トレイルは犬猫と違って人間なんだから何とかなるから~!」

「犬猫の方が百倍マシよ!」


 おい、初対面にそりゃあんまりだぜ。泣くぞ?


 ジロリと俺を見る叔母さん。


「ともかく。トレイル君だったかしら?来てくれて悪いのだけど、ここに置いとく訳にはいかないわ」

「あ~······いや、大丈夫っす。そりゃごもっともな言い分ですので。すんません、お騒がせして」

「·········」


低姿勢な態度が良かったのか、叔母さんは睨むのを止めて、バツが悪そうにため息を吐いた。


「はあ。とは言え。フランが勝手に期待させてここまで連れて来ちゃったのは申し訳ないわね。トレイル君、少し待ってて頂けるかしら?」


 そう言うと少し奥に引っ込んで消える叔母さん。

 残されたフランが申し訳なさそうにこちらをチラチラ見てる。


「ご、ごめんねトレイル。まさか反対されるなんて思ってなかったの······」

「······あーっ、俺超ショックだわ~。こんなに長旅して来たのにこの仕打ちか~」

「ご、ごめん! ホントごめん!」

「別にい~けど~。ああ~、俺のガラスハートはヒビだらけだ~。幸運よグッバイ~、俺はもうツキに見放されたんだ~。うお~ん」

「うぅ········あ、あのっ、トレイル。良かったらお詫びに少しお金、要る?」

「えっ? いいのー? わーい、流石フランっ。愛い奴よの~」


 フランがゴソゴソとスカートのポッケに手を入れる。


「えっと、確か300ゴールドくらいなら······」


 ジャラリと輝く銀貨に銅貨。手を伸ばす──


「悪いなー、フラン。必ず色付けて返すからな──」


 ──ガチャリ──


「ふう。待たせたわねトレイル君。少しだけどビン詰めの野菜の酢漬と干し肉をいくつか。あと丸パンも何個か──」

「あっ······」

「···············」


 沢山の食べ物を抱えて戻ってきた叔母さん。そしてフランの手にある金を鷲掴みにしてる俺。


「············」

「······お、叔母さん。これは、その。あれっす。フランに貸してた金を返して貰おうと──」

「ええっ?! 貸してんのは私の方なのに?!」

「あっ! バカ! フランっ!」

「······こんのぉ~!」


 叔母さんがカッと目を見開いた。


「バカ男~っ!!」


 ビンを振りかぶって、そのまま俺にスロー。


 ──バコオンッ──


「どぅげええ!?」

「フラン! 入りなさいっ! あと、付き合う人間は選びなさい!」

「あ、あの、叔母さん······トレイルはちょっとだらしないけど、根は優しくて良い人で······」

「どこが! クズ男でしょっ! 典型的な!」

「で、でも、私が居ないと駄目になっちゃうし······トレイルのそういう所が放っておけないっていうか」

「貴女も大概に典型的ねっ!」


 倒れている俺の頭の上に食べ物の入ったカゴが落とされた。


「ごふっ?!」

「いいっ?! 今度姪にたかったら許さないからね?! それ食べながら反省しなさいっ!」

「あっ、トレイル!宿決まったら教えてね!」


 ──バダアンッ──


 叔母さんはフランを家の中へ引きずり込むと、音を立ててドアを閉めていってしまった。


「いってて。くっ、これでフランの家からの今後の末長い支援は望み薄になったな」


 だが食べ物くれるあたり叔母さんもお人好しのようだ。


「······待ってな、フラン。その叔母さん。この恩は必ず色付けて返すぜ」


 干し肉と優しさを噛み締めながら町の大通りへと向かう。



 まあ、最初から幼馴染みにたかろう頼ろうとしたのがそもそも間違ってた。男一人身で投げ出されたなら自分の力だけでどうにかするのだ。


 貰った食料を貪りながら、俺は誰の力にも頼らない一匹狼として歩き続けた。


「とりあえず今日の宿からだな」


 飢えはしのげた。ならまずは宿からだ。

 すでに日も落ちかかってるし急ぐか。


 通りから逸れて細い路地を歩く。怪しげな骨董品店や露店商がいくつか見受けられた。こういう所は治安はともかく、財布には優しい場合が多い。

 まあ、同時に財布に鋭い目を光らせる輩も多いが。



 塗料の剥げかかった看板の宿を見つけた。


「一泊40ゴールド? 安いな。しかも個室とかすげえな」


 格安な宿だ。ここにしよう。


 中はやはりというか、当たり前というか、宿屋としての機能をギリギリ保っていると言った具合で、ほこりっぽいし、カビ臭い。日当たりも悪い位置に建ってるしな。


「部屋をかしてくれ。一人だ。一番安い部屋を」


 オーナーらしき老人に声をかけると


「どこも同じ値段だ。何泊だ」


 とぶっきらぼうに聞いてきたのでとりあえず五日分の金を出した。



 部屋に入ってみると、これまたひどい。木床が謎のシミだらけ、ベッドもシミだらけ、部屋の角にはタダで永泊のクモが巣を張ってる。



「ふわぁ~あ。ま、野宿よりはまだマシか」


 モンスターの夜襲を警戒しながら寝るよりは良いだろう。硬い布団だ。ま、横になれれば良しとするか。



「明日から仕事探すか······」


 眠りの(とばり)はすぐに訪れた。



お疲れ様です。次話に続きます。

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