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朝起きて、皆で庭の焚き火を囲んでスープを食べる。すっかり朝のルーティンになった。
「そろそろパンと肉のグリルもセットで毎朝食いたいな」
「何言ってんの。まずはここをちゃんとしたお店にするためにお金を貯めなきゃ」
フランがスプーンをくるくる回す。
「窓と、傷んだ床を直せるだけの木材。それに、ちゃんと商売として成り立たせるためには契約書とかの紙やペンが必要だね。あと、四人分にしては布団が足りてないから暖かい毛布も揃えておかないと。冬になったら大変だし」
「金が頭ん中でジャラジャラ消えてくぜ」
まだまだ前途多難だな。とにかくどんどん稼いでいかなきゃな。
「けど、ナズのポーションにターナの解体。モンスターを討伐しつつこの副収入はでかい。というか、メインの収入原みたいなもんだ。ナズ、ターナ。俺の店の存続は君達の肩に掛かっている」
「が、頑張ります!」
「オラやるずらー!」
まだ軌道に乗った訳じゃないが、みんなの気合いは十分。
ここらが踏ん張り時かもな。
庭の隅にある井戸から清潔な水が汲めるようになった事で皿洗いが楽になった。
朝食も終わり、何時もの食休みタイム。これもすっかり馴染んできた。
「トレイルー。今日はどうするー?」
「そうだなー。また例の森に行くか、それとも他の事をするか······」
「森だったらオラついて行きてえだ!」
「おう、そうだな。お前の解体技術は俺らの収入にもなるし」
本当ならナズのポーションの材料も採取したいが、今までのポイントは荒らされてしまったからしばらくは使えないだろうし。
素材集めが当面の収入原になるか。
「待てよ。モンスターの素材もその日に売る事が出来れば問題ないが、買い取ってくれる商人がいなければ無駄になっちまうな」
昨日はそれでいくつか廃棄してしまった素材もあった。売れそうな素材ではあったが、たまたまその日は買い取る必要がない、或いは必要としている商人が居ないといった事情で。
解体の手間を考えればこのロスはどうにかしたい。
「なあ、ターナ。モンスターの肝とか心臓のように腐りやすい素材をどうにか保存しておける技術はないか?」
「うーん。幾つかは乾燥させたりさせて保存加工出来るけど、専門的な薬品が必要な物は難しいだよ」
「そうか。ナズ、素材を長期保存させられる薬品は調合出来るか?」
「出来るとは思います。でも、作った事ないので専門書などを読まなければ······」
なるほど。
よし。
「ターナ。今日は森での仕事はお預けだ」
「そうずらか。残念だけど仕方ないずらね」
「それじゃあ今日は何するの?」
尋ねるフラン。
「今日はお休み?」
「いや、ここらで商売の地固めをしたいから休みはしない」
「地固め?」
「つまりだな、あれだ。先行投資ってやつだ」
多分。
留守はナズとターナに任せ、俺とフランで町の商店街に繰り出す。
「トレイル店長っ、ずばり今日の活動はなんですか?」
「よく聞いてくれたフラン。さっきも言った通り、俺らはこれからの商売の姿を見据えて、今の内に体制を整えておく」
「おおー。トレイル、なんか難しいこと言ってる!」
「ふ。惚れたか?」
「それで、お買い物と何の関係があるの?」
軽くスルーされたが、効いてないフリして説明する。
「つまりだな、これから俺らはモンスター討伐によって稼ぐ金を主収入原とするが、ポーションや素材の売買も相当な利益になる」
「うんうん」
「だから、もっと多くのポーションの精製方や、素材を長期保存出来る方法や薬品の作り方の書いてある書物などを買ってナズやターナのスキルを存分に活かそうと思う」
「なるほど!」
「それに、ナズのためのちゃんとした道具、ターナのための解体用のナイフとかな。ナイフは刃こぼれしてもターナが自分の能力で打ち直せるはずだから、なるべく高級で長持ちする品を選ぶ」
「おおーっ! トレイル、なんか経営者みたいっ!」
「ふ、惚れたか?」
「それじゃあ、あそこの大きなお店入ろっか。本とかも取り扱ってるらしいよ」
浮き立つ幼馴染みに背中を押されながら、この町で最大の商店に向かう。百貨店、という名前の新しいスタイルの店らしい。
「ついでに酒買いてえな」
「今は我慢っ」
「しょぼーん」
かなりの出費にはなりそうだが、今日の飯よりも明日の飯の種だ。
そんな風に懐の共益費を名残惜しく撫でていた時だ。
「た、大変だー!」
通りの向こうから、血相を変えた男が何か叫びながら走ってきた。
「に、西の平原にワイバーンが出たぞー!」
「!!」
「ワイバーンが?!」
男の警鐘はそのまま通りの端まで走っていき、それを聞いた通行人達がざわつく。
「ワ、ワイバーンだって?」
「そんな馬鹿な、こんな所まで?」
「だって、この辺りで生息してるはヒビカリ山のはずじゃっ······」
不安や混乱が伝染していき、たちまち恐怖へと変異し始める。
「トレイル、本当かな?」
「分からん。この地域はあまりワイバーンは現れないはずだが······」
南西のヒビカリ山の付近は生息地だが、この辺りは安全圏のはず。
魔王が操ってるとかなら話は別だが······。
「ともかく、万が一という事もある。ショッピングは切り上げて、ナズやターナに報せよう」
「うん」
フランと家に戻る。
家で道具や食器の手入れをしていたナズとターナに先程の情報を伝えると、二人は顔を真っ青にした。
「ワ、ワイバーンって、あのワイバーンですよね?」
「お、恐ろしや~ずら~!」
「まあ、西の平原ならまだ距離もあるから大丈夫だとは思うが」
だが、ワイバーンは飛行能力を有した大型の怪物だ。ふとした気紛れでここまで来ないとも限らん。
それに。
「ねえ、トレイル。ここら辺の守備隊だけで倒せるかな?」
「流石に倒せるだろう。だが······」
「だが?」
逆に言えば、ワイバーンのようなマジでヤバいやつが現れたら下手に町から兵士を動かせないだろう。
という事はワイバーンを討伐出来るだけの兵力を果たして討伐隊として割けるだろうか。
軍縮によって十分な兵力は無いはずだ。
けっこうヤバい状況かもしれん。
お疲れ様です。次話に続きます。




