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「トレイルー、起きてー」
「むにゃむにゃ······」
あー。なんか懐かしい感じがする。
眠気が朝靄のように晴れていき、窓から入った朝日と共に幼馴染みの笑顔が眩しくあった。
「おはよっ。どう? 可愛い幼馴染みが起こしに来てくれるお目覚めは」
「最高すぎて永眠しそうだ」
「あははは、何それーっ」
フランに急かされるように身支度整え、下に降りる。庭ではすでにナズとターナの二人が朝食を作っていた。鍋から白い湯気が立ち上っている。
「あ、トレイルさんおはようございます」
「おう、二人とも早いな」
「おはようございますだ、店長」
「店長?」
「あり? 違うだかや?」
「いや、まあ違くはないかもしんねえが、ちょっと一般的よな。もっと俺らしい称号欲しいぜ」
そんなたわいもない会話をしながら四人で仲良く朝食を済ませる。
美少女三人に囲まれての朝飯。こんな美味い飯がこの世にあったとは感動だ。
腹も満ちて体力も気力も万全。
少々の休憩を取りがてら、ナズとターナの二人に今日の予定の打ち合わせをしておく。
「という訳だ二人とも。俺らはエクアル村に行ってくる。仕事の内容にもよるが、もしかしたら今日中には帰ってこないかもしれん。早くても夕方から夜にはなるだろう。だから俺らには構わず、二人で良いように行動しててくれ」
「分かりました。お気をつけて」
「無理はしちゃ駄目ずらよ」
二人に見送られて、俺とフランの二人は出発した。念のため野営出来る道具や食料などの一式も持って来ている。
「エクアル村に歩いていくと時間がかかる。郵便の馬車に乗せてもらおう」
「うん」
町の北門から出て定期的に町を行き来する郵便馬車の関係者に尋ねてみると、ちょうど今からルゴダの町に行く便が出るところだった。
ルゴダは、俺が軍に所属していた時に居た町で、エクアル村はその道中に位置する。
「もうそろそろ出発だが、平気かい?」
御者の問いに俺らは頷き、そのまま荷台に乗せてもらった。様々な郵便物と共に揺られて旅が始まった。
「二人とも若いね。旅人かい?」
手綱を捌きながら御者が声をかけてくる。
「何の用でエクアル村に行くかは知らないが、今は近寄らない方がいいぞ。あそこは今モンスターに襲われてて大変だって話だからな」
「らしいな。詳しく知ってるか?」
「いや。ただ、軍は取り合ってくれないらしくてもう村から逃げ出す人間も出てるとか」
「そうか」
御者はおしゃべり好きのようで聞いてもない事までペラペラと喋り出した。自分の家族の話からオススメの村グルメの話に、最近の世の中の流行などなど。
そして、彼の仕事、郵便馬車の話にもなった。
「へえ。最近はモンスター被害が多いのか」
「ああ。困ったもんだよ。中にはゴブリンに馬車ごと奪われたとか、デスウルフに後をつけ回されたなんて聞くしな」
「おじさんは危ない目に遭った事あるんですか?」
「あるよ、一回だけね。一ヶ月前くらいかな。ケンタウロイに追いかけられた事があってね。いや、もう怖いのなんの。あの時は死を覚悟したよ」
「ケンタウロイか」
そんな上級モンスターまで街道に出てくるようになったとは。かなり危険じゃないか?
「はあ。軍に何度か要請はしてるんだが、やってくれるのは一時的な巡回のみ。金がかかるらしくて、本気で討伐しようとはしないんだ」
「なるほどな」
やはりモンスター討伐の需要はある。ただ、まだ皆が軍の仕事だと思っている節があるようだ。
そうして話してる内に、目的の村近くに差し掛かった。
「ここでいい。乗せてくれて助かった。代金はこんなもんでいいか?」
50ゴールドほど差し出すと御者は手を横に振った。
「いいよ、いいよ。ついでの道だったし、話し相手になってもらって暇も潰せたからな」
「そうか。それは助かる。どうもありがとう」
「ああ、アンタらも気をつけてな」
「ありがとうございました、お気をつけて」
ゴトゴトと遠ざかっていく馬車を見送り、俺らは分かれ道を曲がった。
「たしか、ここから歩いて二十分かそこらだ」
「うん。ねえ、トレイル。村を襲ってるモンスターってどんなのかな」
「さあな。具体的には分からんが、どうも群れで襲ってきているらしい」
「ならゴブリンかな?」
「かもしれないが、奴らはある程度狡猾だ。防衛力の高い集落を襲うのはあまり聞かないが······まあ、この目で見れば早いだろう」
「だね」
林を歩いていくと、やがて村が見えた。
「あ、あれがエクアル村だね」
村はちょっとした柵で方々を囲んでいるが、後は開放的な雰囲気であった。
が、入り口の門に物々しく武装した男らが何人か立っていた。
俺らが近づくと、その内の一人が向こうから来て声をかけてきた。
「やあ、旅人か? 来てくれて悪いんだが、ここには立ち寄らない方がいい」
そう言う男。よく見るとあちこち怪我の痕がある。
「この村は今モンスターに襲われていて危険だ。帰った方がいい」
他の人間も怪我しているのが多かった。
やはり噂通りの状況らしい。
俺は早速仕事の話を持ちかける事にした。
「その件なんだが、俺らはその噂を聞いて来たんだ」
「なに?」
「実は俺らはモンスタースレイヤー屋って言ってな」
最近開業したばかりの事と、ここ最近のモンスター討伐実績を話すと村人達の顔色が変わった。
「そ、それは本当か? モンスター駆除の専門家だって?」
「ああ。ただし、今話したように有料だが。どうだ? 依頼してもらえるか?」
「私の判断では決めかねる。ともかく、村長に会って話を聞かせてくれ」
こうして、俺とフランはエクアル村に潜入する事となったのだ。
お疲れ様です。次話に続きます。




