35
本日3本投稿予定です。
金銭話に一区切りついた頃には既に太陽の光が黄金色になり始めていた。
「これで······終わりました」
「んだ。これでどうだやー?」
ペンが置かれ、机の上のノートにはナズとターナの名前と、スレイヤー屋へ入った日の日付けが記入されていた。
「よし。記録もとった。これで正式なメンバーだな」
「なんだか気が引き締まりますね」
「んだんだ」
俺らの始まりの記録書にも今日という日の事が刻まれた。いつかの思い出になるだろう。
「そんじゃ、二人とも留守は任せるぞ」
「はい、行ってらっしゃい」
「行ってらずら~」
ナズとターナに留守を任せて、俺とフランは町へと繰り出した。
「さ、フランよ。俺らも人の事心配してる余裕はないぞ。今のところ正式な仕事は二件のみ。しかもその内一件は薬草採取がメインで、もう一件は討伐だったが軍からの依頼だ。ターゲット層である民間からの討伐依頼はまだ無い」
「はいっ、トレイル隊長! 私達はこれから何やるんですか?」
「よくぞ聞いてくれた。俺らが今からやるのはズバリ営業だ。宣伝と売り込み。色んな所に回って俺らの事を周知させて仕事の依頼を貰うぞ」
「おお~っ、本格的っ!」
フランがグッと拳を握る。
「バンバン依頼を貰おう! 行こっ、トレイル!」
「おう」
俺も三人の人間を雇う身だ。気合い入れて仕事の依頼を貰わなくては。
早速フランと共に各家庭や店を回っていく。
モンスター討伐の需要がある事は前回の調査で判明している。
依頼も多く貰えるだろう。
そう楽観していた。
だが──
「え? 有料? だったら軍に任せるかなあ。それにウチはそこまで困ってないからね」
「そりゃ、森のモンスターが少なくなれば嬉しいさ。でも有料じゃねえ。一体いくら? え、モンスターによって値段が変わる? ふーん。高いのだとどんくらい? 500から1000? 場合によっては数千から数万?! そんな高いの払えないよ!」
「モンスターが減れば安心よ。でも、それはウチだけじゃないわ。どの家庭もよ。なのにウチだけがお金払って他の家に得させるなんて嫌よ」
「うーん。確かに、減ってくれりゃ畑も安泰だしもっと収穫も楽になるとは思う。でもお金がかかるのか。それなら今のままでもいいかな」
結果は芳しくなかった。
モンスターは減って欲しい。でも金は減らしたくない。それなら軍に頼む。そんな意見が多かった。
その軍は当てにならないんだが、逆に言えばそこまで切羽詰まってる輩は少ない。
「う~ん。思ったより上手くいかないね」
「だなあ」
俺達は町の酒場で気分直しに一杯やっていた。
幸先悪いのには慣れているが、あまり悠長な事も言ってられないし、今日の成果は悲観的だ。
フランが小さくグラスを傾ける。
「みんなモンスターには悩んでるみたいだけど、やっぱりお金がかかるって聞いた途端に難色示してたね」
「まあ、金は大事だからな」
それに、興味深い意見もあった。
『どうして公共の問題なのに自分が金を出さなければならないんだ』という意見。
なるほど、確かにそうだ。これは的を得ている。モンスターが減ったりして得するのは自分だけではないのに、出資者が自分一人なのはおかしいと。
となれば、宣伝するのは個人ではなく自治会などの地域コミュニティに絞った方がいいかもしれない。
「フラン、方針転換だ。宣伝する相手を自治会責任者や事業主のような代表者にしよう。後は地主とかのように広い土地を持つ人間」
「うん、そうだね。それにしても······やっぱりモンスターのせいで今日明日の暮らしに困ってなきゃお金は惜しいのかなぁ」
「俺らだって金が無くて今日明日に困ってんだ。誰だって金は大切さ。命の次くらいにな」
「そうだねえ」
そんな風に話していた時だ。
『聞いたか? エクアル村の話』
『ああ、モンスターでヤバいらしいな』
なにやら噂話をする声が聞こえた。
モンスターという単語に引っ掛かり、声の方を振り返ってみると、商人らしき格好の二人が話していた。
「どうも近くにモンスターが巣を作ったらしくて、毎日のように被害が出ているらしいぞ」
「それだけじゃなくて他のモンスターが徒党を組んでいるとか。まさか、魔王軍が復活した訳じゃないよな?」
「それは分からんが、軍が出向かないって事は違うんじゃないか?」
「気の毒にな。それじゃあ滅亡を待つようなもんだ」
「なあ、ちょっといいか?」
「ん?」
俺が声をかけると、二人がこっちを向いた。
「なんだ?」
「今の話ちょっと盗み聞きさせてもらったんだが、モンスターに村が襲われてるって?」
「ああ、そうらしいぞ」
「その話、詳しく聞かせてくれないか?」
「まあ、俺も人伝に聞いた話ではあるが······」
ここから北に少し行ったエクアル村がモンスターに襲われてて大変な事になっているらしい。
俺も軍に居た頃は何度か巡回で寄った事がある。
「結構ヤバいって話だ。一度ハンターが雇われて狩りに行ったらしいんだが、失敗したらしい」
「そうか。聞かせてくれてサンキューな」
二人の席から離れてフランの元に戻り、今聞いた話を聞かせる。
「て事だ。もう俺が何を言わんとしてるか分かるよな?」
「もちろん! 出番だね!」
「そうだ。今日はもう遅いから明日エクアル村に行くぞ」
「うんっ!」
こうして、俺らはいじけ酒を切り上げ、いくらか元気を取り戻した状態で家に戻った。
庭ではナズとターナが何かやっていたが、見てみると、ターナは泥だらけだった。
「わっ! ターナちゃんどうしたの? その泥」
「ご、ごめんだよ。せっかくの服を。井戸がまだ使えてないって聞いたから掃除してたら熱入っちまって」
そう言うターナの横にはヘドロの山が出来あがっていた。
「これ一人でやったのか?」
「んだ。ドワーフは力だけはあるで」
はにかむ顔にも泥が付いていた。
「そうか、ありがとな。フラン、井戸の仕上げしといてくれ」
「うんっ!」
「ナズ、水汲んでくるぞ。ターナのために風呂焚いてやらないとな」
「はいっ!」
「あ、オラも行くだ」
「お前は井戸の掃除で疲れたろう。休んでな」
「で、でもオラは居候ずら」
「言ったろ。ターナにはしばらく修復の仕事をしてもらうって。これは立派な仕事だ。終わったんだから休んでな」
「あ、あい。そう言ってくれるなら」
そして、日が暮れる頃には井戸が復活し、この酒場の重要な設備が戻ったのだった。
「あとは仕事が上手くいくかだね」
寝る前にフランがそう言った。




