32
本日3本投稿予定です。
かなり多めに作ったはずのシチューは綺麗に空となった。
「すげえな。夕飯分まで作ったつもりだったんだが」
「げぷっ······も、もう食えねえずら······」
シャツがせり上がるくらいに腹を膨らませたターナが仰向けで倒れてる。
「う、うぅ······今度は食い過ぎで死にそうずら。でも、餓死より幸せ······」
「大丈夫~?」
ポッコリ膨れた腹をフランがつんつんつついている。
「ま、少しそこで休んでろよ。腹が落ち着いてきたら色々話を聞かせてもらおうか」
俺がそう声をかけると、ターナは恥ずかしそうに小さく頷いた。
ナズにターナの相手をしてもらい、フランと一緒に近所の井戸まで皿と鍋を運ぶ。
「あとは井戸だけだね。午後に終わるかなー?」
「なんで風呂から先やったんだ? 優先順位逆じゃね?」
「だってー、私だってあそこに暮らすんだよ? お風呂無きゃやだもーん」
「そうか。そこまでして俺との同棲を考えてくれてたとは。流石フラン──いてっ!」
足を踏まれた。
「そんな事よりさ。ターナちゃんどうするの?」
「どうするって?」
「何日も行方不明だったんでしょ? 衛兵とかに引き取ってもらうの?」
「そうだなあ」
そこはまだ決めかねる。
「ターナの処遇は本人から話を聞いてからだな。もしかしたら故郷に帰りたかったり、行く当てもあるかもしれんからな」
「そっか、そうだね」
公共の水場で食器類を洗い終えて戻った頃には、ターナも起き上がってナズと芝生の上に座り込んで談笑していた。
「あ、お二人とも。すみません、私の分まで······」
「あ、ありがとうだす······」
ナズの横で小さく肩をすぼめてターナも言う。
俺とフランもその場に座る。
「さて。ターナだったな。そういや自己紹介がまだだった。俺はトレイル。トレイル・ラックスだ。一応この酒場の責任者だ」
「あ、あい。あの、オラはターナです。ターナ・オルゴンダです」
「おう、よろしくな」
「あ、あい······」
なんだかバツが悪そうに視線を逸らすターナ。
「そ、その。オラ、こんなに良い服着させてもらったり飯だって腹一杯食わしてもらって感謝してるだ。た、ただ······オラ、お金無くて払えねえだ······」
「気にすんな。全部こっちが勝手にやった事だ。どうだ? 腹はもう減ってないか?」
「とんでもないずらっ、もう本当にお腹一杯に食べさせてもらっただ!」
「そうか。良かったな」
「······で、でも、ちゃんとお金は払うだ。今はねえけど働き口見つけてお金稼いだら払うずら」
という口ぶりからして、どうやらターナも無職らしい。
早速、事情を聞いてみるか。
「なあ、お前もナズと一緒に奴隷商人に捕まってたんだよな?」
「あ、あい。オラとナズさと、あと三人。そっちの子達は名前知らねえだ。みんな疲れ果てて話す気力無かっただから」
内一人はこの間保護したラインフォース家の関係者だろう。そして後の二人は······残念な結果に終わってしまっている。
「お、オラはここから北に行ったヴァーンホールから来ただ。あいや、正しくは出身地がそこずら」
「ヴァーンホールって確か連峰地域だよな。鉱山が多いんだったか」
「んだ。オラ達ドワーフの多くがそこら辺に暮らしてるだよ。それでオラは軍から鉱夫として召集されて······」
「え?! まさか、ターナちゃんも軍出身?」
と、フランが驚きの声を上げるとターナが頷いた。
「んだ。軍人じゃねえけども、一応軍属っつうことでオラ含めたドワーフ何人かが居ただ。魔王軍の作った地下拠点跡の、ダ、ダンゾン?ジャンゾン?みたいな所を探索するために」
「ダンジョンか」
俺もほんの数回だけ演習で行った事がある。
ダンジョンとは、かつての魔王軍の地下基地だ。迷宮のようになっていて、地下に通路を作りあげて各地に奇襲をかける厄介な物だったらしい。
それ以外にも、太古の遺跡や、人がほとんど足を踏み入れない未開の地にある洞窟やら自然の迷宮のような場所を総じてそう呼ぶのだ。
「そう言えば俺も演習ん時にドワーフの鉱夫と一緒に行動したな」
「ほえー。私は知らなかったよ」
「んだ。それで、ある日いきなり仕事を辞めさせられて──」
その内容は、もう聞き慣れたものだ。要はターナも大量解雇された人員の一人であるということ。
そして、故郷に帰ったのだが、同じく職を失ったドワーフが続々と帰ってきてしまったため、大変な混乱になったらしい。
ターナの家も裕福とは言えず、自分が居ては実家の負担になると考えた彼女は町に戻って仕事を探していたそうだ。
「ぐすっ。身なりの良い商人に『君みたいな子にピッタリな仕事がある。すごく良い稼ぎだ』なんて言われてついて行ったら──」
ナズ同様、身ぐるみ剥がされ囚われの身になってしまったという事だ。
またしても、職無し宿無し当て無しの人間と出会う事になるとは。もはや偶然ではなく必然だ。
「故郷には帰れないのか?」
「遠くてお金無しじゃ無理ずら。それに、オラは仕送りしたくて出稼ぎに出たずら。今帰っても家に迷惑になっちゃうだよ」
「そうか」
随分と親孝行な考えの持ち主のようだ。
「だが当てはあるのか? こう言っちゃなんだが、この町も全然働き口無いぞ。何か手に職はあるか?」
「こう見えても武具の製錬は得意ずら。オラにはスキル『鍛冶』があるだよ。金槌と金床さえあれば釜戸や油が無くても剣とか作れるだ。軍に居た頃は鉱夫でもあり鍛冶職人だっただよ」
「おお、そうか。ナズの鍛冶版って訳か」
これまた便利なスキルだ。どうやら就職は何とかなりそうだ。
それに、職人ともなれば住み込みで技を磨くのが一般的だから、寝床も確保出来るだろう。
となれば、ターナは一人でも暮らしていける。
「この町にもいくつかの鍛冶屋があったぞ。そこで働くのはどうだ?」
「本当ずら? 良かっただよ、後で行ってみるずら」
一段落したらターナを鍛冶屋に連れてってやろう。
お疲れ様です。次話に続きます。




