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泣き止まない少女ことターナをナズが何とかあやして、やっと落ち着かせる事が出来た。
「ぐずっ······ずずっ······ご、ごめんよう。オラ、ついつい癇癪決まって······」
感極まってと言いたいのだろうか。
「お、オラ、もう駄目かと。ここで餓え死ぬかモンスターに食われて死ぬか、どっちにしろ飯関係で死ぬかと思ってただよ」
「大変だったね、本当に無事で良かったよ」
「ナズさ、ごめんだよ。綺麗なおべべ汚しちまって」
「あははは······」
苦笑するナズの胸元は鼻水まみれだ。
ターナは随分と汚れていた。粗末なワンピースと外套のみの服しか着ておらず、体も頬もあちこち泥だらけで生傷も多い。
そして、やはり痛々しいのは細い首に食いつくように架けられた枷だ。鎖もジャラリと垂れ下がっている。
種族は······ドワーフのようだ。
エルフ程ではないが、長くて大きめの耳。縮れた髪質。金色の目。
そして、低身長ながらもしっかりとした骨格。背丈はナズと変わらないくらいだが、体型が違う。下衆な言い方すりゃ、肉置きの良い体ってやつだ。
「それにしても、まさか生きてたとはな。ナズと一緒に捕まってたって事は、やっぱり同じタイミングで逃げ出せたのか?」
俺が質問してみると、ターナはビクリと震えてナズを覆うようにして立ちはだかった。
「よ、寄るな、異人(亜人とされる人種がレグマンを呼ぶ時の名称)! ナズさはオラが守るずらっ!」
「お、おう、そうか」
どうやらかなり警戒しているらしい。当然と言えば当然だが。
ナズがターナの肩を引っ張る。
「ターナちゃん、落ち着いて。この人は奴隷商人じゃないし、とっても良い人だよ」
まだ怯えてるようなターナ少女をナズが説得に移る。
「ターナちゃん。この人はトレイルさんって言ってね、私の命の恩人なんだよ」
「恩人?」
「うん。私もあの後必死に逃げて、森に迷い込んだんだ。それでね、もう少しでモンスターに殺されそうになってた所をこの人が助けてくれたの」
「······? そう言えばナズさ、おめさん首輪は?」
「取って貰ったの。このトレイルさんの幼馴染みの人に。だからね、安心して。トレイルさんも凄く良い人だから」
「······」
ターナは俺の方をじっと見ていたが、しゅんと項垂れてしまった。
「ナズさがそう言うなら、きっとそうずら。でも、オラはまだ信じられないずら······」
「ターナちゃん······」
「······まあ、いづれにせよだ」
とても健康なようにも見えないし──
「三人で森から出ようぜ。いつモンスターに出くわすか分からんからな」
「はい」
「ん、んだ······」
こうして。俺はナズと、未だ不安そうなターナの二人を連れて来た道を戻った。幸いにも帰りはほぼモンスターに会う事もなく、森から脱出し、家に帰還を果たしたのだった。
家に帰るとフランが出迎えてくれ、驚く彼女に事情を話すと
「それならちょうどお風呂が掃除し終わったところなの! ターナちゃんっ、こっち来て! あ、その前にヒールしよっか。それに、その首にある憎ったらしい鎖も取っちゃおう!」
「へ、へ? へぇ」
ふんすと鼻を鳴らしてターナを家の中へと連れて行ってしまった。
後はフランに任せれば大丈夫だろう。
「さてと。ナズ、俺らは昼飯作りだ。ちょうどいい時間だし、あの子も腹減ってんだろ」
「はいっ。頑張って美味しいのを作りますっ」
備蓄の肉や野菜をふんだんに使ったシチューを作る。フランには及ばないとは言え、なかなかの出来であった。
「お、美味いぞ。やったな」
「ええ、これならターナちゃんも満足でしょう」
フランとターナの分の食器を用意していると、ちょうど二人が家から出てきた。
「お待たせー! パーフェクトターナちゃんのご登場ーっ!」
「ど、どうも······」
フランの後ろからモジモジと出てくるターナ。すっかり綺麗になり、服もちゃんとした物になっている。
「ナズちゃんのために買ってきた服だったんだけど、いくつかをターナちゃんにあげたの」
「ご、ごめんずらナズさ。オラのせいで······」
「ううん、私は平気。フランさんの好意だから」
改めて見てみると、ターナもなかなか可愛い娘である。スッと切れ長な目元に、同じく細い顎のラインと、美人タイプの顔をしていた。言動とのギャップが激しいが、それはそれで良し。
「ターナちゃん、フランさん。簡単にですが食事の用意をトレイルさんとしました」
「ありがとうっ」
「め、飯っ······」
ゴクッと唾を飲み込むターナ。ナズがクスクスと笑う。
「沢山作ったから、お腹一杯召し上がれ」
「な、ナズさ······」
じ~んと目をうるうるさせるターナ。また鼻水が垂れかかる。
どうやら感情が涙と鼻水となって表に出るタイプらしい。
「お、オラ、もうお腹がっ!」
言うや否や、ターナは皿を掴むとシチューを慌ててよそり、オタマでそのまま掻き込み始めた。
「あふっ、あふっ、あづっ?!」
はふはふと、火傷する勢いで頬に詰め込んでいく。数日ぶりのまともな食事なのだ、腹減ったろう。
「そんなに急がなくても大丈夫だよ~。トレイル、私達も食べよ」
「おう」
一心不乱にシチューを流し込む少女を見守りながら俺らも食事に入ったのだった。
お疲れ様です。次話に続きます。




