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「す、凄いです! これ見て下さいっ! 天然のポミュレ草がこんなに花を大きくしてます! 土中の魔力濃度が濃い証拠ですよ! あっ、あれはもしかしてデフュン花? あ、こっちにはユニ草の群れがっ!」
例のポイントに着くなりナズのテンションは絶頂だ。まるで綺麗なお花畑を目の前にした女の子のようにはしゃぎ回っている。
まあ、似たようなものか。美少女だし、薬草でも花が付いてたりするし。
「むむっ、これはナギリ草。でも葉の形が少しだけ違う。もしかして変異? これはサンプルとして持ち帰らなきゃっ」
持ってきた試験管やらビンやらに細かく分けていくナズ。やはり専門家なだけあって俺やフランでは分からなかった植物も採取していってる。
「これだけのアイフカ草があれば当分のポーションには困らないや。あ、でもポーチには限りがあるし······」
「俺のポーチに入れてけばいい。結構な容量があるぞ」
「本当ですか?! それなら、こちらのオジウ草とユニ草も多めに、あと、あっちのポミュレ草も!」
「はは、お前って意外に欲張りだよな」
「え? はっ······」
途端に顔を赤くして手で覆うナズ。
「あうぅ、す、すみません。つい興奮してしまい、お見苦しい所を······」
「構わないぞ。はしゃぎ回ってた方が見ている俺も楽しいからな」
「そうなんですか?」
「ああ」
普段はガードの硬いスカートの裾から生足がチラチラ輝きウインクしてくれるからな。
「······なんか、トレイルさんの目つきがいやらしいような······」
「気のせいだ」
「でも、フランさんにも気をつけろって言われてますし」
おのれフランめ。こんな純心な娘にいかがわしい大人の目線を教え込みやがって。
「それよりナズ。俺らにはよく分からなかったんだが、向こうにも花畑みたくなってる所があるんだ。そっちも調べてくれないか?」
「本当ですか? ええ、もちろん。ぜひ案内してくださいっ」
他にも点々と群生地が存在する。そこにある植物が薬草の類いなのか見てもらう事にした。
花畑を見回してナズが目を輝かす。
「わあ~! これ、全部セッ花じゃないですか! こんなに天然物が生える事もあるんですね!」
俺にはただの花にしか見えなかったが、やはり薬草だったようだ。
「こんなに沢山の原料が手に入るなんて。好きなだけ調合が出来そうです!」
「それは良かったな。軍に居た頃は素材が少なかったのか?」
「はい。作る量も種類も全部一定の物を要求されていましたから。それに、軍から渡される薬草はほぼ全て栽培物ですので。効力がイマイチなんですよ」
「ふーん。そんなに違うのか?」
「はい。薬草の質はモンスターの生態と密に関わっていまして、モンスターの体から放出される魔力、あるいは彼らの体液や体組織、つまり尿や糞、血などの物質や環境、そして他にも通常植物や土壌などが関係しており──」
「うむ、とにかく天然物はすくすく育ったから強いぜっ、て事だな?」
「そんな感じです」
ニコニコとえくぼを見せるナズ。
「トレイルさんの言い回しは分かりやすいですねっ」
「お前は薬草になると話が長くなるなあ」
「えへへ、すみません」
一緒に薬草の花を摘みながら、ナズと色々な話にも花を咲かせた。
ナズの生い立ちや、俺の生い立ちを語り合う。
「そうか。親は幼い時に病気でか」
「はい。それでなんですかね。薬草にすごい興味持ってしまって。お陰で調合は小さい時から得意でシスターにもよく褒められました」
「そう言えば孤児院出身だって言ってたな。教会では戦災孤児とかを養ってたから」
「はい。私が居た所は亜人のための院でした。シスターがエルフでしたので」
ナズも苦労人らしいな。
「しかし、俺らは生い立ち似てるな。俺も幼い時に親を亡くしてるからな」
「そうだったんですか?」
「母親が六歳の頃に病気で死んでからは一人で暮らした。フランの家にはお世話になった。よく様子を見てくれたりしてな」
「あの、お父さんは?あ、差し支えなければですが」
「親父は俺が産まれる前に死んだらしい。詳しくは知らんけどな。母さんもあまり話さなかったし。まあ、師匠に聞いた話じゃ魔王軍との戦いに参加して死んだって事らしいが」
「そう、なんですか」
「そんな暗い顔すんなって。親父に関しては顔すら見た事ねえし、母さんもずっと前の事だ」
少ししみじみとした雰囲気が漂う。
「トレイルさんも大変だったんですね。でも、師匠というのは?」
「俺に剣とかモンスターとの戦い方教えてくれたオッサンだ。嘘か本当か知らねえが、かつて勇者と一緒に戦ってた剣士だとか」
「ええっ?! それ、本当ですか?!」
「さあな。冗談好きのオッサンだからよ。だが、あの強さならあながち嘘でもないかもな」
「もしそうだったら凄すぎですよ!」
そんな風に、ナズとの会話は大いに弾み、薬草の採取もいつの間にか終わっていたという感じ。
「沢山採れたな」
「はいっ! 帰ったら楽しみです!」
かなりの収穫だ。これならポーションジャンキーのナズも満足だろう。
「さ、帰るか」
「はい」
そして踵を返した時だ。
「あれ?」
とナズが立ち止まった。
少し離れた場所の木の枝をじっと見ている。
「どうした? ナズ」
「あ、いえ。あの枝なんか変だなって」
「ん?」
ナズが示す方の枝を見てみる。細枝の先っぽの辺りがスッパリと切れている。そう、折れてるんじゃない。
「これは······」
明らかに自然の傷口じゃない。ナイフや剣などの刃物で出来たものだ。
しかも1ヵ所じゃない。周りを注意深く見てみると、他にも似たような切り口がついた枝や植物があった。
「······ふむ」
もしかしたらゴブリンとかの巡回地なのかもしれない。そう考え、辺りの痕跡を探してみるが──
「これは······足跡······」
土が剥き出しになった所に足跡があった。
しかし、その数は一つ。小さな足跡ではあるが······。
「あ、トレイルさん。あっちに続いてるみたいです」
点々とある地面に足跡がポツリポツリと残っていた。
お疲れ様です。次話に続きます。




