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トレイルの元にフランが加わる少し前の事。
「よし、ここで休憩だ。全員楽にしろ」
馬に跨がったまま、隊列に命令を下す男。スティング。彼は今、十人から成る小隊の指揮官となっている。
彼らは今現在、拠点都市の近郊にある村付近に演習と哨戒に出ている。
軍で行われた大量解雇は、同時に人事の大異動でもあった。空いた穴を埋めたり、各所の人員配置など。大きな変革があった。
もっとも、それらのほとんどは貴族出身、良家出身の人間らに有利になるように調整された。
今や敵の存在しない軍隊に貴族が残り続ける理由は様々な歴史や文化などが絡んでいるが、最も大きな理由は、その制度にある。
貴族の家の子息、子女が軍に所属している場合、その家は国家を持続させるために納める維持費──いわゆる税金のような物がかなり免除されるのだ。その背景には魔王との戦いの歴史がある。
魔王軍と戦っていた時代は、とにかく兵力不足であり、戦える者は無理矢理に召集された。
貴族も例外ではなく、次期当主などの跡取りすら軍属となっていた。
しかし、そこは貴族達の大きな反発もあり、彼らは制度に大きく干渉し、軍属になることで有益な恩恵にありつけるように制度を改変したのだ。
さらには自分達は前線から離れた後方部隊や予備部隊などに配属されるように工作していた。
魔王が滅んだ今でも制度は健在であり、貴族達はこれを悪用し続けている。『もしかしたら魔王が復活するかもしれない』と言う意見を盾にして。
更に、今となっては危険な戦いもほとんど無いため、名誉やら見栄の為に上官などに不正で成り上がっているのが現状である。
「スティング隊長。隊長にお会いしたいという村人が来ております」
「なに?」
部下に組み立てさせた椅子に座ってワインを飲んでいたスティングに、報告が入る。
「ふうん、挨拶の者か? まあいい、連れて来い」
「はっ」
すぐに老人と少女がやって来た。
そのみすぼらしい姿にスティングは露骨に眉をひそめた。
「なんだ、随分と身なりの悪い奴らだが。まあいい。何用だ?」
老人がその場に跪いて頭を下げる。
「兵隊さん。どうかお願いします。ワシらの村は度々モンスターに襲われて畑や家畜に被害が出ております。更には、村の者も何人も負傷しており、このままではその内死人が出てしまいます。軍には何度も討伐の要請をしているのですが、一度様子を見に来たきりで何も解決しませんでした」
頭を上げて、スティングの足元にすがる老人。
「どうか、どうかお願いします。村を守って下さい」
その皺に歪んだ手を冷たく見下ろしてスティングが振り払う。
「軍は忙しいんだ。また魔王が復活するかもしれないから、このように巡回してなければならないのだ。一村の為に割く時間も戦力も無い」
「そ、そんな······しかし、魔王が居なくともモンスターが村を脅かしてるのです」
「そんな小事に構って大事に間に合わなかったらどうするんだ。田舎者め」
足蹴にして老人を突き飛ばすスティング。
「村長!」
側に控えていた少女が老人に駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫」
老人の体を支えながら少女がスティングを睨む。
「ん?」
少女の耳が尖っているのにスティングが気づく。
「貴様、エルフか」
「だから何ですか」
噛みつくように聞き返す少女に、スティングは一つ舌打ちすると、手に持っていた馬用のステッキで突然打ち据えた。
鞭の音と悲鳴が上がる。
「亜人の分際でよくも僕に口答えしたな。この劣等種め」
「や、止めろ!」
庇う老人もろとも何度かムチ打ちするスティング。
傷だらけになってうずくまる二人を冷ややかに見下ろすと
「この愚か者達を放り出せ。二度と連れてくるな」
部下に命じたのであった。
服が破れ、露になった肌から血を流しながら、老人と少女は兵士らに連れられて行った。
「ふん。社会のゴミめ」
スティングは不機嫌なまま、グラスを傾けた。
お疲れ様です。次話に続きます。




