25
東門を抜け、街道に出た頃には夕日が赤く疼き始めていた。
暗くなれば討伐は難しくなる。日没までが勝負となるだろう。早く見つけなくては。
「······で。何でお前まで来てるんだ?」
「水くさい事言わないのっ」
何故かついてきたフラン。
「あのなあ、森ん時はあくまでも素材採取だったから手伝って貰ったが、今回は討伐の依頼だ。遊びじゃないんだぞ」
「分かってるって。昼間だって戦闘したじゃん」
「そりゃそうだが······」
だが、今回の相手はそれなりに危険だ。
「正直巻き込みたくないんだよな」
「大丈夫、大丈夫。私の実力は知ってるでしょ? それに、トレイルだって私が居た方が安心でしょ?」
「まあな······」
確かに万が一という事もある。それに、エドルザードならフランの魔法が非常に有効だ。
「分かった。援護は任せるぞフラン」
「うんっ!」
「その代わり。俺の判断に従ってもらうからな。逃げろって言ったら逃げてもらう」
「おっけー」
「あと、報酬金は全額俺のな」
「あっ! ケチーっ!」
なんとも緊張感の抜けるやり取りを交わして探索する。これくらいが俺らにはちょうど良いのだろう。
少しして、衛兵らとの戦闘跡と思われる地点を発見した。放棄された武器や、ひしゃげて捨てられた盾や兜。そして、いたる所に染み込んだ血。
「この辺りだな」
「まだ近くにいるかな?」
「足跡を追うか」
地面に残された巨大な足跡を追う。それは平原側に続いていた。
「平原か。相手の方が有利な地形だな」
「あっ、トレイル、あれ!」
フランが指差す。そちらに目を向けると、なだらかな丘の上に灰色の巨体が鎮座していた。
まるで鉄製の鈍器のような光を含んだ刺を何百と全身に敷き詰めたモンスター。エドルザードに間違いなかった。ギョロリとした目がこちらを見据えている。
「気づかれてるな」
「来るよっ!」
のそりと首をもたげ、全身の刺を逆立てながらこちらに向かってくるエドルザード。スピードはそこまででもないが、威圧感の凄まじい重厚な突進が始まる。
「フラン、俺が注意を引く。奴の弱点は知ってるよな?」
「もちろん!」
「よし、なら任せるぞ」
作戦の打ち合わせはなくとも、この会話だけでやる事は決まった。
フランは大きく後退し、俺は逆にエドルザードへと前進した。
『ジイィーッ』
空気を引き裂くような独特な唸り声を上げながら突進してくるのを躱す。いくら緩慢な動きと言え、体が大きくて刺が逆立ってるせいで広範囲になった攻撃は厄介だ。
「はあっ!」
気合いの入れた一撃をすれ違いざまに叩き込む。
『ジギイイッ』
火花を散らせながら、刺が何本か切断された。およそ生物の物とは思えないそれらが地面に突き刺さる。
エドルザードがぐるんっとこちらに方向を転換した。
「ウインド・スラッシュ!」
その顔面に風の刃を放つ。顔面周りは鎧のような皮膚も刺も薄くなっているため、最も有効だ。
鮮血が宙を舞い、エドルザードの唸り声に殺意がこもる。その憎悪が再び唸りを上げて向かってくる。
迫りくる攻撃を再度避け、すれ違いざまにまた攻撃を叩き込み、刺を削る。
が、相手へのダメージは浅い。
俺の攻撃を受けてもなお、再び向かってくる。そして躱しざまに剣撃。この繰り返しだ。
だが、決して劣勢な訳ではない。これはあくまでヘイトを稼いでるだけだ。エドルザードは完全に俺しか見てない。
『ジィッー』
「はっ!」
同じパターン。相手は変わらず巨体と刺による突進。それを微々たる程に削る俺。
そして、ほどなくして時はきた。
「凍てつく突風よ、血をも凍らせたまえっ『アイス・ストーム』!」
フランの詠唱が辺りに響き、局地的なブリザードが吹き荒れる。
俺はエドルザードから飛び退いて距離をとった。その瞬間、真っ白な旋風が奴の巨体を飲み込んだ。
『ギジィイッッ』
咆哮ともとれる声が上がる。フッと消えた吹雪の中にエドルザードの巨体が全身霜だらけで固まっていた。
「そこだっ······ガイアフォーススラッシュ!」
大地の力を授けた重撃を、動けないでいるエドルザードに叩き込む。重さと衝撃を高めた土属性の一刀は剣と言うよりは巨大な鎚。
──ガシャッンッ──
『ジギイイイィッッ』
俺の一撃で、エドルザードの甲殻全体にヒビが入り砕け散り、何百とある刺が全て落ちる。
刺は確かに強固で厄介だが、その根本はエドルザードの体液を含んだパイプ状の器官によってしなやかにムチの如く軟らかい。
それを凍らせ、強い衝撃を与えれば脆く砕け散るのだ。
「とどめだ」
防御も攻撃も失ったエドルザードに肉薄し、その首に一刀を入れる。
巨大な頭が地面に音を立てて落ちた事により勝負はついた。
「信じられん······」
現場の確認に来た衛兵の隊長が唖然として足下のエドルザードの頭を見て呟く。
「まさか二人でこんなあっさり倒すとは······」
「見直してくれたか? じゃ、約束通り報酬金を貰おうか」
「あ、ああ」
2,000ゴールドを受け取り、前金合わせて2,500ゴールドが俺の懐に納められた。
「まいど。また手に負えないモンスターが現れたら相談してくれ。俺は西側の森の境目にある酒場跡に居るからさ。んじゃ」
「失礼しました」
フランと共に背を向ける。
なかなか良いじゃないか。クールに去る仕事人って感じでよ。
「トレイル、やったね!」
「おう、フランもご苦労さん」
「えへへ」
フランとも互いの健闘を称え合う。実に満足な時間だった。
だが──
『ふん、所詮は金かよ。金の亡者め』
「え?」
背中に届いた言葉にフランが立ち止まる。俺も振り返ってみた。
見てみると、何人かの衛兵らが俺らに軽蔑の眼差しを向けて、わざと聞こえるように悪態をついていた。
「モンスターを倒して安全を守るのは当然の事なのにな」
「金がなきゃやらないなんて盗賊みたいなもんだ」
「乞食どもめ」
「む! 何それ」
その悪口にフランが反応する。
「貴方達が倒せないから私達が代わりに討伐したのにっ」
すると、一人の衛兵が口を尖らせて言い返してきた。
「だったら金なんて関係なくやれよ。困ってる相手につけこむ卑しい脅迫者どもめ。商売だかなんだか知らんが、お前らはクズだ」
「こっちだって命賭けだったんだよ?! それなのにっ」
今にも突っかかりそうなフランの首根っこを掴んで止める。
「どうどう、フラン落ち着け」
「だって······!」
「言わせておけ。報酬の中に『称賛と感謝』は含まれてない。放ってくぞ」
「う~! でもっ」
「いーからいーから」
まだ憤りプンプンのフランをなだめながら、俺らは町へと戻ったのだった。
お疲れ様です。次話に続きます。




