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 部屋の外に追いやられてしまったところで、下の階に誰かが入ってくる気配がした。



『保安隊の者だ。誰か居るか?』


 という声も上がる。下りていってみると、衛兵が二名ほど来ていた。内一人が俺に目を向ける。


「お前がここの主か?」

「ああ、そうだな」


 借りてる身ではあるが。


「先ほど、サフラーヌという名の少女から事件の報せを受けたが、ここが魔人の少女を保護しているという話で合っているか?」

「ああ。今上の階で休ませてるところだ」

「そうか。実はその少女はラインフォース家の関係者である可能性が高い。何か身分証の類いは持っていたか?」

「いや、どうだろうな。持っているようには見えなかった。多分盗られてるだろうし」

「なに? どういうことだ?」

「ああ、実は──」


 俺は奴隷商人の事情を簡単に話した。


「そうか。その途中でゴブリンに襲われて、森の中に」

「森の中に他の被害者の遺体もある。出来れば回収して葬ってやってくれないか?」

「そうだな。身元の確認も必要だろう。よし、上に報告して手配しよう」


 衛兵の一人はその指示を拠点へと報告しに行くため出ていった。


「すでにラインフォース家にも連絡を入れてある。ちょうど隣町に関係者が滞在していてな。確認しに来て、探してる少女なら引き取って行くそうだ」

「それは良かった」

「ところで話を聞いた限りでは、お前とあのサフラーヌと言う少女の二人だけで森に入り、モンスターを蹴散らしたようだが大した腕だな」

「あー、一応俺らはどっちも元軍人だ。俺は始兵でもう一人は中徒兵」

「おお、そうだったのか。元という事は辞めたのか」

「辞めさせられた、だな」

「ああ、そう言えば大量解雇の話があったな。まったく、現場は人手不足だと言うのに」


 と、世間話を広げかけていたところで外から馬の嘶きと車の車輪がガタガタ言う音が聞こえてきた。


 吹きさらしの窓から外を覗いてみると、ラインフォース家の家紋である竜の紋章が入った馬車が入り口に停まっていた。


 すぐにスマートな人影が降りてきて、家に入ってきた。


「失礼いたします」


 そう言って礼儀正しく会釈をして入ってきたのは、黒い燕尾服をピシッと決めた初老の紳士だった。


 紳士は俺に向かって一礼した。


「初めまして。私、ラインフォース家に仕える執事のマルセと申します。こちらに我が家の者がお世話になっていると伺い、お邪魔させて頂きました」

「あー······久しぶりだな、マルセさん」

「?」


 俺の言葉に紳士──マルセが顔を上げて、おや?と表情を変えた。


「もしやトレイル様?」

「うっす。こんな形で会うとはな」

「これはこれは。まさか保護して下さった方がトレイル様であったとは。これも神の導きでしょう」


 態度が和らぐマルセ。


「その後いかがでしょうか? お嬢様もお会いしたがっておられましたが」

「あ、いや。それはちょっと勘弁······いや、そんな事より、マルセさん上がってくれ。今二階に寝てるからさ」

「あ、これは失礼。お願いいたします」


 衛兵は下で待ち、俺とマルセで二階に上がる。


 例の少女が居る部屋の前で止まり、ノックする。


 ──コンコンコン──


「フラン、ナズ。ラインフォース家の人間が来た。開けてもいいか?」


『どうぞー』


 俺が先に入り、マルセが続く。

 例の少女はまだ眠ったままだった。


「フラン、ナズ。この人はマルセさん。ラインフォース家の人だ」

「お初にお目にかかります。マルセと申します」

「あ、どうも。サフラーヌです」

「ナズです」


 軽く挨拶を交わし、マルセはすぐに少女の横に立った。


「······間違いありません。当方の関係者です」


 その言葉を聞いてフランとナズがホッと胸を撫で下ろした。


「かなり弱っているようですが、皆様の献身的な看病のおかげで命に別状は無いようです。当主に代わってお礼申し上げます」


 マルセはうやうやしく頭を下げると、俺に向き直って何か差し出してきた。


「こちらはほんのお気持ちでございます」


 出されたのは金貨であった。ざっと見ても2000ゴールド近くはある。


「どうぞ納め下さい」

「あ~、いやあ。でも、人助けだしなあ」


 本音は欲しいところなんだが、ケースがケースだから受け取りにくい。


「正直言えば欲しいが、人命救助だしな。遠慮しとくぜ」

「いえ。こちらは捜索してくれる人間を雇うために当家が工面した資金となります。つまり、正当な報酬金です。どうか納め下さい」

「そうか。分かった、ありがたく頂くよ」


 断る理由はない。タダであっても助けただろうが、お礼が貰えるならそれに越した事はない。



 金を受けとると、マルセはまたお辞儀をしてから、ベッドの上の少女をそっと抱き上げた。


「では引き取らさせて頂きます。皆様、本当にありがとうございました。いずれまた正式にお礼を申し上げに参ります。特にトレイル様、お嬢様が直に来られると思います」

「いや~、それはちょっと······」

「では、皆様方。失礼いたします。くどいようですが、真にありがとうございました」


 外まで見送りに出る。

 馬車に少女を乗せたマルセが、ふと振り向いた。


「しかし、トレイル様はなぜこのような所に? 今は休暇中なのですか?」

「いや、軍をクビになったんでな。今はここで新しい商売始めてるんだ。モンスター駆除の専門屋的な」

「なんと······軍縮の話は私も耳にしておりましたが、まさかトレイル様が削減対象になるとは。どうも人選が正常に実行されていないようですな」

「そこは何とも言えないが、どうも。そうだ、マルセさん。もしモンスターで何か困った事があったら来てくれ。ラインフォース家なら報酬もたんまりくれそうだしな。腕は保証するぜ」

「もちろん。貴方様の腕はお嬢様より伺っておりますから、疑うまでもありません」

「お嬢様かあ。はは、あいつが俺のどんな噂を話してるんだか。想像つくな」



 マルセは最後まで感謝の意を示しながら、衛兵と共に馬車に乗って帰っていった。



お疲れ様です。次話に続きます。

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