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「トレイルさーん。起きて下さい」
「んんむ······」
目を開けると、ナズが傍らにちょこんと座って待機していた。
「おはようございます。朝ご飯が用意出来ました」
「おお、さんきゅー」
銀髪美少女からお目覚めのお報せとは贅沢なモーニングコールだ。
ナズは今日からここに住む事になる。
昨晩はフランの家で過ごし、今日の朝に来る事となっていたのだ。
「ふああ~。良い目覚めだな。しかも飯まで作ってくれたのか」
「はい。フランさんほどには上手くないですけど······良かったら」
「いいも何も遠慮なく食うわ」
「はいっ」
二人で下に下りて、庭に出る。まだ厨房は道具も燃料も無いし、水を貯めておくタンクは壊れたままだから当分は外で飯だ。
「お、ベーコンと目玉焼きにパンか。バターがあるのは嬉しいな」
「はい。マリーさんが持っていけって。貴方達はよく食べるでしょう、って」
「今度何かお返ししなきゃな。よし、ナズよ。今日からジャンジャン稼ぐぞ」
「はいっ!」
シンプルに美味い朝食を平らげ、俺は早速出かける事にした。
「じゃあ、留守は頼むぞ。もし無頼な輩が来たらこの閃光弾使って逃げろ」
「良いんですか? 貴重なアイテムを」
「軍からくすねた物だ。気にすんな」
「あはは······」
ナズは引き続き家の修復作業だ。寝るのに申し分無いとは言え、まだまだ本来の機能は回復してないからな。
町の中心部へと出る。今日は役所に行って商売の許可証を貰う予定だ。これがあれば、大金の取引や大がかりな売買も出来るし、商人ギルドと提携する事も出来る。
「そういやあ、フランはどこに行ってるんだ?」
朝食時にナズから聞いた話では、朝からどこかに出掛けているという話だが。
フランもフランで、就職先とか探してるのかもしんないな。
出来たら俺の所に誘いたいんだが······先行き不透明な現状では言い出し辛い。
だが、近い内に話しておきたいところだな。
町の中心街は流石の繁栄ぶりだった。四階建てやそれ以上の建物が惜しみもなくズラリと並んでいるのは壮観だ。
その中に混じって建つ区役所に足を向ける。
「ん?」
と、入り口付近にフランが居るのが見えた。壁にもたれ掛かってぼんやりと空を眺めていた。
近寄って声を掛けてみる。
「フラン?」
「あ、トレイル。来たね」
さして驚く様子もなく、ニコリと笑うフラン。
「今日、申請するんだよね?」
「ああ。本格的に商売するんならやっとかなきゃな。お前は何でこんな所に居るんだ?」
「えっとー。トレイルがちゃんと一人でそういうの出来るか見に来たの」
「なんじゃそりゃ」
「いいからいーからっ。さ、レッツゴー」
どこかテンションの妙なフランに背中を押されて一緒に中へ入る。
中は大理石の床や、整ったセメントの壁などで造られており、なかなか堅苦しい雰囲気を十分に醸し出していた。
「うお、面倒くさそうな雰囲気満載だな。受付はどこだ?」
「あっち。ほら、あの窓口」
フランの指差す方には、しかめ面を被った紳士風の老人が黙々と書類に何か書き込んでいた。
俺らはその窓口に立って声を掛けた。
「すまん、ちょっと良いか?」
老人はジロリと見上げてきた。
「何用かな?」
無愛想でぶっきらぼうな口調だった。
「今日から新しく商売を始める者なんだが、商売の許可証を発行してもらいたい」
「商売?」
無遠慮な眼差しがジロジロと突き刺さる。
「ふーん。君みたいな若いのがねえ。何の商売をやるんだね?」
「具体的にはまだ確定しちゃいないが、モンスターを討伐したり、頼まれたアイテムを森から採ってきたりする仕事だ」
「······それは商売なのかね?」
「ああ、俺が考えた」
「······他には何をするんだ?」
「まだ考え中」
「そうか。で、その仕事は何人体制なんだね?」
「俺一人だ。今んところはな」
「一人?」
話を交わす内に、老人の口元がうっすらと笑いを漂わせていた。どれかと言うと馬鹿にするような邪な笑みだ。
「話を聞く限りじゃ、随分といい加減な商売だな。さしずめ、子供のお使い屋ってとこかね?」
「あー。言われてみりゃ、そうかもな。うん。そうだな、そんな感じだ」
「フフン」
老人は鼻先で笑うと、書類用紙を付き出してきた。
「なら、ここに必要事項を記入して提出するんだ。氏名や現住所、そして事務所や店舗の住所だ。何? 住所が分からない? そこに地図がある。それを見ながら記入するんだな」
言われた通り、地図やら資料やらを参考にして記入事項を埋めていき、提出した。
俺の申請はあっさりと通った。
「これで登録完了だ。こっちの紙が控えになるから保管しときたまえ。正式な登録には何日か掛かるから、それまでは行政の保証は無い。その間に起こったトラブルには対応しかねるから気をつけるんだな」
「分かった。それにしても、いやに簡単に認めてくれるんだな?」
と、言ってみたら老人がニヤッと笑った。
「どうせ数日で辞めるのが目に見えてるからな。では、幸運を」
そして、何事もなかったかのように仕事に戻って、こちらを見向きもしなかった。
お疲れ様です。次話に続きます。




