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おいおい、待てよ。
「いや、すんません。言ってる意味がよく分からないんすけど」
そう聞き返してみると、上官は露骨に煩わしそうな顔をした。
「話した通りだ。もう魔王が滅んでから二十年経った。その間、モンスターらは野生化して軍事能力を失ったと見ていい。懸念されていた魔王の復活等も見受けられない。つまり、我々人間もそこまで軍を有さなくてよくなった。よって君は帰っていい」
「いや、いいも何も」
そんな一言で片付けられて納得出来るか、普通に。
俺の内心に構わず、上官が紙切れをペラペラと鼻面に泳がせてきた。
「これは君の入隊時に書いた書類だ。えー、トレイル・ラックス始兵。この度、我が軍は諸々の事情により君の誓約書の返却及び除隊に伴う名簿の抹消を決定しました。終わり」
「いや、終わりって言われても──」
「終わりだ! 出て行きたまえ!」
有無を言わせない上官の馬鹿声に追い立てられて部屋を出る。
今しがた何が起こったのか自分でも良く理解出来なかった。いや、理解は出来てるが現実として受けとれかねていると言うべきか。
俺は軍をクビにされたようだ。もう必要ないからと。
ふざけんな。
こっちだって、軍に入る為に田舎からこの王都まで私財投げ売ってやって来たんだぞ。それもこれも『入隊を許可する。軍部まで来られたし』とかいう粗末な紙キレ一枚に呼ばれてだ。しかもほぼ強制の徴兵。
それがニ年前の話。一年間、軍の養成所で訳分からんフォーメーションだの領地法だの歴史だのを散々たたき込まれてきたんだぞ。その後はあっこっち派遣されてのモンスター駆除の日々。
ただ兵士になるために時間も生活も費やしたんだ。だから他に何か生活していくための技術や知識を身に付けた訳でもない。
勝手に呼びつけておいて、やれ人類の希望になろうだの、世界の平和のために~とかほざいておきながら『魔王復活しないんじゃね?』と判断した瞬間ポイ捨てかよ。
「どうすっかな······」
俺は片田舎から召集されて都会に単身乗り込んだ学も身分も無い男だ。
商才なんて無いし、手に職つけてる訳でもなし。これと言った人脈もほぼ皆無。
モンスター殺しだけが得意だった。ガキの頃から戦ってたし、山奥の仙人みたいなオッサンから剣を教えて貰ってたから腕はそれなりだ。
故に、強制とは言え兵士は天職ではあったんだが······。他に得意な事が無い。
このままじゃ俺は職無し人間。おまけに軍の宿舎に寝泊まりしてたから、追い出される事で宿無しにもなるのか。ついでに金も持ってない。
田舎にも帰れない。帰れるだけの旅費が無い。帰ったとしても家族は居ないし、財産なんて何も残っちゃいない。意味が無い。
これらの事実を並べてステータスにすると
・職無し
・宿無し
・金無し
・当て無し
・彼女無し
こりゃあひでえ。無いもので溢れ返ってやがる。未来に希望も無しを追加だな。
「どうすっかなあ·········」
マジで困った······。
とりあえず、荷物纏めるか。
これからの事を考えて、暗澹たる思いに深いため息をついて自分の部屋に向かう事にした。
服、保存食類、ナイフ、なけなしの金、ランタン、鍋、そんでもって愛用の剣。
これが俺の荷物の全てであり、全財産だ。
「少ねぇ······」
嘘だろ。俺ってこんな貧乏だったのか。そりゃ田舎者の下級兵だったんだから高給取りなんかじゃないけどよ。でも500ゴールドはねえだろ。三食付きの宿に泊まったら四、五日で潰えるぞ。
「いや、これもう詰みだろ······」
改めて今の自分の立場がヤバい事を認識する。こんなんでどうすりゃいいんだ。
「う~む············わかんねえや」
駄目だ、頭使おうとすると頭痛になる。考えるのは後でいいや。まずはさっさとここから出よう。
どうせ、まだ悩む事になるんだからな······。
お疲れ様です。次話に続きます。




