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「そっちは無事かっ?」


「おーほっほっほ! それは私のセリフでしてよ~!」


 一方もちょうど終わったところらしく、俺らの周りには撃破されたモンスターの屍があちこちに転がっていた。


「······」


 その光景だけでも惨たるものだったが、兵士や民間人の亡骸も含まれているのが胸に刺さる。


「っと、こうしちゃいられないな。まだ敵は残ってる。向こうの方はどうなったか······」


 広場に設置された陣地から兵士達が飛び出し、モンスターを倒していく。

 どうやら俺らが倒したゴブリンの弓部隊が彼らの行動を制限していたらしい。一気に撃って出る一団によって残りのモンスターが次々に殲滅されていく。


「よし、兵士達に話を聞きに行こう。今は状況が知りたい」

「だね」


 俺らも露払いをしながら進み、戦闘中の兵士達へと呼び掛ける。


「おーいっ! 味方だ! 加勢するぞ!」


「なにっ、援軍か?!」


「違うっ、民間の傭兵みたいなもんだ!」


 さっき倒したジャイロックバードとオーガの騎兵が主力だったのだろう。東通りの形勢は決していた。



 ほとんどのモンスターを撃破した辺りで、俺達は兵士に連れられて、防御陣地の中へと入った。


「トレイルっ?! トレイルじゃないか!」

「トレイルだって?!」


 軍役時代の知り合いが何人か反応して、駆け寄ってくる。


「お前どうしたんだ?! まさか軍に復帰してくれんのか?」

「お前が居りゃあ百人力だ!」

「いや、そういう訳じゃないんだが······」


 俺は簡単に今の自分の立場などを教えた。


「そうだったのか、それで助けに来てくれたのか」

「なあ、ここの指揮官は誰だ? ペスト中隊長か? 俺らはこれからもモンスターを倒していかなくちゃいけないんだ。情報を知りたい」

「ここを指揮してるのはマッシュ小隊長だ。来いよ、会わせる」


 元同僚に案内してもらい、ベンチを固めて土塁のようになった場所の上に立つ隊長の元へ赴いた。


「隊長、トレイルが来ました」

「なにっ? トレイルだと?」


 隊長が俺の顔を見て驚く。


「トレイル! お前、復帰したのか?!」

「あ、いえ。今は雇われの傭兵みたいな身でして」

「そうか。だが、一気に戦況が優勢になったのはお前が来たからだな。やはり、お前の解雇は軍にとって大きな損失だったな」

「隊長、すんません。急いでいるので状況だけ教えて貰えませんか」


 俺はここへ来た経緯と目的を軽く説明した。


「そういう事か。わかった」


 小隊長は以前から判断の早い人だったので、俺に多くは聞かずに必要な情報だけ話してくれた。


「奴らは突然現れた。城壁を突破してきた訳じゃない。町の中に突然湧いて出てきたのだ」

「湧いて出た?」


 モンスターの軍団は町の外から攻めて来たのではなく、いきなり町中に出現したらしい。

 現に、どの門も破られたりはしていない。むしろ、内側から攻められて破壊されているそうだ。


「モンスター達は次々に地面から湧いてくるように現れ、手当たり次第に暴れだした」


 市内に配備されている衛兵達が警鐘を鳴らし、駐在している軍がすぐに出動した。


「だか、次から次へと現れてな。あっという間に町全体に散らばり始めた」


 その膨大な数と、突然の奇襲という事もあって軍内部でも混乱しているとの事。いくつかの部隊とは未だに連絡もとれていない。


「トレイル、お前はこれからどうする?」

「俺らは依頼主を探しつつ、このまま敵を撃破していきます。全部倒すのは無理ですが、既に近隣の町から援軍が向かってるはずなんで、それまで少しでも多くのモンスターを倒します」

「もう軍属ではないから、私が命令出来る立場ではないが、頼む」


 隊長含む兵士達はここに防衛線を敷いて守りを固めるため、俺らは別れる事になった。


「トレイルっ! 頼んだぜ!」

「また前みたいにパーッとやってくれ!」

「後で寄れよっ、金返してもらうからな!」


 かつての同僚達にも発破を掛けられ、俺らは北へと向かう事にした。




 周囲を警戒しながら町中を進む。住民は建物に入ったきりで戸を固く閉ざしていて、人影は無い。さながらゴーストタウンだ。


「フルト、どう思う?」

「妙な話だ。モンスターにそんな力は無いはずだ」


 歩きながら、フルトから意見を聞く。


「モンスターは飛行能力を有したり、地面に潜る能力を持った種は何体か存在していて、それらが防壁を越えて侵入する事はある。だが、ここのように多種多様かつ、あんな大量の数がいきなり現れるなんて考えにくい」

「ああ。こいつらは偽物だったりしないか? ゴーレムのような存在の可能性は?」

「いや、ゴーレムは血を流したりしない。間違いなく本物のモンスターだ」

「じゃあ、一体どうやって······」

「······もしかしたら」


 そこでふっとシヴィが口を開いた。


「黒魔術かもしんない」

「黒魔術?」


 たしか、人を必要以上に苦しめたり、あるいは洗脳や病気にかけるような特殊なものをそう呼ぶ。


「人を呪ったりするアレか?」

「うん。でも、そういうのじゃなくて、かつての魔王軍が使ってた魔術。闇魔術なんて言われる事もあるけど。前に似た魔法が使われた事がある。何も無い所にモンスターを一瞬で移動させる。そんな強力な魔法」

「そうか、黒魔術かっ······」


 そこでフルトが声を上げた。


「たしか、生き物を魔法陣に入れて転送させる魔法が研究されていたと聞く。それを魔王側が改良して、モンスターを瞬間移動させる魔術を完成させたとか······以降、その性能から暗殺や反乱などに悪用される恐れがあるとして、使用も研究も禁止させられたと言われてる」


 だが、と付け加えるフルト。


「一部の魔道士や、カルト教団にはその術式が受け継がれ、今も影の社会では研究が続けられているとか······転移魔法陣は、術者にしか見えない特殊な光で構成されていて、あらかじめ用意されているモンスターを召喚出来るとか。しかも、魔法陣内にいるモンスターは意のまま操れる。それこそ、かつての魔王軍のように、ね」

「そ、それじゃあ、これも?」

「多分。もし、そうなら魔法陣の真ん中には“核”となる特殊な物、魔昌石やモンスターの素材とかがあるはずだ。それを破壊出来れば、少なくとも統率された動きは封じられるはずだ」

「てことは、ひょっとすると魔王が復活したんじゃなくて、誰かがこんな騒ぎを起こした可能性もあるわけだな······フラン、お前の魔力センスで、魔力の奇妙な乱れとか感覚とか判別出来ないか?」

「う、うん。やってみるね」


 皆で一旦立ち止まり、フランをカバーする。

 フランは目を瞑り、精神を集中させていった。


「············んっ?! あ、あっちの方の魔力がすごく不自然! 円形状に大きく流れてる!」

「流石だっ、よく見つけたな!」


 もし魔法陣を無力化出来れば、モンスターは連携もとらなくなるし、互いに争いあって共倒れを始める。そうなれば一気に戦力を削れる。


「よし、二手に別れるぞ。フランは魔法陣を探してくれ。フルト、お前の知識も役に立つだろう、ついていってくれ。ヴィオラ、二人だけじゃ厳しい相手も現れるかもしれん。お前も頼む」

「トレイルはどうするの?」

「俺はシヴィと一緒に少しでもモンスターを撃破する。シヴィ、やれるか?」

「やれやれ、またこんな戦いをやるなんてねえ。ま、りょーかい」


 よし。


「後で落ち合おう。みんな、無事に帰れよ!」

「トレイルこそ無茶しないでね!」

「こっちは任せてくれ!」

「おほほほ、私の獲物は残しといて下さいね」



 俺らは別れ、それぞれやるべき事をするために先を急いだ。


お疲れ様です。次話に続きます。

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