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 もうそろそろ日が落ちる。夏が近いとは言え、この時間帯は風が涼しく、焚き火の炎が優しい。


「しかし、バーベキューだなんて最高だよな」

「うんっ! 楽しみだなあ」


 今晩の飯はなんとバーベキュー。肉や野菜などを串に刺して網の上に乗せて焼くという、原始的ながらも都会などで今流行中の食い方だ。


 既に網が用意され、設置もほとんど済んでいる。後はキッチンで下準備をされているメインのお肉ちゃん達を迎え、酒場から引っ張り出されてきたテーブルの上に乗る野菜やキノコ達を同じく串に連ねて炙ればオッケーだ。


「あと、コレコレっ」


 マリーさん特性のソース。バケツサイズの器にたっぷりと入っている。


「おー、これがバーベキューソースか」


 すりおろした果物と魚醤、塩にスパイス、ニンニクなどの薬味がふんだんに使われて混ざりあった調味料だ。


「すげー。ソースだけでも豪華なのに、生肉が腐る程あるんだよな」

「腐らせたりなんかしないだっ! 今日中にオラが片付けるだ!」

「タ、ターナちゃん、鼻水の代わりに涎が出てるよ」


 俺達腹ペコリンズのためにキッチンでは張り切りタイムの真っ最中だ。今日は食いまくるぞ。


「せっかくだ。貯蔵されてるビールも出すか」

「おーっ! 分かってんじゃ~ん、あたしは大賛成~」

「え、でも叔母さんが許してくれるかなあ?」

「安心しろ。俺の驕りだ。飲んだ分だけ俺が後で買い足しておく」

「わあっ、トレイルがそんな太っ腹だったなんて。たまにはお金の使い方上手いじゃんっ」

「下手くそな事なんてなかったろ?」


 ガチャガチャと皿や串を用意していきながら、軽口を叩き合う。こういう時間が心地良い。


 今日は不愉快な事があったからな。そういった嫌な気分をスカッと吹っ飛ばせるような事をしたくもなる。


「さて、マリーさん達だけじゃ用意も大変だろう。フラン、俺らも手伝いに行くぞ」

「おっけー!」


 良い感じに腹も減ってきた。



 そんな風に楽しみが膨張してきた時だ。




『お、お~いっ! スレイヤー!!』


 懐かしい名前で呼ぶ大きな声が庭先に転がり込んできた。


「なんだ? なんか懐かしい感じだが······」


「た、大変だ~!!」


 現れたのは、何度か衛兵達の使いっ走りになっている男であった。またまた緊急の用で走って来たから、息がすっかり上がってる。


「ぜえっ、ぜえっ、た、たい、大変だっ、っはっ、る、ルゴダ、ヤバいっ······」

「大丈夫か? ゆっくり息を整えていいんだぜ」

「そ、そうは、いかん! で、伝言だ、いや、これっ······!」


 荒い息のまま、男が手紙のような物を出す。


「手紙? いや、紙切れか?」

「そ、それっ、読んで、くれ······!」

「あ、ああ」


 受け取って目を通してみる。


「!!」

「どしたの、トレイル?」


 思わず声を失った俺の手からフランが紙を取って読み上げる。


「えー、なになに。『至急、応援要請。ルゴダの町に魔王軍が出現』······えっ?!」

「えっ!?」

「ま、魔王!?」

「······嘘でしょ?」


 フラン、ナズ、ターナ、シヴィが声を裏返す。フランが続きを読む。


「え、えっと、『依頼主は現執行議員オリヴィエ・セルクルス』依頼達成報酬は············?! ご、50,000ゴールド?!」


「「「!!?」」」


 その場に沈黙が生まれ、伝言係の呼吸だけがいやにうるさく聞こえた。











「本当に魔王が?」

「いや、それは分からん」


 数分後。俺は他のメンバーに依頼の事を話し、すぐに支度にかかった。


「走り書きで必要最低限の事しか書いてなかったが、どうやらルゴダの町で『下級、中級、上級モンスターが入り交じって大群となり、組織的に町や人々に攻撃している』との事らしい」

「組織的に? それは本当に······」


 言葉を詰まらせるフルト。


「モンスターが種を越えて町に大挙して押し寄せる······たしかに、現時点ではそんな習性は確認されていない」

「う、うん。野生化したモンスターは反射的に人間を襲う本能は残ってるけど、戦略的に攻め込んでくる習性は無いはず······だからこそ、軍縮は決定されたようなものだし······」

「······いずれにせよ、規模が規模だから近隣の軍が動いてるのは間違いない。だが、即戦力で機動力を持った俺らの腕が買われたんだ。すぐに出発するぞ」


 依頼内容は一言で言えば防衛。町の中へ侵入したモンスターの魔の手から住民を守る事。


「メンバーを決める。俺、フラン、ヴィオラ、シヴィ。この四人で事に当たるが、サポートとしてフルトも同行してくれ」

「僕も?」

「現場に行ってみないと分からんが、ケースが特殊かもしれん。モンスターの専門家が必要だ」


 本当はルッカも連れて行きたいが、危険なクエストになるかもしれない。出来るなら主戦力以外の女の子はなるべく行かせたくない。


「わかった。僕の方は何時でも出発出来る」


「トレイルさん、ポーションをありったけ持ってきました」

「あとっ、シヴィさんに頼まれてた新しい矢ずら!」


 物置小屋から様々なサポートアイテムを携えて戻ってくるナズとターナ。

 回復ポーション、増強剤、強力な忌避剤、さらにはターナ制作の属性付与矢と、サラマンダーとワイバーンの素材から作った新作の火炎玉。


「サンキューな。フラン、ヴィオラ、シヴィ。準備できたか?」

「オッケーだよ!」

「おほほほっ、ガラにもなく武者震いしてきましたわ~!」

「マジで魔王軍じゃない事を祈りますか」


 準備してる間にリサとマリーさんが作ってくれたサンドイッチを摘まんでいく。


「食い過ぎると動きが鈍くなる。ちょっとだけだぞ」

「そう言うトレイルこそ、食べ過ぎないでね」


 ほんの1分くらいだけ空腹を癒し、すぐに出た。


「皆さん、気をつけてくださいね」

「皆が帰ってくるまで、オラ、バーベキューしねえだ! だもんで、早く帰ってだよ」

「私達もここで出来る事をやっておくから」

「皆様、帰ったら楽しいパーリーでございます。ヒャッハーな時間を楽しむためにも、どうか全員ご無事にお帰り下さいませ」

「無理はしないのよ? 生きてる事が一番大事なんだから······」


 待機メンバー達に後の事は任せ、俺らは西門へと向かった。衛兵が手配して、例の放牧地から馬を貸してもらえる事になってるのだ。


「さて······」



 魔王軍、か。


 魔王が本当に復活したのだろうか?



お疲れ様です。次話に続きます。

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