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流石はフランだ。
「そそ~いっ」
魔法で何本もの箒を操ってどんどん埃を外へ吐き出していく。
ナズはナズで、小さな体を懸命に使って床や壁を拭いていった。
俺はと言うと、昨日はほとんど確認出来なかった二階に上がって宿泊部屋を見ていった。
外観からは分かりにくかったが、結構広い建物らしく、個室が六つに共用の大部屋が二つあった。
布団などの一式はほとんど残っていなかったが、まだ使えそうな寝具も少しあったので外へ持ち出して干していく。
「トレイルー、二階はどうだった?」
「思ったよりは綺麗な状態だったな。布団も少し残ってたしな」
「へー、じゃあ後ですぐ掃除するね。そしたらトレイルも今日から使えるもんね」
「ああ。ちょうどダブルベッドサイズのもあったぞ。フラン、今晩どう──いてっ、いててっ! 冗談だよ、冗談!」
四本の箒にタコ殴りされたので慌てて撤退。
雑巾を一生懸命に絞るナズにも声を掛ける。
「よ、ナズ。頑張ってるな」
「はい、結構大変ですね。私は非力ですのであまりお役に立ってないかもしれませんが······」
「そんな事はないぞ。それに、お前にはこの後ダブルベッドで俺と添い寝するという大事な──いて! いてっ! 分かったよフランっ! 冗談だって!」
「あ、あははは······」
フランにシバかれる俺を見てナズは苦笑していた。
二人の手伝いもあって掃除は驚くほど早く進み、昼になる頃には一階の酒場部分はほとんど片付いた。
「ふう~、良い汗かいたあっ。トレイルー、ナズちゃーん、お昼にしよーっ」
「へーい」
「はーいっ」
昼飯はフラン特製の玉子サンドにサラダサンド。
「肉は無いのか、肉は」
「あ、文句言うならあげな~い」
「すみませんでしたっ、フラン様! どうかお情けを!」
「はい、よろしい」
「あははは。トレイルさんとフランさんは本当に仲が良いんですね」
「うん。幼馴染みだからね。長い付き合いのせいでこうなっちゃった」
「昔は俺の言うこと聞いて可愛いかったんだがなあ」
「むっ。今は可愛くないの?」
「滅相もない」
「あははは」
和やかで充実した時間がしばし流れたが、嫌でもこれからの現実的な話題になってしまう。
「でも、トレイルはここが住める状態になったら次はどうするの?」
「そこなんだよな、問題は」
雨風の凌げる場所は手に入った。野宿は回避出来た。
しかし依然として俺は無職。
今日明日に迫る緊急の問題を回避しただけで、現状はほとんど好転していない。
「仕事は何か見つかった?」
「いや。全く。どこも似たような境遇の奴らが押し掛けて定員オーバーだ」
「そっかあ」
「フランはそう言えば何か仕事してるのか?」
「う·········」
目を泳がせるフラン。
「わ、私はほら。叔母さんの身の回りのお世話を」
「なるほど、職無し居候か」
「う、うっさいっ。ちゃんとご飯とか作ってるし、掃除洗濯、家事は全部やってるもんっ」
「そうか。良い嫁になれるな」
「え? そ、そう? えへへ······」
ともかく、フランは問題ないようで羨ましい限りだ。
「ナズの方は? お前ならスキル持ちだし、仕事の口には困らないんじゃないか?」
「あ、いえ······その、私は······」
と、何故かナズが口ごもった。その横のフランも苦い顔をしていた。
「ん? どうしたんだ?」
「えっとさ、トレイルも知ってるとは思うけど······ナズちゃんはほら、魔人だから······」
「······ああ、そういやそうだったな」
「······はい」
俺達人間には種類がいくつかあるのだが、俺やフランのような大多数を占める人種をレグマンと呼び、それ以外を亜人と呼ぶのが常識となっている。
圧倒的多数のレグマンが牛耳る社会では亜人に分類される魔人やエルフ、龍人などは差別的な扱いを受けるのが珍しくない。
「私のような亜人は、確かな身分証が無いと市民権が保証されないんです。王国軍は対魔王のために特例で雇ってくれてましたが、そこを解雇された今となっては······どこも雇ってくれないでしょう」
「そうなのか」
「はい。だから、亜人でも市民権が保証されると言われてるミッスル地方の新興都市に行こうとしてたんです。そこで奴隷商人に捕まってしまって」
そこから先は俺も一度聞いてる話だった。それで今更ながら合点がいった。ミッスル地方はかなり遠い。わざわざそこを目指して旅してたのはそういう事だったのか。
「じゃあ、ナズもしばらくはキツいかもな」
「はい······私のような者を雇ってくれる所はあるのでしょうか?」
「それは何とも言えんが······俺が雇用主ならすぐ雇うんだがな」
「あはは、そう言ってもらえるだけでも嬉しいです」
まあ、俺も職が無い分際だから口先だけだが──
·········待てよ?
「············」
「トレイル? どうしたの、いきなり黙っちゃって」
「そうか。そうだよな。何も雇ってもらわなきゃ駄目なんてルールは無えんだったな」
「え?」
なんで気づかなかったんだろう。素晴らしい選択肢があったじゃないか。
「よし。決めたぞフラン、ナズ」
『??』
「俺は自分で仕事作るぞ」
『えっ?』
二人はキョトンと目を丸くしていた。
お疲れ様です。次話に続きます。




