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本日5本投稿予定です。

 


 軍施設の中にある部隊長の執務室。



 そこは、ついこの間トレイルがクビの宣告をされた場所だ。今そこでは、当の宣告者のペスト中隊長と、トレイルの同期生のスティングが向かいあってグラスを交わしていた。


「いや、予てよりの人員削減も大分進みましたなあ。これで穢らわしい亜人の連中や下級民はほとんど掃除出来たでしょう」

「ふん。当然だ」


 愛想笑いを作るペストに、スティングが鼻を鳴らす。


「そもそも亜人なんて軍に組み込むべきじゃなかったんだ。あいつらの体にはモンスターの血が流れている。いつ人の肉を喰らってもおかしくないんだ。あんなのと寝食を共にすると考えただけで吐き気がする」

「ええ、まったくですなあ」

「それに、どこぞの馬の骨とも知らない田舎者や農民もだ。あんな学も無い連中と同じ扱いされるだけでも怒りで目眩がしそうだったよ」

「ええ、ええ。そうでしょうとも」


 時に坊っちゃん、とペストがスティングを伺うようにして覗き見る。


「ところで、あの男の報告書を偽造して追い出した件。お気に召しましたかな?」


 その話を聞くと、スティングは満足そうに口元を大いに歪めた。


「ああ、良くやってくれたね。十分な働きだったよ。おかげで一番忌々しい奴を追い出せたんだからね。ちなみに、どんな()()で上に奴の悪行を報告したんだい?」


 ペストも薄笑いを持って答えた。


「はい。『トレイル見習い兵は素行最悪、婦女子への猥褻な行為多数、同期生との金銭トラブル絶えず、さらには協調性皆無、公共の場への迷惑行為の多々、国家への不満を公然と叫ぶ事多く、危険思想の持ち主で──』」

「ハッハッハッ! 分かった、分かった、もういい」


 並べ立てられるでっち上げの悪評を聞いて、スティングは愉快そうに笑い飛ばした。



 もっとも、適当に並べ立てられた悪評の項目の何個かは満更でたらめではないと言う事実を二人とも知らなかったが······。



「これで行き場を失った連中が市井に溢れて、犯罪行為に手を染めて民衆の反感を買うだろう」

「ええ、そのお陰で現執行議員らの軍縮政策は大きな批判を受けるでしょうな。そうすればお父上ら保守派議員の発言力も強くなる」

「それもこれも、あの新興派(バカ)どもが民心尊重法なんて言う馬鹿げた法を作ってくれたお陰さ」



 二人の会話の内容には次のような社会の背景がある──




 この世界の現行の政治体制は、民主主義に近く、市民からの推薦によって選ばれた執行議員という者達によって国家は運営されている。


 しかし、執行議員は一枚岩ではなく、民衆の代表たる新興派という勢力と、ノビリティ主義の貴族達から構成される保守派の二大勢力が常に争っている。


 保守派はかつての君主制や貴族の強権、レグマン主導の社会などの旧体制を取り戻そうと考えている。そのためには今の議会の大半を牛耳り、政策を担っている新興派の議員の失脚を狙わねばならない······。



 そこで目を付けたのが、長年の戦いによって疲弊しきった軍である。もはや戦力もガタガタなのに維持費だけはバカにかさむ。


 保守派は、維持費の問題や労働力の確保などを名目に挙げ、議会に軍の縮小案を提出。議会はこれを受理した。

 新興派にとっても財政難は頭の痛い問題であったため、やむ無く保守派の言う通りになってしまったのだ。


 だが、これは保守派の罠であった。

 縮小政策を担当する議員は保守派になっており、解雇する兵士の人選は全て貴族達の独断によって決定されてしまった。


 解雇されたのは亜人や身分の低い者などが大半であった。

 職を失った彼らが、軍に所属していた事で安定していた金銭面や社会的地位の面で多大な損失を被る事を計算に入れ、わざとそうしたのだ。


 魔王軍との戦いで世界中のあらゆる産業はボロボロであり、復興だけで手一杯な状況。市場を拡大させる余裕すらない。

 にも関わらずそこへ大量の失業者が溢れれば社会はどうなるか······。


 解雇された者達は生きるためにあらゆる手段を講じるだろう。凶悪犯罪や雇用の奪い合いが市民の生活を脅かすに違いない······。大きな社会問題となり、市民は現行の中枢議員たる新興派の執行議員らに強い不満を持つだろう。さらに、亜人などに対する反感感情も大きく育つに違いない。

 そうすれば、保守派がより多くの支持を得る事になる。



 ノビリティ主義の保守派達は、この機会を利用して政治での発言力を強め、更には亜人などを迫害する口実を得る計画を目論んでいるのだ。



 そんな思惑の中。トレイルはそのついでに──というよりはスティングの個人的な恨みにより解雇されたのであった。




「ククク、害虫どもが消える日も近いな」

「まさに。これで本当の人間の世になるという事ですな」

「その通りだ」


 スティングは酔いしれるようにグラスを高々と掲げて言った。



「ハハハ! こうも上手くいくとはな! この先の未来も明るいぞ! 今頃はあの庶民のトレイルもどこぞの寒空で震えているに違いない。愉快だ!」



 邪な乾杯はしばらく続いた。


お疲れ様です。次話に続きます。

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