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 家からニ十分程歩いた森の近く。俺が入った森とは反対の方角に位置する。


 その入り口辺りに俺とフランの叔母さんは来ている。


「え? まさか森ん中で野宿しろってんじゃ······」

「違うわよ。あれ見て」


 と、叔母さんが指差す方には廃屋があった。そこまで古くはないが、窓の硝子は抜けてるし、蔦は壁を半分近く覆っている。


「え、あの廃屋がどうかしたんすか?」

「まあ、そう見えるでしょうね。でもね、一応違うのよ」


 叔母さんが廃屋に向かって歩き出す。俺も続く。森の近くだし何時でも剣を抜けれるようにしておく。


「ここね、数年前までは酒場だったの。でもこんな立地でしょう? モンスターとかが襲ってくる事とかも珍しくなかったの」


 古びたドアに叔母さんが鍵を差し込む。少しガチャガチャした後、錠の外れる音がした。


「それでね、結局お客さんも寄り付かなくなっちゃったし店主も病に倒れてしまってそれ以来放置されたのよ」


 軋んだ音を立ててドアが開く。

 中は薄暗かったが、随分と荒れ果てていた。


「それ以来無法者とかが勝手に入って好き勝手したりするようになってね。だから所有者もほとんど手放した状態なのよ」

「······えっと。その所有者ってつまりおばさんの事っすか?」

「ええ、そうよ」


 寂しげな笑みが振り返った。


「前は主人と一緒にこの酒場を切り盛りしてたの。でも、あの人が倒れてから女一人でやってくのは難しかったわ。だからそれっきり」

「······」

「トレイル君」


 真剣な目が俺を見上げていた。


「はっきり言ってこんな所じゃ、野宿よりはいくらかマシってぐらいでとても安住の場所とは言えないわ。でも、良かったら──」

「あざーっす! いや、まじであざす!」

「えっ?」


 俺は感動のあまり最後まで話も聞かずに叔母さんの手を取ってブンブンと振ってしまった。



「いやーっ、ほんとどうしようかと困ってたんすよ。ここ、使っていいって話すよね?!」

「え? ええ。そうだけど······でも、こんなボロボロなのよ?」

「ボロボロでもちゃんとした家屋じゃないっすか。少し直したり掃除すればマジで宮殿すよ宮殿!」


 俺の生家は片田舎の小屋だったし、兵舎の部屋は共同部屋で自分の部屋じゃなかったしな。


 そこへ来たら、どうよこの家は!


 元酒場だからめちゃくちゃ広いし、造りだってしっかりしてる。敷地だって広いし、なんなら馬小屋らしき建物もあるし。

 だが、なんと言っても2階建てという事だ!


 例え廃屋だろうが、家であることに変わりはない。ほっぽり出されて宿無しになって路頭に迷っていた俺にとってみれば正に城だ。


「うおお~! やったぜぇ! これでしばらく雨風の心配は無くなったー!」


 フランの叔母さんにはマジで感謝だ。

 思わずその場に跪いてお手を拝借する。


「おばさん、この恩は忘れないっす。いつか何かお返しすんで待ってて下さい」

「······もう」


 叔母さんはパッと手を離した。


「いいのよ、改まらなくても。あなたにそんな風にされるとむず痒くなるわ」

「いや、でもおばさん」

「マリーよ」


 叔母さん──マリーさんが笑う。


「恩とかはいいから、貴方は早く真っ当な職に就いてフランを安心させなさい。それが私には何よりもの返礼よ。それと、出来ればだけど──」


 笑みを寂しげにして酒場に振り返るマリーさん。


「ここに住んで有効活用してくれたら嬉しいわ。私には取り壊す事も売る事も出来なかった場所なんですもの」




 こうして俺は巨大で素晴らしいマイホームを手に入れたのだ。


 マリーさんと別れた後、貸してもらったランプで中を照らしてみる。大分汚れているし、椅子やテーブルのほとんどは傷んで壊れかけていたが、なんとかなりそうだ。


「簡単な修復ならフランの魔法でどうにか出来るかもな······」


 完全に腐ったやつとかはともかくとして、少し接合部が外れかけてるのなら直せそうだ。

 明日フランとナズの二人に手伝ってもらおう。


「さて、まずは······」


 今日中に一人で出来る所はやっておこう。


 とりあえず、もう壊れてしまった家具や、何者かが捨てていった空のビンやらゴミを外に運び出す。

 土や埃に葉っぱなどもかなり溜まってるが、これは掃除道具が必要だ。


「ふぅっ、よっ、と。たく、好き勝手に使ってた野郎どもがいやがるな」


 使った皿をそのまま置きっぱなしにしてたり、トランプを広げっぱなしだったり。ほう、フルハウスか。悪くないな。


 いくつかの小物等の再利用出来そうな物は部屋の一角に集め、明らかなゴミだけを排除すること数時間。


 気がついたら、外はすっかり日が沈んでいた。


「あ、もう夜か。でもあらかた終わったぞ。いや~、良かったぜ家にありつけて」


 ──グゥ~──


「次は飯にありつくか······」


 厨房らしき部屋もあったが、そっちも片付けないと使えそうになかったので、俺は庭へ出て薪を拾って火を起こした。

 近くの井戸はヘドロが溜まっていてしまっていたので、近所の井戸から水を汲んで鍋に入れる。そこへ干し肉や山菜をぶちこんで煮ていく。


 うまそうな白い湯気が飯の香りを報せた。


「うっまそー」


 男の鍋料理の完成だ。火から下ろして、皿に盛って食う。


「はふっはふっ、うっま」


 もう頭上の空は紺色になって一番星が煌めいている。いい雰囲気じゃないか。


「·········」


 今日の飯にはありつけた。

 マリーさんのおかげで、とりあえず拠点は出来た。

 だが、俺の現状はあまり改善されてはいない。宿の心配は要らなくなったくらいだ。

 生きていく糧、術、つまり職に関してはまだ何も進展はない。


「儲ける方法かぁ」


 何か俺の力を活かせる方法は無いだろうか。

 そう言えば、昨日はハンター紛いの臨時ボーナスが入ったっけ。何度もある事じゃないのは分かってるが、ああいう仕事が毎日ありゃなあ。


 いっそハンターになるか。だが、俺はモンスターの討伐は得意だが、素材の回収や専門的な解体知識は持っていない。ハンターの仕事の目的は『モンスターを殺す』事ではなく『モンスターの素材を集める』事が主なんだ。


 となると、俺にはハンターの仕事も難しそうだ。一番現実的ではあるんだが。今から勉強しようにも時間が無いし、勉強方法も分からない。


「どうすっかなあ」


 まだまだ不透明な未來だ。未定な予定をどう埋めていくか。就職は難しそうだし······。


「······いや、今は飯食お」


 悩むのは明日だ。


 今日は飯食ってさっさと寝よう。疲れた。



 家の中に入り、荷物を枕にして外套を布団にして寝る。


「ふわぁ~·········」


 明日になったら宿屋に行って鍵返さなきゃな。前払い分は勿体ないが、今はこんな家があるんだ·······。




 まだ先の事なんて分かんねえけど。


 なんとなく、ここから何かが始まってくような感じがする。


ここまでが序章となります。


もし、続きが気にならなくもない。と思って貰えたら、ぜひブックマークをよろしくお願いいたします。


今後の投稿は主に土日になる予定ですので、少し不規則になるかもしれません。


どうぞよろしくお願いいたします。


お疲れ様です。次話に続きます。

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