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心に鬼を宿して

 モンスターが外に普通に出ている事を誰かに言う訳にはいかないが、諸事情によりマナには共有した。


 俺の妹だから誰にも言わないだろう。


 「お兄ちゃんとの秘密⋯⋯」


 とか言ってたし問題ない。


 楽になった点がある。


 それは着替えだ。


 ライムによって制服と探索用の服に切り替えるのが移動中に可能になった。


 防具の性能を落とす訳にはいかないので、アリスの同行は未だに健在だけどね。


 ナナミと三人で行く事が増えた気がする。


 着替えは持って行っていると話している。


 「そう言えば二人って、一緒に探索しないの?」


 「あー」


 確かに、もう種族をバレたくないって言う理由は無くなった。


 それが無ければ俺はナナミと一緒に探索したいと思う。


 彼女の探索の仕方が気になるからね。


 自然のナナミと目を合わせる。


 「どうする?」


 「⋯⋯心の整理ができたら、俺から誘うよ」


 「分かった。待ってる」


 ギルドにやって来て、受付を通す。


 「最近は可愛い子を引き連れてるね〜」


 「からかわないでください」


 明るく元気の受付嬢ヤエガシさんに二人の事をいじられる。


 「そう言えば、もう六層は行けるんですか?」


 「それがまだなんですよ。今はより上位の探索者に調査依頼が出ている感じです。高校生の御三方は絶対に、六層に降りてはダメですよ?」


 人差し指を俺に向けながら忠告する。


 一番警戒されているのが俺って⋯⋯酷くない?


 確かに、好奇心で突き進みそうだけどさ。それは一人の場合だ。


 だいたい、ナナミだって好奇心で突っ込みそうなモノだ。


 「未成年でも行ける場合とかありますか?」


 「一応あるけどおすすめしないよ」


 「一応参考までに聞きたいのですが⋯⋯」


 「探索者個人のデータ成績で一定以上を超えた人が同行する事が条件」


 つまりは強い人と一緒なら問題ないって事か。


 未成年に調査の経験をさせるのもアリって言うギルドの方針か?


 だけどそんな人は都合良く居ないわな。クランに入らない限り。


 ナナミは人付き合いを避けてクランの誘いを断り、俺はサキュバスがバレたくないからクランに入りたいとは思わない。


 防具はダンジョンの中でじゃないと着れない。トイレの中は狭いし女子更衣室に入る訳にはいかない。


 倫理的に当然だ。


 「別にキリヤだった問題ないと思うけどな」


 「大問題だろ」


 「だってキリヤはさ、女性をそんな風に見ないじゃん。不思議だよね」


 「そうかな。世の中そんな人もいると思うけどな」


 恋愛感情なんて難しい話は俺にしないで欲しいね。


 ナナミが防具に着替え終わったので、俺達は別々の入口でダンジョンに入る。


 「じゃあね」


 アリスとはまた後で合流である。


 中に入ると、全員が影から現れる。


 「これだと、カードの意味って無いよね」


 なのにダンジョンの外だとしっかりカードはあり、中だとカードは消える。


 一体どう言うシステムなのだろうか。


 キュラから細胞を貰い、五層へと向かう。


 ゾンビとの戦いも飽きたし、仲間の成長も難しくなって来る。


 慣れは成長の妨げだ。


 「六層、行きたいなぁ」


 と、忘れるところだった。


 現在、俺の服はライムだが二体分しか使われていない。


 なので、本体のライムはバックパックに変身してもらってその中に色々と入れている。


 ローズに頼まれた物を渡して、ペアスライムのローラに食べさせていた。


 「ありがとうございます主人」


 それと魔法が使えるようになったゾンビのリーダーであるジャクズレに杖を渡す。


 魔力の伝達速度と魔法構築スピードを上昇させ、魔法威力に補正が入るらしい。


 杖なんて使わないので良く分からないけどね。


 「ありがとうございます。このジャクズレ、主君のお役に立てるよう邁進する所存です」


 「お前も喋るんだな」


 ちなみに名前の由来は蛇崩川である。


 まじでいつの間にか進化してたんだよなゾンビ。


 対してコボルトは進化してない⋯⋯あの日の戦いがトリガーになったのは間違いないだろう。


 現在は六月三日、だいぶ時間は経過したがあの時の苦しみは今でも心に残っている。


 マナの件以降、襲われる事は無かったがそれが逆に不気味である。


 何かしらで一区切りしない限り、俺はナナミと一緒に探索できないと思う。


 「今日は魔法の練習をしようと思う。魅了は無しな?」


 「そうですね。数も増えて来ましたし。良いと思います⋯⋯そろそろ師匠の顔も曇って来ましたので」


 それ最終的に怒られるの俺じゃないだろうか?


 ますます先生のところに行けない理由ができてしまった。


 アララト班を引き連れて俺は魔法の練習をする事にした。


 自分を剣として魔法を使うのは結構簡単だが、数多くの魔法を同時に操り的に当てる、これがとても難しい。


 世の中には魔法が卓越した人もいるが、凄いとしか言いようがない。


 魔法の練習は種族を得て、魔法を得ると言う二段階の条件が必要だし、運にも影響される。


 元々人間には無かった魔力を扱うので、最初は相当難しい。


 「その点、すぐに魔法が使えれるように調整されたのは、運が良かったのかもな」


 日本には最上級の探索者は国から表彰される制度があるのだが、その中で『賢者』の称号を持つ人がいる。


 なんでもその人は同時に十以上の別の種類の魔法を展開して操るらしい。


 一体どう言う脳の作りをしたらそのレベルに到達できるのだろうか。


 「これだから強くなるのは止められない」


 その頂きに立つまで、立った後でさえ、俺は強くなれるんだ。


 まずは目の前の努力を積み重ねる。


 「魔法と飛行能力は相性が良いからな。頑張らんと」


 俺はゾンビを相手に訓練を終えて、皆で集合してから帰る事にした。


 ライムバックパックのお陰で普段の数倍は多く魔石を持ち帰れる。


 「ユリ様ユリ様」


 「どうしたの?」


 「自分の新しい戦法、是非ともお見せしたく思います」


 「それは楽しみね。師匠のところで手合わせしましょうか」


 ユリとローズの姉妹の様な仲の良さはユリが一歩先に進化しても同じか。


 「ローズ、それ俺にも見せてよ」


 「ッ! しゅ、主人には完璧になってからお見せしたく⋯⋯」


 「なんでっ!」


 「し、失敗した姿を、見られたくございません」


 別に良いのに?!


 ただ、顔を赤らめてそう言うローズの幼さが可愛かったので意見を受け入れる。


 「あ、主様! 師匠のもとで私も新しい技を会得したんですよ!」


 対抗心か?


 ユリが対抗心を燃やした事でライムも反応してしまう。


 それに他の仲間も。


 「それならこのジャクズレの魔法も⋯⋯」


 「我々の影操術の⋯⋯」


 「あ⋯⋯うん。次回皆の成長を見させてね」


 現在は四層を移動中。


 最初の人狼と戦った辺りかな?


 「⋯⋯ッ!」


 ローズの強い殺気を感じたので振り返ると、既に前方の空間に向かって走っていた。


 その速度は今までの比では無い。鬼の顔をしたローズが向かった、最初の人狼と戦った空間へ。


 目を凝らして見ると⋯⋯誰かが居る事が分かった。


 ローズの怒り方的に誰かは予測がつく。なら、俺が行かないのはおかしいだろう。


 高速飛行で追いつこうとしたら、またもや邪魔が入る。


 「今回は容赦できませんよ、トウジョウ」


 「しゃーなしやけど、年上に呼び捨てとは感心せーへんでサキュ兄」


 俺は高速飛行で奴に接近した。


 「今回はうち有利やで。なんせ、自分には弱点があるからの!」


 「おまっ!」


 トウジョウが爆発するポーションをホブゴブリン達に投げやがった。


 蓋は空いていない。割れた瞬間に爆発するのか。


 「弱点⋯⋯随分と下に見られてますね」


 爆発する前にユリが刀でそれを吹き飛ばした。


 天井で爆ぜる。


 「主様、我々の身は我々で守れます。気にせず、存分に戦ってください」


 「⋯⋯ああ!」


 かなりの速度で投げられたポーションを切らずに吹き飛ばした。


 強くなってるんだ皆。


 「それで、俺の弱点がなんだって?」


 「へへ。ソウヤ、早めに頼むで。こりゃ時間稼ぎが難しい」


 木の根っこが地面を砕き伸びて来て、その先端にはポーションがある。


 「⋯⋯うちの土俵でどこまで戦えるか、見せーな」


 様々な色のポーション、効果の分からないのが多い。


 それにまだ『急成長』を利用した戦い方もあるだろう。


 この空間に自然が広がるほど、相手に有利な空間へと変わる。


 「む?」


 「だから、どうした?」


 どんだけ相手が有利になろうと、隠している全力を出そうが関係ない。


 俺の総てを持って、制圧する。


 今の俺は昨日の俺より、前の俺よりも速くて強い。

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