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sideユリ『間違った選択と決意』

 ライムの分裂隊同士で距離が無制限の【念話】が可能になり、三つの部隊に分かれた日から六日が経過している。


 私のペアスライムはユラなのだが、既に自我が芽生えている。


 ペアスライムの扱いにもしっかりと慣れて、今では安定した稼ぎ、ダンジョンでの訓練、魅了を安定して行えている。


 普段戦う場所で行う訓練は師匠のところで訓練するのとだいぶ違う。


 ご主人様も魅了だけではなく、時には普通に戦う。


 鈍ってしまったらご主人様の身も危険になる。だからその辺はわきまえている。


 今の私は稼ぎ班として動いており、三十体のゾンビを狩って帰っている。


 「ご主人様に褒めてもらいたいなぁ」


 今日はいつもよりも多く狩る事ができた。


 膝枕されながら頭を撫でてもらい、褒めてもらいたい。


 ご主人様が魅了準備をしているのが視界に入る。今日は魅了会議が長引いたのだろう。


 おかげで、魅了が始まる前に戻れそうである。


 このラッキーには私以外にも、仲間達も心の中でほくそ笑む。


 ご主人様の戦う姿が好きだ。それと同じくらいに魅了するご主人様が好き。


 自らが主と認め仲間になったあの魅惑的な雰囲気になるご主人様が。


 「ッ!」


 この心臓を抉り出す様な嫌な気配は、なんだ?


 私は警戒心マックスで後ろを振り返る。背後から向かって来ていたのは、ゾンビソルジャーの進化形態だった。


 「これは⋯⋯中々に難しいぞ。ご主人様に助けを⋯⋯」


 本当にそれで良いのか?


 ご主人様の大切な時間を奪ってまで助けを願うべきなのか?


 それが正しいのだろう。私達が命を落とす事、それがご主人様にとって一番辛いのだ。


 きっと今の状態を維持できなくなる。


 ⋯⋯だけど、私はご主人様に助けを素直に求める事ができない。


 ダークウルフの時も、人狼の時も⋯⋯結局はご主人様が倒した。


 ゾンビソルジャーの進化もそうだ。


 問題はあったけど、ご主人様の活躍は大きかった。


 護るべき、護りたいお方が私達の中で一段も二段もさらにその上を行く。


 護りたいのに、それだけの力を私達は持たない。持っていない。


 「ご主人様。申し訳ございません」


 私は間違った選択をしていると思います。


 ですが、どうしても確認したい。証明したい。


 私のわがままで仲間を危険に晒す事はできない。


 「私がアイツを倒す。皆は⋯⋯手を出さないで」


 危険だから。


 私は強くなったはずだ。師匠のところで戦いを教わった。


 技を学んだ、知識を蓄えた。


 少しでも強くなっていると確信を持ちたい。ご主人様を護る自分であれると思いたい。


 これからもずっと、ご主人様に護られる存在でありたくない。


 ご主人様に頼っていたら、いつになっても私は強くなれない。


 「私を守ってくれる存在はいない。全力で行くぞ」


 私は短刀を抜いた。


 「ユリ、落ち着け」


 「ダイヤ⋯⋯止めるな」


 「止めん。我々に戦略を共有しろと言いたいんだ」


 「え?」


 私のグループメンバーを見渡す。


 全員が決意の炎を瞳に灯していた。


 誰もが私達が会った中で一番強い相手に臆してなかった。


 ああ、皆一緒なんだ。強くなりたい。強くありたい。強くならなくてはならない。


 私達がこのように想い、考えるための自我を与えてくれたご主人様のために。


 その気持ち、痛い程分かる。


 「ゾンビ、コボルト、私が前衛に行く、ダイヤ達は背後から攻撃、ホブゴブリンはバックアップに徹して」


 私達の中で魔法を使えるのはダイヤのみ。中距離攻撃を可能にするのは影を操れるウルフ達だけ。


 全員が肉弾戦しかできない。


 「ふぅ。行くぞ皆!」


 全員が咆哮をあげ、奴に向かって一歩を踏み出した。


 ゾンビのスピードは少し遅い。そこを補うためにホブゴブリン達が投げる。


 ゾンビが相手の攻撃を誘い込み、コボルトが部位破壊を狙う。


 奴の鞭のように伸びる腕は厄介だ。その攻撃を防御し反撃するためホブゴブリンが動く。


 背後から隙を狙ってダメージを与えていくのがウルフ達。


 私のやるべき事は⋯⋯全力で頭を叩く。


 「身体が小さくたって、力には自信があるんだ」


 相手の持っている武器は三角ホーである。持ち手が長く槍のようだ。


 攻撃の合間を縫って接近し、相手の頭に短刀を突き立てる。


 ぐにゃりと凹むだけであり、大したダメージにはなってない。


 「硬い⋯⋯」


 蹴飛ばして距離を取り、コボルト達に攻撃を任せる。


 相手の防御力は仲間のゾンビの二倍以上だろう。


 簡単には切断できないし突き刺す事も難しい。


 「ぐっ」


 私もしっかりと攻撃に参加していたが、蹴りを腹に諸に受ける。


 だけど、踏ん張る。


 「気合いっ!」


 師匠がアイリスに言っていた。


 想いの力は時に、平常の全力を超える。


 相手の足を両手で掴んで、全力で引っ張る。


 バランスを崩した相手は背中から地面に倒れ込み、そこを狙って全員で攻撃を加える。


 数の暴力⋯⋯だが奴の攻撃力は想定の上を行っていた。


 一振り、ブォンと空気を揺らす音が鼓膜を撫でた瞬間、吹き飛ぶ仲間達。


 「強いっ」


 知っていた。その強さは。


 だからこそ、勝ちたい。


 「冷静に立ち回る⋯⋯私の強みはバランスの取れた身体能力だ」


 師匠に言われた言葉を思い出す。


 『ユリ、お前にはアイリスのような馬鹿力もローズのような速力も無い⋯⋯だが逆を言えばローズと違い力がありアイリスと違いスピードがある。全身を使う戦いを覚えろ』


 全身を使う。


 ローズは速くて器用だから足と指先などのテクニックに力を入れている。アイリスは腕力。


 ローズより遅くてもアイリスより速く動き相手の攻撃を避けて接近する。


 ローズに並ぶように全力で蓄えた技術を放出し、アイリスに及ばなくても近づける様な腕力で扱う。


 総てだ。


 「私の総てを持って、貴様を倒す」


 振るわれる三角ホーを回避し、短刀を奴の腕に通す。


 針に糸を通すよりも簡単に攻撃は当てられる。その後が難しい。


 僅かに腐った肉を斬り、肉片が頬にぺちゃりと付着する。


 ダイヤが奴の背中を魔法で攻撃し、強靭な爪で背中を斬り裂く。


 そんなダイヤに奴の裏拳が飛ぶ。


 「ダイヤ!」


 「大丈夫、だ」


 口から血を吐き出しているところから大丈夫ではないと分かる。骨に何かあったか。


 ダイヤの攻撃を受けても平然としているし、どうしようもないのか?


 「諦めてなるものか」


 攻撃は当たらない。逆にこちらの攻撃は通る。


 ならば、まだ勝ち目はある。


 「はああああ!」


 私の渾身の一撃が奴の首を捉える⋯⋯だが、短刀が肉を裂くを事無く空気を斬った。


 「え?」


 ゾンビソルジャーの動くスピードは普通のゾンビよりも速い。


 ゾンビソルジャーの進化系なら当然身体能力は上がっている。

 

 ご主人様もおらず、私達だけ。


 ご主人様によって完全に制圧された前回とは違い、今回は奴の全力を受ける事になる。


 目で追えないスピード、攻撃が入ると確信した時に出る僅かな油断。


 それが奴の、重い一撃を許してしまう結果となる。


 腹を抉るであろう攻撃に備えて歯を食いしばり、目を瞑る。


 「どんなに痛くたって目を背けるな、師匠にそう教わったろ姉御」


 「⋯⋯アイリス、なぜ?」


 三角ホーの攻撃を腕を貫かせながら耐えたアイリス。私が守られた?


 「見えたんだ。たくっ、無茶するなよ」


 三角ホーを抜いて距離を取る敵。


 「大丈夫、なの?」


 「ああ。力は入る⋯⋯だから問題ねぇ。気合いと勇気が俺の取り柄だぜ」


 「ありがとう。助かった」


 「姉御に素直に感謝されるとむず痒いな」


 作戦を建て直す。


 アイリスのパワーは全仲間の中でトップだ。だけど動きがお粗末。


 そこを補填する。


 「ゾンビは正面で攻撃を誘導、コボルトは左右を囲み動きの制限、ホブゴブリンは後ろに回り込みウルフ達と協力して逃がさないように」


 「我も動くぞユリ」


 「分かったよダイヤ」


 相手の動きをできる限り抑える。そうすれば、大きな一撃を与えられる。


 「包囲が完了したら、アイリス、君の出番だ」


 「了解だ姉御」


 「うん。皆、第二ラウンドだよ」

お読みいただきありがとうございます

評価、ブックマークありがとうございます


あと五話?

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