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意外な再会、バディバトル

 「へ、へぇ。鶴巻(つるまき)ちゃんってあの探索者が憧れなんだね。実は俺もなんだよぉ」


 「そうなんですか? なんか、嬉しいな」


 そんなヤマモトと女子校の生徒、ツルマキさんの会話が鼓膜を揺らした。


 サトウがプルプル震えて、すぐにでも暴れだしそうなご様子だ。


 しかし、なんだろうか。


 「まだ二日目の昼だ。一体何があったんだ?」


 一体何があれば、ヤマモトが女子とデレデレに会話できると言うのだろうか。


 サトウではないが、とても不思議に思い遠目で観察している。


 「けっ。どうせすぐに本性を出してフラれるんだよ! くたばれクソ野郎!!」


 今のサトウの言葉をヤマモトが聞いても、負け犬の遠吠えと、余裕を崩さないと思う。


 そのくらい、今のヤマモトはおかしかった。


 容姿の優れた女性がヤマモトと朝食も昼食も一緒にしているのだから。


 「ふむ」


 そんな恋愛事情で興味があるとなると、俺は部長と副部長も挙げたい。


 あの二人は常に一緒で、合宿の雑務をこなしてご飯も一緒だ。


 部長はイケメンだし、副部長も気の利く美しい女性だ。似合っているが、二人が交際していると言う噂は聞かない。


 ま、俺には関係ない事か。


 「あっ」


 ガシャン、とクジョウさんが運んでいたご飯ごと転んだ。


 素早く移動してもバランスを一切崩さないクジョウさんが何も無いところで転けるはずが無い。


 それを証明するように、謝りながら手を伸ばす生徒が一人いた。


 俺は落ちたご飯を拾うのを手伝いに向かった。このままサトウの愚痴を聞くのも面倒だし。


 「ありがとうヤジマくん」


 「気にしなくて良いよ」


 一部始終を見ていた訳じゃないが、何かあるだろう。靴にしろこれにしろ。


 「大丈夫だから、気にしないで」


 俺の空気を察してか、クジョウさんはいつものように無表情で、俺にそう告げた。


 昼からやるのは他校の人とペアを組んでの模擬戦となった。


 さて、ここで問題です。


 俺はどうすれば良いでしょうか。


 当然、他校に知り合いなんていないしカマクラ以外の人間と言葉も交わしておりません。


 「探索者にとってコミュニケーション能力は必要って、マジだったんだな」


 過去にバカにしていた思想に痛感させられる。


 冷静に考えたら、仲間との意思疎通や作戦、チームを組むにしても必要な能力だ。


 「お久しぶりだね」


 「え⋯⋯あっ!」


 俺に話しかけてくれたのは、仲間を失って憔悴して時、ギルドで俺を励ましてくれた先輩探索者さんだ。


 「⋯⋯高校生だったんですね」


 「ああ。二年生さ。そんなに年寄りに見えた?」


 「いえ。立ち振る舞いとかで、大人の女性かと⋯⋯」


 「はは。褒め言葉として受け取っておくよ」


 「普通に褒めてます」


 意外な再会をしてしまった。


 でも、なんで俺に話しかけて来たんだ?


 「実は他校に知り合いや喋った事のある人がいなくてね。少しでも顔を知っている君にと思ったんだ。どうだろうか。ペアを組まないか?」


 「良いんですか? ありがとうございます」


 名前は空条(クウジョウ)さんと言うらしい。


 ヤマモトはツルマキさんと、サトウは田安(タヤス)さんと言う女性とペアを組んでいた。


 二人とも余り人であり、サトウが誘っていた。


 「女の子とペアを組めた。もうこの世に悔いは無い」


 「彼女は良いのか?」


 「俺には未練がある。たとえ神の前でも死なん」


 「それは良かった」


 クジョウさんの方を見ればカマクラに誘われていたが断っていた。


 「人の力量も分からない相手とペアを組みたくない」


 「おいおい。同年代の中で俺が一番強い。お前なら分かるはずだ」


 「ご期待に添えないようだから安心したよ。私はアナタが一番強いとは思ってないし分からない」


 言い争いに発展しそうだったからか、部長が止めに入った。


 模擬戦はスタートし、俺達の最初の対戦相手はヤマモトとツルマキさんペアだ。


 クウジョウさんは青藍色の長い髪を結んでポニーテールに、紺青色の瞳を俺に向ける。⋯⋯やはり大人びて、とても一つ上とは思えない。


 「ツルマキは合気道が得意だ。あの手には捕まってはダメだよ」


 「はいっ。ヤマモトは⋯⋯女性だったら誰でも勝てるので特に対策は不要です」


 「⋯⋯え?」


 クウジョウさんの素っ頓狂な声を聞きながら、模擬戦は始まった。


 始まった瞬間、纏う気配はクール美女から戦士へと変わった。


 鬼の気迫を纏い、自分の身長よりもかなり大きい木製の薙刀をヤマモトに振り下ろす。


 「悪いですが、俺にも譲れない男の闘いがあるっ!」


 普段ならあれで決着がつくであろうヤマモトだったが、今日は隣に女の子が居るためか、一味違った。


 槍を器用に扱い、薙刀の軌道をずらして見せたのだ。


 「やるね」


 回転蹴りを瞬時に放って距離を離す。


 「全然、普通に勝てなさそうだけど?」


 「すみません。ちょっとしたイレギュラーがありました。普段ヤマモトの全力を見れてないので、対策方法のアドバイスができません」


 「なぁに構わないさ。初代の探索者達は何も知らない空間で開拓を進めたんだ。それは今の最前線も変わらない。未開の迷宮より、攻略難易度は高くないだろう?」


 「それはそうですね」


 様子見しているツルマキさんに攻撃を同時にしかけると目線で合図を送り合い、同時に地を蹴った。


 「ここを通りたければ、俺を倒していけ!」


 「じゃあ、そうさせて貰うよ!」


 回転して、遠心力を乗せたクウジョウさんの薙刀が横薙ぎでヤマモトを襲う。


 「なんっ」


 カンッ、と激しい衝突音と共にヤマモトがジリジリと横にスライドさせられる。


 「なんて力を⋯⋯」


 「これが、闘い方だからね」


 振り上げ、防御されている場所に向かって振り下ろす。単純に見えてとても複雑。


 重心の移動、体重の掛け方、薙刀の振るう速度と高さ、そして角度。


 総てが計算された上で叩き出されるその攻撃は⋯⋯俺が全体重を乗せた剣よりも重いだろう。


 最低限でシンプルな動き、それでいて最大限のパワーを出して、叩き斬る流派か。


 「ぐっ」


 ヤマモトが苦悶を浮かべる中、その横を通ってツルマキさんへと接近する。


 「うぅ、えいっ!」


 そんな可愛らしい声とは裏腹に、かなりの速度がある拳を胸ぐらに伸ばして来た。


 あのまま回避しなければ、俺は投げ飛ばされていただろう。


 「⋯⋯一旦引くか」


 隙だらけだったが、それが逆に怪しかったので、バックステップで距離を取る。


 強者は隙すら偽るからな。


 運命の魔眼を使ったら、少しは楽に闘えるのか⋯⋯いやいや。ここでは使わないでおこう。


 変に信じて、油断してしまわないように。俺の敗北はクウジョウさんの敗北に繋がる。


 己の力だけを信じて闘うんだ。


 「ふぅ」


 俺は姿勢を正して、両手で剣を握り掲げる。


 真っ直ぐ振り下ろすだけの基本に忠実な攻撃。


 「少しだけ、お借りします」


 俺が見た、クウジョウさんの動きを剣の状態で再現する。そのための微調整も行う。


 最低限の動きで、最大限の効果を。


 「はっ!」


 肺の空気を全て吐き出し、ツルマキさんへと接近する。


 「きゃっ」


 「貴様ああああ!」


 「ぐっ」


 なんだこれ⋯⋯想像以上に受け止められた時の反動がでかい。


 手が痺れる。その隙を攻撃を防御したヤマモトが逃すはずがない。


 だけどこれはチーム戦だ。


 「させないよっ!」


 ヤマモトへと伸びる薙刀が勝負を決める。


 片方が負けた時点でそのチームは敗北となる。


 「ごめんね。ツルマキちゃん」


 「しかたないよ。あの人、部活でエース級に強いもん」


 え、そうなの?


 納得はできる。


 未だに反動で手がピリピリするのに、クウジョウさんは平気そうだ。


 キメ細やかで細い身体⋯⋯一体どんな訓練をしたんだろう。流派の細かい特徴は⋯⋯。どうやってあのパワーを⋯⋯。


 「いかん。悪いクセが出た」


 頭を冷静にしつつ、手を万全にするためにも休むか。


 クウジョウさんもそうそうに甘そうなチョコレートを食べていた。


 「ん〜。あ、ヤジマくんもいるかい?」


 「いえ、大丈夫ですよ。ありがとうございます」


 ホクホク笑顔でチョコレートを楽しむクウジョウさんを見ていると、クールなイメージも、闘いで見せた鬼人の如き気配も、感じなかった。

お読みいただきありがとうございます

お休みをいただきました。ありがとうございます

今回は遅れましたが、明日から通常運転にします(ෆ`꒳´ෆ)

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